表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
超板金 山形ロボ ―ロボットがランドマークになった街で、怪異が目を覚ます―  作者: bobson3b


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

176/200

175 2026年5月24日(日)_04 伯爵の憧憬

「失礼いたします。伯爵がお二人にお目通りを望んでおられます」


控えめなノックの後、扉が開いた。


浮雲平輔と早川真が通された応接室。

静かな照明に照らされたその部屋の空気が、わずかに張り詰める。


執事が先に入る。


その後ろから、車椅子。


そこに座る、仮面の男。


仮面の奥から、くぐもった声が響く。


「英雄――浮雲平輔様」


「そして、世界百工匠のお一人、早川真様」


男は、わずかに頭を下げた。


「はじめまして」


「私は“会議室”円卓第一位、《伯爵》と呼ばれている者にございます」


一拍、沈黙。


「本来であれば、名を明かし、素顔でご挨拶すべきところですが……」


仮面の奥から、静かな声が続く。


「あいにく、この身は少々見苦しく」


「また、立場上の都合もございます」


「無礼を承知のうえ、仮面のままでのご対面となることを――どうかお許しください」


その瞬間。


早川が一歩、詰め寄った。


声が震える。


「一葉は……」


「娘は無事なんですか?」


「命は――助かりますよね?」


空気が一瞬、張り詰める。


執事。


“会議室”特級序列零位。


《虚》マスター・オブ・ケノーマが、静かに手を上げた。


早川の前に立ち、穏やかに言う。


「ご安心ください、早川様」


執事の声は、落ち着いていた。


「ご息女――片桐一葉様は、現在も命に別状はございません」


早川の呼吸が止まる。


執事は続ける。


「先ほど、手術室へ搬送されました

執刀は、聖メアリー・ティーチング大学病院、神秘外科」


「スタンフォード・ウェスト医師

そして、クロオ・ストレンジ医師のチームが担当しております」


老齢の紳士の声が、落ち着いた調子で続く。


「この世界の“表”と“裏”

双方の医療を合わせた、現時点で考え得る限り最良の布陣です」


静かに結ぶ。


「どうか、ご安心ください」


早川の肩から、力が抜ける。


部屋に、わずかな沈黙が落ちた。


そして執事は、視線を浮雲へ向ける。


「――そして浮雲様」


わずかに間を置く。


「ご乗船の際に行いました身体検査の結果ですが……」


執事の声は変わらず穏やかだった。


「現在の貴方は、存在が希薄化している状態にございます」


浮雲の眉がわずかに動く。


執事は続ける。


「加えて、邪神――おそらくボクラグによる呪詛を、ほぼ単独で引き受けておられる」


静かな声。


だが、その内容は重い。


「このまま放置すれば、いずれ存在そのものが崩壊しかねません」


執事は一礼した。


「ですので、こちらにつきましても――」


ゆっくりと顔を上げる。


「これより、解呪処置を施させていただきます」


---


鎌田たち山形ロボ整備班と、“会議室”のメカニックがタブレットを広げ、

機体のログと設計図を照合しながら打ち合わせをしていた。


鎌田が画面を指でなぞりながら言う。


「装甲の損傷は大したことない。自己修復性高分子層がもう修復に入ってる。

配線の損傷も少ないから、こっちで持ってきた予備部材だけで十分直せる」


それを聞いた“会議室”メカニックが頷く。


「ハードウェアの状態については、こちらも同意します」


彼はタブレットの別の画面を開いた。


「山形機の性能ですが……本来は一二〇メートル級機体用のコアを、

二〇メートル級機体に三炉並列で搭載している。

出力としては明らかに過剰です」


画面に出力曲線が表示される。


「その前提で見れば、2026年版アップデートのアプローチ――ハードウェア側の構成は最適解です」


一拍置き、続ける。


「ですが、ソフトウェアがまったく噛み合っていません」


鎌田が顔を上げる。


「……え?」


“会議室”メカニックはログ画面を拡大した。


「おそらく、前任パイロット――浮雲氏の操縦特性を基準にセッティングされているのでしょう」


少しだけ言葉を選びながら続ける。


「率直に申し上げれば、現在のパイロットとは完全にミスマッチです」


鎌田は腕を組む。


「どう違う?」


メカニックは説明を始めた。


「浮雲氏の戦闘パターンは、重装高機動の特性を活かしたヒット・アンド・アウェイ型です。

高機動をマニュアル制御し、フェイントや急激な軌道変更を織り込むトリッキーな戦術を好む」


画面が切り替わる。


「対して片桐女史の戦闘パターンは――まったく逆です」


鎌田が身を乗り出す。


「逆?」


メカニックは頷く。


「山形ロボの堅牢性を最大限に活かし、攻撃を可能な限り受け止める。

その上で機体出力と質量で敵を圧倒する」


ログの戦闘記録が表示される。


「さらに現在の山形機は、神気の変質が始まっています。

半ば“守護神”の性質を帯びている」


画面の最後に、因果兵装のログが現れた。


「その結果、敵対神格の存在そのものを否定する――必殺の因果凍結兵装が強化されることによる決定打」


静かに言う。


「確かにこれなら、邪神格の撃退、――神殺しも説明がつきます」


鎌田は苦い顔をする。


「だが問題がある、と」


メカニックは頷き、別のログを表示した。


「このログをご覧ください。確認されたことはありますか?」


鎌田は首を振る。


「いや……俺も早川もハード中心で組んでたからな。ソフトは観測班と相談しながら作った」


少し苦笑する。


「ハコ子――山形ロボの補助AIも、基本は操縦補佐だけだ。」


肩をすくめる。


「本当はそこまで干渉できないようにしてたんだが……

片桐の嬢ちゃんが勝手に許可出し始めてな。」


“会議室”メカニックはその言葉に頷いた。


「なるほど。理解しました」


ログを拡大する。


「ここを見てください。片桐女史が『進め』と入力した瞬間、山形機は一度『回避』動作をキャンセルしてから『前進』しています」


シミュレーターの再生が始まる。


「この動作はシミュレーターでも再現されます」


数値が表示された。


「遅延はわずかです。0.1秒から0.05秒」


画面を指差す。


「ですが、確実にロスしています」


鎌田の表情が少し変わる。


メカニックは静かに言った。


「鎌田リーダー。おそらくですが――」


「現在の山形機、AIが重複していませんか?」


鎌田が答える。


「ハコ子と……山形ロボ本体の制御AIは別だ」


少し考え込む。


「それ、まずいか?」


メカニックは即答した。


「ええ」


「通常の防衛機の重装型なら問題にならないでしょう。

ですが山形機は重装高機動機です」


画面に運動ログが表示される。


「現在、“高機動”の部分が死んでいます」


静かに続ける。


「その分の負荷が、すべて片桐女史の操縦に集中しています」


鎌田が眉をひそめる。


メカニックは結論を言った。


「AIは統合すべきです。

“ハコ子”――でしたか」


一度、目を細める。


「あのAIは今回、コックピット解放時にも行動していました。

正式な解放権限は持っていなかった」


「ですが最後まで、パイロットの生命維持のため情報収集を続け、こちらの救助に協力してくれました」


鎌田が静かに頷く。


メカニックは言った。


「山形ロボのシステムは、あのAIをベースに最適化すべきです。

もし統合できれば――」


「どのくらい変わる?」



「理論値ですが

機動性能、約1.8倍です」


そして続けた。


「“会議室”は、この件について協力を惜しみません」


---


マスター・オブ・ケノーマは、静かに車いすを押しながら伯爵を彼専用に整えられた私室へと案内した。

重厚な扉が閉まると、外の気配は完全に遮断される。


伯爵は軽く息を吐いた。


「ありがとう、エイブラハム。ここでいい。あとは自分でできる」


そう言いながら、ゆっくりと立ち上がる。


身体は決して強くはない。

だが、その動きには奇妙な均衡があった。


伯爵は数歩歩き、安楽椅子へ腰を下ろした。


マスター・オブ・ケノーマ――エイブラハムは、静かに伯爵の仮面へ手を伸ばす。


そして慎重に外した。


仮面の下に現れた顔は、若い。

しかしどこか虚ろで、長い年月の疲労が滲んでいた。


エイブラハムは眉をひそめる。


「伯爵……大丈夫ですか……?」


伯爵は目を閉じ、少しだけ首を振る。


「ああ」


小さく笑う。


「ちょっと昔を思い出してしまってね」


「少し感傷的になっただけだよ」


エイブラハムは静かに尋ねた。


「昔、と言いますと?」


伯爵はしばらく沈黙し、それからゆっくりと語り始める。


「昔……私がまだ幼かったころのことだ」


視線が遠くへ向く。


「私に、たくさんの物語を語ってくれる女性がいた」


穏やかな声だった。


「群雄割拠する英傑の話」


「迷宮を踏破する者たちの話」


「運命に抗う者の話」


「実に様々な物語だった」


エイブラハムが小さく呟く。


「……千夜一夜物語ですか?」


伯爵はわずかに笑う。


「……まあ、そのようなものだ」


そして続ける。


「私はね、エイブラハム。

彼女のような善良な人々が、

ただ物語を楽しめる、そんな世界を望んでいるのだよ」


静かな声だった。


「そのために、私は“円卓会議室”を作った」


「そのために、邪神たちと戦う道を選んだ」


エイブラハムはしばらく黙っていた。

やがて、恐る恐る口を開く。


「……伯爵……もし……もしも。

そんな世界が、本当に訪れたら」


言葉を選びながら続ける。


「あなたは……」


少しだけ声が震えた。


「まさか……消えてしまう、などということは……」


伯爵は一瞬驚いたように目を瞬かせた。

それから、柔らかく笑う。


「大丈夫だ」


穏やかな声で言う。


「その時は、私も」


窓の外へ視線を向ける。


「陽だまりで、世界中の物語でも、ゆっくり楽しむ余生を送るさ」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
SF / ロボット / 地方都市 / 行政・公務員 / 都市伝説
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ