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超板金 山形ロボ ―ロボットがランドマークになった街で、怪異が目を覚ます―  作者: bobson3b


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168/200

167 2026年5月23日(土)_05 ツクヨミ装着

パーカーを脱ぎ、

コクピットへ。


一葉がシートに座る。


スーツの装甲板が動き、

身体を固定する。


瞬間。


体を、何かが包む感覚。


手首の液晶が灯る。


コックピットハッチが閉まる。


一瞬。


完全な、闇。


次の瞬間。


文字が、

視界いっぱいに浮かぶ。


<YAMAGATA CORE UNIT>

<MODEL : JGR-06-core ver.2026>


ブロックノイズが走る。


視界が――


“開く”。


《Guardian Output – Hitoha Lock》


全天周囲モニター。


ドックの構造物が

ワイヤーフレームで立ち上がる。


手元の小さなモニター。


三つの円グラフ。


三つ炉の出力が、

心臓みたいに、

リズミカルに上下する。


――安定。


モニターにハコ子の姿が現れる。


>一葉、一発かましましょう!


武田の、クリアな声が

コクピットに落ちてくる。


「片桐先輩。

先遣部隊が到着したので発進お願いします。


ハコ子の指摘により

以前みたいな時速40,000キロはもう出せません。


安全な飛行速度、

時速4500キロで現地に向かってください。


夜間とはいえ念のため、

着陸後、装備が整ったらすぐ局所位相固定を展開。


範囲は極小、

20メートルで十分です」


一葉が返す。


「わかった!」


軽い衝撃。


リフトが――


上昇を始めた。


ドックの床が離れる。


地下の暗闇が沈み、

天井のシャッターが

巨大な音を立てて開いていく。


外はもう、夜。


月光が

背中の二門の巨大砲――

ツクヨミの砲身を照らす。


山形ロボが、


ペンチみたいな拳で

虚空を、軽く撫でる。


――ぐにゃり。


空間が、避けた。


真空の“縁”が、

ロボの周囲に輪を描く。


一葉は


ペダルを

そっと踏む。


両手のグリップを

軽く握る。


「……いけ」


――ふわっ。


次の瞬間。


因果滑走。


景色が流れる。


山形市の灯りが

線になる。


山が

黒い壁のように後退する。


雲が

静止したまま裂ける。


手元の速度計。


時速――


4500。


山形ロボは


夜空を、

静かに滑っていく。


目標。


月山ダム湖。


その湖底には、


“ツクヨミ”本体が待っている。


---


山形市嶋地区郊外。


夜の路上。


街灯が、等間隔に並ぶ。


郊外特有の田園を貫く広い道路。

昼は車通りが多いが、

今はほとんど人気がない。


その路肩に、


黒い人影が立っていた。


長いスーツ。

顔は影に沈み、輪郭だけが街灯に浮かぶ。


空を見上げる。


遥か上空。


肉眼では見えないが、

そこを――


何かが滑っていった。


男は、楽しそうに笑う。


「いいねぇ」


小さく、手を叩く。


「けなげだねぇ」


その瞬間、

街灯が一つづつ、音もなく消える。


夜風が、ジャケットの裾を揺らす。


「でもね」


声は、優しい。


まるで子供を諭すように。


「今日で退場なんだ」


少しだけ首を傾ける。


「――流石に三度目は、ないからね」


楽しそうに。


ゆっくりと、


名前を口にする。


「狂った正義の味方……」


一拍。


「片桐一葉ちゃん」


奈良は、空を見上げる。


遥か北西。

月山の方向。


「安心していいよ」


指先で、空を軽くなぞる。


「今回の主役は僕じゃない」


小さく笑う。


「エイホートくんだ」


目を細める。


「ただ――そこに居てもらっただけ」


遠く、月山の方角で

湖面の水がわずかに揺れる。


「彼は彼のまま」


「僕は僕のまま」


奈良は楽しそうに笑う。


「舞台が整うと、物語って勝手に動くんだよ」


視線を戻す。


「だって君の正義は、育ちすぎたから」


街灯の光が戻る。


空間の“縁”が、

音もなくほどけていく。


次の瞬間。


そこにはもう、


誰もいなかった。


ただ、


夜だけが残る。


そして遥か上空――


月山へ向かって滑る

山形ロボの影。


その行く先で、


“罠”が待っている。


---



寒河江ダム。

月山ダム湖。


夜。


湖面は静かだが、

岸辺では慌ただしく作業が進んでいた。


山形県の刻印が入った

コンクリート施設の扉が開かれ、


極太のケーブルが

警備班の手によって地上へ引き出されている。


黒い太いケーブル。

白っぽい細めのケーブル。


二本。


その周囲を

警備班第二班が展開し、警戒線を張る。


指揮は――山倉。


双眼鏡を下ろし、夜空を見る。


その瞬間。


遠くの空が、わずかに歪んだ。


音もなく、


山形ロボが現れる。


因果滑走から展開。


推進ノズルが開き、

重力制御が働く。


空気を押し潰すような低い音。


ロボは湖岸へ滑り込み、

静かに着地した。


砂利がわずかに跳ねる。


コクピットに声が入る。


鎌田。


「片桐の嬢ちゃん。

背中の二門の砲身を両腕につけたら、


反動排出用の黒い太いケーブルは

背中の外部増圧接続ユニットの右側。


白っぽい細めのケーブルは左側。


差し込んで、

九十度ひねってくれ。


あとは自動固定だ」


「了解!」


山形ロボの頭部が

くるりと――


一八〇度回転する。


背中のバックパックを

自分で覗き込む形。


巨大な指が器用に動き、

ケーブルを持ち上げる。


黒ケーブル。


接続。


――ガチン。


白ケーブル。


差し込み。


――ロック。


さらに声が入る。


早川。


「外部増圧接続ユニットのケーブル、

砲身は連結じゃなく分割モード。


上下だけ気をつけて差し込んでくれ」


一葉が笑う。


「お父さん、

連結できるの?これ?」


モニターに

ソケットの拡大図が出る。


台形構造。


上下が間違いにくい形。


早川が少し笑う。


「できるがな。

一撃で

両腕分の“月山おろし”を

一気に放出する」


少し間。


「グレート山形ロボ装備時用の構成だ。

普通は使わない」


一葉。


「へぇ」


カチン。


最後のロックが入る。


「よし、完了!」


背中のツクヨミ砲身が

低く唸る。


月山湖の水が、


静かに――


引き始める。


地下の増圧室が

起動していた。


そして遠く。


津波は、


まだ、


来ていない。


しかし――


その“圧力”だけが、


海の底を、


迷宮のような水流を、


走り抜けていく。


水が押し出され、

また押し込まれ、

巨大な質量が、

ゆっくりと圧縮されていく。


海底の砂が鳴る。


岩礁が軋む。


そして、

その圧力は、

一つの方向へ集まり始める。


“呼ばれている”かのように。


深い海の底から引かれる糸。


見えない力が、

巨体を引き寄せている。


殻の表面が、

苦しみに軋み、上位の神格に喰われる。


その殻の隙間から、

無数の、

深紅の眼。

怪異の存在が邪神に上書きされる。


月光が、

それを、

冷たく反射していた。


海は、

怒っていない。


ただ、津波の概念ごと、

迷宮の主に従属された。


内陸。


月山。


そこにある


“箱”へ。

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