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超板金 山形ロボ ―ロボットがランドマークになった街で、怪異が目を覚ます―  作者: bobson3b


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194 2026年5月28日(木)_04 友人の欠席

登校時間。


まだ朝の空気が少しだけ澄んでいる感じがする。

校門をくぐると、いつものざわざわした声が広がっていた。


教室のドアを開ける。


机。

椅子。

黒板。

廊下にある、建付けの怪しいロッカー。


――そして、瑠羽の席。


いつもなら、

一番に来て、

窓際でスマホをいじっているはずの場所。


今日は、空いていた。


(あれ? 珍しい?)


席に大きめの鞄を置いた瞬間、

ひょい、と横から顔が出る。


星奈だ。


「ねえ陽葵」


間髪入れずに言う。


「最近ヤマセン、湿布臭くない?」


陽葵は一瞬固まる。


「え?」


星奈は腕を組んで頷く。


「なんかさ、奴が教室入ってくるとさ」


「ふわってくるのよ」


顔をしかめる。


「しかも動き、めっちゃぎこちないし」


そのタイミングで、心愛も合流してくる。


「それね」


自信満々に言う。


「あれはギックリよ」


陽葵が目を瞬かせる。


「ぎっくり……?」


心愛は大きく頷く。


「うちのばーちゃんと一緒、

立ち上がるとき、あんな感じになるの」


星奈が納得した顔をする。


「あー、あの“そーっと座るやつ”ね」


陽葵は曖昧に笑う。


「あ……ああ……そう、よね……」


(……たぶんこないだの戦闘でだ、間違いない)


心の中でだけツッコむ。


心愛は急に話題を変えた。


「あ、そうだ」


スマホを取り出す。


「昨日さ、TikTokで見たんだけど、新しいアプリ?」


画面を見せてくる。

陽葵も覗き込む。


「アプリ?」


心愛は楽しそうに頷く。


「そうそう、“ルスコ”っていうの」


指でスクロールする。


「なんかね、会話が10時間しか続かないの」


星奈が眉をひそめる。


「え、それなに」


「不便じゃない?」


陽葵も同意する。


「なんか……絶対不便かも?」


心愛は笑う。


「でもさ、広告とか無いんだって」


「安心じゃない?」


星奈が腕を組む。


「逆に危なくない?」


「なんで運営してるの?」


心愛はちょっと得意げに言う。


「なんかね、議員?が資金出してるらしいよ?」


「それで運営してるとか」


「あとさ」


画面をスライドする。


「クーポンもあるの」


陽葵が食いつく。


「あ」


「コンビニの唐揚げ、10%引きだ」


星奈が即反応する。


「それいいじゃん!」


三人でくすっと笑う。


その流れで、陽葵がふと周りを見る。


「あれ?」


教室を見渡す。


「瑠羽は?」


星奈も振り返る。


「ほんとだ、いないね?」


心愛も首を傾げる。


「いつも一番早く来てるのに」


陽葵が小さく言う。


「あれ……?」


なんとなく。


ほんの少しだけ。


胸の奥に、違和感が引っかかった。


――そのまま時間は進む。


チャイムが鳴る。


ホームルーム。


担任が教壇に立つ。

いつもと同じ、朝の空気。


だが。


先生は、少しだけ間を置いてから口を開いた。


「えー……」


教室が静かになる。


「今日、連絡があります」


その声は、いつもより少しだけ低かった。


「安部 瑠羽さんですが」


一瞬、間。


「ケガをして、現在入院しています」


教室の空気が止まる。

誰も、すぐには反応できなかった。


---


三時間目の休み時間。


教室はいつもより少しざわついていた。

誰かが小さな声で話している。

笑い声もあるが、どこか落ち着かない。


陽葵と心愛は、机を寄せて話していた。


さっきのホームルームの話。

頭では理解しているはずなのに、

どこか現実感がない。


そのとき。


ドン、と机に手がつく音。


星奈が、少し息を切らして立っていた。


「ねえ」


声が、いつもより低い。


「おな中の後輩とか、友達とかに聞いたんだけどさ」


一瞬、言葉を飲み込む。


「……瑠羽」


間。


「今、意識不明みたい」


陽葵の思考が止まる。


「……え?」


ゆっくり顔を上げる。


「意識不明って……何?」


言葉の意味は分かる。


でも、意味が分からない。


心愛がすぐに前のめりになる。


「どこに入院してるの!?」


「お見舞い、行かなきゃ!」


星奈は困ったように首を振った。


「それがさ……」


言いにくそうに視線を逸らす。


「なんか……アメリカの病院に転院するらしいの」


陽葵と心愛が同時に固まる。


「え……?」


星奈が思い出すように言う。


「なんだっけ……」


「マサチュー……セッシュチュー……?」


眉を寄せる。


「メアリー?ナナリー?」


陽葵が、ぽつりと呟いた。


「……マサチューセッツ州の」


二人が見る。


陽葵は、ゆっくり言った。


「聖メアリー・ティーチング大学病院?」


星奈がぱっと顔を上げる。


「それ!」


指をさす。


「それそれ!」


「なんで知ってるの?」


陽葵は少しだけ黙った。


視線が落ちる。


机の上。


自分の手。


そして、静かに言った。


「……いち姉ぇが」


少しだけ声が震える。


「怪我して」


「入院してるの」


空気が止まる。


星奈の表情が固まる。


「あ……」


言葉が出ない。


小さく息を吸う。


「ごめん」


もう一度。


「……なんか、ごめん」


陽葵は首を振る。


「ううん」


でも。


その声は、少しだけ弱かった。


教室のざわめきが、

遠くに聞こえる。


---


三時間目の授業。


教師の奏でる数式の説明が、

陽葵の耳には、うまく入ってこなかった。


視界の端で誰かが笑っている。

誰かが席を立つ。


でも。


全部、遠い。

そのとき。


ふと。


頭の奥に、別の声が浮かんだ。


――水曜日。


母からの電話は、アメリカからだった。


姉が入院している病院――

聖メアリー・ティーチング大学病院。


その近くのホテルにいると、

淡々とした声で告げられた。


回線越しの音はわずかに遠い。

けれど、言葉だけは妙にはっきりしていた。


「……全部は言えないけど」


その一言で、空気が変わる。


いつもより低く、

そして、どこか覚悟を含んだ声。


「この世界にはね」


一拍。


「“怪異”っていうものがあるの」


陽葵は、そのとき思わず笑いそうになった。


(なにそれ)

(都市伝説?)


冗談だと思った。


でも。


母の声は止まらなかった。


「それと」


「それと戦ってきた組織が、世界中にある」


陽葵は、黙って聞いていた。


「1999年にね」


少しだけ間を置いて。


「世界は一度、守られたの」


「多くの犠牲と引き換えに」


「結界が張られた」


現実感がない。


言葉が、どこか浮いている。


理解できない。


それでも――


耳だけは、離れなかった。


「その結界を維持する条件があるの」


静かな声。


「怪異や、異端の技術に関する記憶の――」


わずかな沈黙。


「忘却」


「そして、沈黙」


陽葵は思わず眉をひそめた。


「……何それ」


自然に出た言葉だった。


母は、小さく息を吐く。


「ごめんね」


「今はまだ全部は言えない」


一拍。


「でも、お姉ちゃんの怪我も……これに関係してる」


その言い方は、どこか諦めていて。

それでいて、必死に守ろうとしていた。


それでも、母は続ける。


「でもね」


少しだけ声が柔らぐ。


「知らないままでいる方が、危ないこともあるの」


陽葵は、何も言えなかった。


受話器の向こうで、

かすかに生活音が混じる。


遠い国の、見知らぬ部屋。


そこに母がいるという現実だけが、

やけに鮮明だった。


「陽葵」


静かに、名前を呼ばれる。


「あなたは――」


言葉が一瞬だけ詰まる。


「普通の子でいてほしかった」


その一言が、静かに、けれど確かに重く落ちた。


「でも」


短い間。


「あなたも」


一拍。


「狙われている可能性がある。かなり高い」


その瞬間。


胸の奥で、何かが引っかかった。


“やっぱり”という感覚と、

“嘘であってほしい”という願い。


相反する二つが、同時にせり上がる。

「落ち着いて聞いて」


母の声は静かだった。


けれど、そこに逃げ場はなかった。


「あなた、もう二度襲われてるでしょう」


一拍。


「これはね、無視していい話じゃないの」


――すでに。


陽葵は、二度。


襲われている。


そして。


それを母が知っているという事実が、

この話が“ただの作り話ではない”ことを、

何よりも雄弁に物語っていた。


あの異様な存在。


人間ではない、“何か”。


そして。


カル。


猫だったはずの存在が、

人の姿へと変わり。


当たり前のように、

魔法を使った。


異世界の存在。


(……否定できない)


理解ではなく、

感覚が先に認めてしまっている。


遠いはずの声が、

やけに近く響く。


「だから」


母は、はっきりと言った。


「もう手は打ってあるわ」


「護衛をつけたの」


その言葉で、現実が形を持つ。


「……護衛?」


かろうじて絞り出す。


「ええ」


「山倉さんが、あなたのそばに行く」


その名前を聞いた瞬間。


胸の中で、点だった違和感が線になる。


――あの人。


強くて。


どこか、普通じゃない。


(……あのおじいちゃん、お母さんと知り合いなの?)


バラバラだった感覚が、

一気に繋がっていく。


母の声が続く。


「陽葵」


今度は、少しだけ柔らかい。


「怖がらせたいわけじゃないの」


「でもね」


短い沈黙。


「もう、“何も知らないまま”ではいられないと思う」


そして、少しだけ苦笑混じりに。


「それにあなた」


「止めても隠しても、絶対こっそり首突っ込むでしょ?」


陽葵は、言葉を失った。


「だったら」


「自分で“正しい”と思うことをやりなさい」


「お母さんと、お父さんが守るから」


その言葉が、ゆっくりと沈んでいく。


逃げ場が、消える。


そして同時に――


支えも、そこにあった。


恐らく、両親は知っている。


自分よりもずっと深く、

この“異常な世界”を。


その確信だけが、静かに残る。


日常が、ほんの少しだけ形を変えた。


陽葵は、何も言えなかった。


ただ、


耳元で響く母の声と、

自分の鼓動だけが、やけに大きく感じられた。


――そして今。


教室。


黒板。


チョークの音。


全部、遠い。


(……じゃあ)


浮かぶのは、ひとつだけ。


瑠羽。


(もしかして)


胸が、強く締め付けられる。


(瑠羽も……)


(怪人に襲われたんじゃ……?)


昨日。


「お腹の調子が悪い」


そう言って、早退した。


そのときは、

ただ少し心配しただけだった。


でも。


もし。


あの後――


怪人に襲われてたら?


陽葵の手が、無意識に握られる。


黒板の音が、さらに遠くなる。


(……違うよね)


(違ってほしい)


(ただの偶然だよね)


でも。


心のどこかが、はっきりと告げていた。


――偶然じゃない。

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