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超板金 山形ロボ ―ロボットがランドマークになった街で、怪異が目を覚ます―  作者: bobson3b


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190 2026年5月27日(水)_03 御殿堰

浮雲平輔がシミュレーターのハッチを開けて降りてきた。


文翔館地下ドックに据え付けられた操縦シミュレーター。

重い装甲扉が閉まる音が、低く響く。


浮雲はヘッドギアを外し、しばらく手の中で転がしたあと、

ぽつりと口を開いた。


「……山形ロボの挙動のムラが、無くなってる」


少し考える。


「素直だ」


それだけ言った。


その隣のシミュレーターから、橘陽介も降りてくる。

汗を拭きながら、苦笑した。


「初回は……一応、辛勝でしたけどね」


肩をすくめる。


「二戦目以降は圧倒されっぱなしでした」


浮雲の方をちらりと見る。


「最後に良い経験をさせてもらいました」


そこへ、管理コンソールの方から二人が歩いてくる。


鎌田と早川だ。


鎌田が腕を組みながら言う。


「橘さんの研修も今日で終わりですからね」


「いい締めだったんじゃないですか?」


橘は軽く頭を下げた。


「いえ……それより」


少し表情が柔らぐ。


「片桐さんが一命を取り留めたと聞いて、本当に良かったです」


その言葉に、浮雲がわずかに反応する。


「……ん?」


少し遅れて理解したように頷いた。


「ああ」


早川が横から苦笑する。


「浮雲、無理して話を合わせなくていい」


「お前は、お前でいい」


肩をぽんと叩く。


「社交性は無理しなくていいんだ」


浮雲は少しだけ目を伏せた。


「……ああ、すまん」


そして、少し考えてから言う。


「でも」


「一葉の目標に……なりたくなった」


ゆっくりと言葉を探す。


「安心して回復に専念してほしい」


早川は一瞬だけ黙り、

それから笑った。


「そっか」


親指を立てる。


「がんばれ」


「俺は応援するぞ!」


その横で、橘が鎌田にそっと近づく。


小声で。


「……浮雲さんって」


「いつもこうなんですか?」


鎌田は一瞬だけ考え、


「ああ」


と、あっさり答えた。


「こいつ孤児育ちでな。

まあ、その影響かコミュニケーションがちょっと独特なんだ」


浮雲の背中を見る。


「でもな」


少し笑う。


「基本、優秀だ」


「それと」


指でシミュレーターを指す。


「非常時の状況把握能力は、うちでもトップクラスだ」


橘は、理解したような、

よく分からないような顔で頷いた。


「……なるほど」


すると鎌田が肩をすくめる。


「まあ」


「非常時以外は――」


一拍置く。


「若干、不思議ちゃんだがな!」


その背後で、浮雲が真顔で言った。


「鎌田さん、

聞こえてる」


「俺は、男だ、ちゃん付けはやめてほしい」


地下ドックに、

小さな笑いが広がった。


---


二十七年。


――いや。


二百二十七万七千六百年ぶりに。


浮雲平輔は、コックピットに座った。


ホワイトの肌にぴったりと張り付く対Gスーツ。

薄い素材だが、内部には無数のセンサーと圧力制御チューブが走っている。


座席に体を預けた瞬間、

機体側の固定アームが静かに動いた。


カチ。

カチ。


肩。

腰。

脚。


各部の金具が、順番に身体を座席へ固定していく。


巨大機体の操縦席というより、

人体を機械に“接続する儀式”のようだった。


コックピット正面のモニターに、文字が浮かび上がる。


<YAMAGATA CORE UNIT>

<MODEL:JGR-06-core ver.2026>

<SYSTEM:HAKOKO>


次の瞬間。


全天周モニターが一斉に点灯する。


視界が――


開く。


ドック内部の巨大構造物。

整備クレーン。

作業足場。

ケーブルライン。


それらすべてが、ワイヤーフレームとして立ち上がり、

瞬時に現実の映像へ重なっていく。


色。

情報。

意味。


現実そのものに、

注釈が書き込まれる。


高度。

距離。

応力分布。

重力ベクトル。


すべてが、

一瞬で理解できる形で表示されていた。


そのとき。


コックピットのサブモニターに、

小さな箱型のキャラクターが現れる。


>浮雲、よろしくお願いします。

>ハコ子マークワンです


浮雲は小さく息を吐いた。


「よろしく、ハコ子」


その瞬間、

モニターに、わずかなブロックノイズが走る。


チリ、と光が弾ける。


そして視界がさらに拡張される。


ドックの構造が、

まるで巨大な設計図のように頭の中へ流れ込んでくる。


機体と、

自分の神経が、

静かに同期していく。


浮雲はゆっくりと手を動かした。


シートの前には小型の操縦パネル。


そこには――


タッチパネル。


そして、

大量の物理ボタンとダイヤル。


旧式とも言える配置だった。


早川が言っていた言葉を思い出す。


---


「極限時の操作ミスを防ぐ意味でも、物理操作は大事なんだ」


「タッチパネルだけの操作とか、クソだぞ」


「操作のたびにモニター見ないといけないからな」


「戦闘中にそれやったら――」


「死ぬ」


---


浮雲は、静かにダイヤルを回した。


カチッ。


感触。


確実な手応え。


浮雲にとっては、こちらの方がずっと自然だった。


タッチパネルというもの自体、

そもそも彼の人生には存在していない。


1999年。


その時代は、

もっと旧式な戦場だったのだから。


浮雲はゆっくりと前を見た。


全天周モニターの中で、

山形ロボの巨大な腕が、

わずかに動く。


機体が、

目覚める。


浮雲は小さく呟いた。


「……久しぶりだな」


それは機体に向けた言葉なのか。


それとも。


人類の世界に対してなのか。

誰にも分からなかった。


---


夕方。


地下ドックの作業も一段落し、

整備班の足音もまばらになった頃だった。


石原が、ふらりと歩いてきた。


そして、橘の前で足を止める。


腕を組み、少しだけ頭をかいた。


「……すまん」


橘が顔を上げる。


石原は、少し困ったように笑った。


「バタついててな」


「送る会とか、ちゃんとやりたかったんだが……」


肩をすくめる。


「ちと無理そうでな」


少し間を置き、


「蕎麦だけで悪いが」


「どうだい?」


橘は、ほとんど間を置かず頷いた。


「ぜひ」


---


七日町。


街の中心を流れる、五堰の一つ。


御殿堰。


夕闇がゆっくりと降りてきて、

水面が橙色に染まっている。


堰を囲むように、

長屋風の建物が並んでいた。


石原は、その奥の一軒へ入る。


暖簾をくぐる。


木の匂い。

出汁の香り。


静かな店だった。


席に着くと、石原が言う。


「日本酒はいけるかい?」


橘は頷いた。


「はい」


すぐに、冷や酒が運ばれてくる。


小さな盃。


二人は軽く掲げた。


「乾杯」


酒が喉を通る。


少しして、橘が口を開いた。


「片桐さん、ご無事でよかったですね」


石原は小さく息を吐いた。


「ああ」


少し視線を落とす。


「俺が声かけちまったからな……。

……あの娘には、悪い事をした」


お通しのお浸しをつまみながら、

しばらく、黙って食べる。


そして石原が、ふと聞いた。


「んで、橘さんよ」


橘が顔を上げる。


石原は酒をもう一口飲む。


「探し物は見つかったかい?」


橘が首を傾げる。


「え?」


石原は笑う。


「いや」


「“鎮守”が山形くんだりまでエースを寄越すんだ」


「ただの交流な訳、あるまい?」


視線を向ける。


「何を探してたんだい?」


橘は一瞬考えた。


それから、ゆっくり言う。


「……ここの皆さんは」


「鋭い方が多いですね」


小さく苦笑する。


「隠しても、そのうち分かる気がします」


盃を置く。


「千々石ミゲルの遺した箱」


石原が眉を上げる。


「ミゲルの遺産です」


石原は少し考えた。


「聞いたことないな」


酒を飲む。


「山形にあるのかい?」


橘は頷いた。


「遺された文献によると」


「……多分」


石原は顎を撫でる。


「箱かぁ」


しばらく考え、


「山形で箱……」


そして、ぽつりと言う。


「山寺の金匣とは違うんだね?」


橘が少し驚いた。


「それなんですが……、

多分、伝説だけで」


「存在しないものだと思います」


「時代も違いますし」


石原は、あっさり言った。


「いや」


「あるにはあるんだ」


橘が顔を上げる。


「え?」


そのタイミングで、


料理が運ばれてきた。


板そば。

冷たい蕎麦。


山形特有の田舎そばで、そのルーツは振る舞いそばにあるといわれている。

この店は更科と藪蕎麦の合い盛スタイル。


石原は箸を取りながら言う。


「パイロットなら、座学で習ったろ」


「霊子炉」


橘は頷く。


「内部に霊的オブジェクトを納めて」


「観測落差からエネルギーを取り出す……」


「そういう理屈でしたね」


石原は笑う。


「あたり」


蕎麦を少し手繰る。


「その霊的オブジェクト」


一拍。


「山形ロボの場合な」


箸を止める。


「山寺の住職とか」


「いろんな方面から許可もらって」


「その“金匣”を納めてる」


橘が驚く。


「では……」


「その中にヒントが?」


石原は首を振った。


「多分ムリだろうな……。天然ヒヒイロカネ製」


「百年どころか、それ以上だ」


酒を飲む。


「因果やら何やらが絡みまくっててな」


「開ける以前に」


笑う。


「そもそも、あれ、ただの立方体だ」


橘が瞬きをする。


「立方体?」


「ああ。繋ぎ目すらない」


橘は、少しだけ肩を落とした。


「……そうですか」


石原は蕎麦をすすりながら言う。


「まあ……、今度、光子炉のメンテの時にな」


「一回だけ開けられる」


橘が顔を上げる。


「その時、

調べといてやるよ」


橘は驚く。


「いいんですか?」


石原は笑った。


「だって橘さん」


箸で指す。


「あんた、

嘘、下手くそだからさ」


そう言って、豪快に蕎麦を手繰る。


「ほら、のびないうちに食べな!」


橘は笑った。


「ありがとうございます」


盃の日本酒を軽く煽り、


それから、


冷たい蕎麦を静かに手繰った。


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