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超板金 山形ロボ ―ロボットがランドマークになった街で、怪異が目を覚ます―  作者: bobson3b


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180 2026年5月26日(火)_01 夕闇に沈む平穏

陽葵のスマホが、

ポケットの中で震えた。


自転車をこぎながら、片手で画面をのぞく。


学校の連絡網だった。


---


保護者・生徒の皆さんへ

登下校時の安全についてお知らせします。


最近、夜間に不審者が出没しているとの情報が警察より寄せられています。

下校の際は、周囲の安全に十分注意して行動してください。


また、できるだけ明るい道を通る、複数人で下校するなど、安全確保にご協力をお願いします。


不審な人物や出来事に気付いた場合は、無理に対応せず、速やかに学校または警察へ連絡してください。


---


そのとき。


背負ったリュックの口から、

白い耳がぴょこんと出た。


カルが、顔だけ外に出す。


「陽葵の国も安全とは言え、

身辺には注意してほしい。


僕も、守り切れないかもしれない」


その声に、

イヤホンから別の声が混ざる。


ハコ子だった。


>そうですよ陽葵。

>わたしもちょっとだけ、

>本当にちょっとだけ賢くなくなったので、

>守り切れないのですよ?


陽葵は、軽く肩をすくめる。


「あー、はいはい。

気を付けますって」


ちょうど前から、

友達が自転車で来る。


陽葵は手を振った。


「あー、星奈。おはよー」


星奈が片手を上げる。


「おすー。


今日さ、心愛と瑠羽とアズの図書館で宿題するけど、

陽葵どうよー?」


陽葵は笑う。


「つって、

向かいのモスで結局だらだらでしょ?」


星奈も笑った。


「まーね?」


「ヤマセンの宿題も

やっちまおう~」


ふと、星奈が言う。


「あれ?

陽葵、自転車変えた?」


陽葵は軽く答える。


「なんかパクられちゃって……」


星奈が顔をしかめる。


「まじか!」


「なえるよねー」


二人は並んで校門へ向かう。


校門をくぐり、

駐輪場に自転車を止める。


そのまま階段を駆け上がる。


朝の校舎に、いつもの笑い声が響いた。


---


結局、陽葵は図書館での勉強よりも長く、

モスでシェイクを飲みながら時間を消費してしまった。


「じゃーねー、あしたー」


夕方。

友達と別れて、陽葵は七日町通りを駅前の方へ向かう。


母親の綾は今、山形にいない。


だから今日は、自分で買い出しだ。


山交ビルの地下。

ヤマザワで、値引きシールの貼られた野菜や肉を数日分買い込む。


袋を持ってレジを出たところで、

ふと見覚えのある背中が目に入った。


山部だった。


相変わらず、意味不明なくらい大きな鞄を背負っている。


「……人の事いえないわー」


陽葵は肩越しに、自分の背中を見る。

パンパンに膨らんだリュック。

苦笑して、地上への階段を上る。


——第二公園。


ふと頭に浮かぶ。


「……しばらく寄りたくないかな」


自転車にまたがり、

ゆっくりペダルを踏み出した。


男山酒造前の丁字路へ向かう一方通行。


鼻歌交じりに、自転車をこぐ。


「カル、今日は陽葵さん特製の

うどんのナポリタンです」


リュックの中に声をかける。


「お野菜満点。おいしいよ~?」


カルが小さく答える。


「それは楽しみだ」


六角地蔵尊を通り過ぎる。

そのまま、正面の丁字路へ向かって力強く漕ぐ。

信号に着いた。


赤。


陽葵は足をつく。

その瞬間。


右側に、

さっき通り過ぎたはずの六角地蔵尊があった。


「あれ?」


カルが顔を出す。


「どうしたの陽葵?」


陽葵は眉をひそめる。


「さっき通った……?」


首をかしげる。


「あれ?暗いから?」


ふと、後ろを振り返る。


そこに、二人立っていた。

黒いスーツ姿の、白髪の老人。


そして。


高校の情報科教師、山部。


老人が、低く呟く。


「ふむ……」


空気を確かめるように、周囲を見る。


「やられたか……」


わずかに眉を寄せる。


「分断とはな……」


山部が困惑しながらキョロキョロしている。


「あれ?さっきここ通ったのに!?」


老人がゆっくり振り向く。


筋肉質。


背筋は真っ直ぐ。


その顔は——


以前、第二公園で会った老人だった。


---


カルが、鞄の口から勢いよく顔を出した。


「陽葵! これは罠だ! 閉じ込められた!

鎮静魔法、陽葵!大丈夫?」


その瞬間。


陽葵のイヤホンから、ハコ子の声が響く。


>完全に外部と回線が遮断されています!


「「うぉ!!!!!」」


老人と山部が、同時に声を上げた。

山部が目を見開く。


「猫がしゃべってる!!!!!」


老人は、ぽりぽりと頭をかきながら言う。


「あー……お嬢ちゃん。

どこかで見たと思ったら、第二公園のお嬢ちゃんか」


視線をカルへ向ける。


「俺のルーンでの防護をかいくぐって、

認識阻害まで通すとは。

なかなかの使い魔だな、この猫」


イヤホンの向こうで、ハコ子が言った。


>その声は山倉さん!


>陽葵、安心して。

>このおじいさん、多分邪神並みに強いよ!


陽葵は顔をしかめた。


「いや……その情報、

安心材料になってないかなぁ……」


そして、改めて正面を向く。

遠くで聞こえていたはずの車の音が、妙に遠い。


いや。


音が消えた。


完全な沈黙。


夕方の街のはずなのに、

風も、足音も、

信号機の電子音さえ聞こえない。


その静けさの中で——


道路の真ん中。


二人の人物が、ゆっくり歩いてくる。


一人は、ヨーロッパ系の若い男。


点滴をぶら下げた台――

イルリガードル台を引きずっている。


車輪が、

アスファルトを擦る音だけが響く。


ぎり……

ぎり……


もう一人は、アフリカ系の壮年の男。


汚れた白衣。


肩口には、乾いた血の跡。


外見だけ見れば、

患者と主治医だ。


ただ。


状況が違う。


今は夕刻。


陽が沈み始め、

十日余りの月が、空から見下ろしている。


本来なら、

会社帰りの人や車で賑わう時間。


それなのに。


この交差点だけが、

世界から切り離されたように静まり返っていた。


若い男が、楽しそうに口を開く。


「いい夜だ」


点滴のチューブを、指で弄ぶ。


「人の悲鳴が、よく響く」


白衣の男が、ゆっくり頷いた。


「父上の言う通りです」


視線が、

まっすぐ陽葵へ向く。


「まずは、面倒ごとを片付けましょう」


カルが、陽葵の肩の上で毛を逆立てた。


圧倒的に、場違いだった。

山部が、一歩前へ出る。


軽く手を伸ばし、

陽葵を背に庇う。


「すみません」


静かに声をかけた。


「道路の真ん中、危ないですよ?」


若い男が、くすりと笑う。


「おやぁ?」


首を、ゆっくり傾ける。


「一定の神格がないと、

ターゲットの嬢ちゃん以外は弾くようにしたのだが?」


視線が、山部と老人を順に舐める。


「……やはり弱体化の影響でしょうか」


点滴台の車輪が、

きぃ、と乾いた音を立てた。


「精度が落ちてますね」


視線が、陽葵へ向く。


「お嬢ちゃんはシャウルスに渡して」


その目が、ゆっくり山倉へ移る。


「私は、そこの忌々しい“箱”の指揮官の一人と

遊べればよかったのだが」


その言葉に、

後ろの壮年の男が、静かに頭を下げた。


「お父様。

寛大なお心、痛み入ります」


その瞬間。


――世界が、ずれた。


無音ではない、吐き気がするほどの異音。


街灯の光が、わずかに歪む。

道路の白線が、波のように揺れた。


夕暮れの空が、

どこか一段、深い色に変わる。


空気が、重い。


何かが、この場所の“位相”を

少しだけずらした。


山倉の眉がわずかに動く。


山部の喉が鳴る。


そして――


カルが、叫んだ。


「陽葵!!!!!


魔王――いや、その上位!

邪神だ!


早く契約を!」


イヤホンから、ハコ子の警告が重なる。


>この声紋はネームドクラスの邪神。

>シャウルスと――


>グラーキです!


その名前が発せられた瞬間。


点滴台を引きずる若い男が、

ゆっくり首を傾けた。


「ほう」


口元が、歪む。


「名まで知っているとは」


若い男――グラーキが、

ゆっくり笑った。


「この世界、

まだまだ面白い玩具がありますね」


点滴台の金属が、

地面を引きずる。


――キィィィィ……


夕方の住宅街に、

嫌な音が響いた。


空気が、どこか歪むような音。


山倉が、低く呟く。


「……ネームドが、二体」


わずかに拳を握る。


「しかも親子とはな」


振り返らずに言う。


「おい若いの。

お嬢ちゃんと一緒に、俺の背中に隠れな」


山部の額に、汗が浮かんでいた。


「い、いえ……だ、大丈夫です」


慌ててスマホを取り出す。


「警察呼びます。

変質者、ですよね?」


画面を見る。


圏外。


「あれ?」


もう一度確認する。


「あれ?

あれ?

あれ?」


陽葵は、自転車のハンドルを握ったまま、

息を止めていた。


背中のリュックの中から、

カルの声が響く。


「陽葵!」


焦りが混じる。


「時間がない!」


その瞬間。


シャウルスが、

ゆっくり一歩前に出た。


足音は、ほとんどしない。


「さぁ、お嬢ちゃん」


穏やかな声だった。

まるで、子どもを呼ぶような声。


「こちらへおいで」


夕暮れの住宅街。


逃げ場のない交差点。


月明かりの下で、

二体の邪神が、ゆっくりと歩み寄る。


山倉の背中が、わずかに沈む。

拳が、静かに構えられた。


山部は、まだスマホを見ている。


「圏外……?」


その声は、もう誰にも届いていない。


陽葵は、自転車のハンドルを握ったまま、息を止めていた。


胸の奥で、心臓が強く鳴る。


カルが叫ぶ。


「陽葵!」


ハコ子の声が重なる。


>契約を!


月明かりの中で、

グラーキが、ゆっくり笑った。


「さぁ、お嬢ちゃん」


点滴台が、地面を引きずる。


――キィィィ……


「こっちに来れば、命までは取りはしないよ?」


その瞬間。


陽葵の指が、

自転車のブレーキを、ぎゅっと握りしめた。


夕暮れの交差点で。


世界が、

ほんの少しだけ、傾いた。

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