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超板金 山形ロボ ―ロボットがランドマークになった街で、怪異が目を覚ます―  作者: bobson3b


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169/200

168 2026年5月23日(土)_06 射手相対する

世闇の酒田市。


最上川河口付近。


日和山公園の高台。


街灯は落とされ、

海からの湿った風だけが吹いている。


施設警備――狙撃班、二名。


二人の上空では、

超高速ドローンが静かに旋回していた。


肉眼では見えない高さ。


だがそのセンサーは、


対象の正確な座標、

神気密度、

位相の歪み、

水圧の変動、


すべてを秒単位で計測している。


タブレット型の観測端末に

数値が流れ続ける。


橘が、

隣に立つ浮雲に声をかけた。


「これを

霊波変換式戦域通信システム――SWNで

片桐さんのところに同期させるんですね」


浮雲は海を見たまま、

短く答える。


「ああ」


少し、間。


「しかし……」


水平線の向こう。


暗い海の奥。


月明かりの下で、

巨大な殻がゆっくり動く。


「この甲殻類、

明らかにデカい」


低く呟く。


「圧が解放されたら……

津波どころじゃ済まん」


その横で、


三十代半ばのやせ型の男。

狙撃班・射手――更家。


風速計を確認しながら、

次々と数値を打ち込む。


風速。

湿度。

地場の歪み。

水面の微振動。


すべてが

リアルタイムで同期されていく。


視線は海から離れない。


巨大な殻が、

月明かりの下で

ゆっくりと動く。


更家は、小さく息を吐く。


「……でかすぎるだろ」


独り言のように呟くが、

手は止まらない。


入力は続く。


誤差、

ゼロ点修正、

位相揺らぎの補正。


120キロ先の照準が

この数値にかかっている。


その隣。


二十代後半の筋肉質な女性、

観測手――那須。


双眼鏡とレーダーを

交互に確認する。


「射線上、船舶なし」


少し間を置いて、


「漁船一隻、

範囲外へ退避確認」


那須が頷く。


「海上クリア」


更家が最後の入力を終える。


端末の画面が、

一瞬白く光る。


《SWN同期完了》


その瞬間。


すべての観測情報が――


山形ロボへ送られる。


月山ダム湖。


ツクヨミの砲身が、

静かに、

照準を合わせ始めていた。


海と山。


120キロの距離が、

一本の射線で

繋がる。


---


すべてのケーブルが接続された山形ロボが、

局所位相固定を展開。


月山湖上空へ、ゆっくりと浮上する。


湖面が、静かに歪む。


武田の声。


「山形ロボ、SWNでの情報同期完了」


ハコ子の声が続く。


>風速、湿度、地場歪み。

>射線補正すべて処理しました。

>モニターに照準表示します。


「ありがとう武田さん」


一葉は視界に浮かぶ照準を見ながら言う。


「ハコ子も、狙撃犯の……那須さん?もありがとう!

ごめんなさい、まだ名前覚えてなくて」


通信に、落ち着いた女性の声が返る。

那須。


「いいんですよ、片桐さん。

私たちは本来黒子ですから。


今回みたいな連携は、稀です」


一葉は小さく頷く。

深呼吸。


胸元の<お守り>に触れる。


「……もう一回確認。

今回の怪異、動くと……」


児島が即答する。


「大規模な津波になる。

山形だけじゃない。

日本海側の都市が、かなりの被害を受けるわ」


一葉は、お守りを強く握る。


「ハコ子。

私の抜けてるとこ、フォローお願いね」


ハコ子。


>任せてください。

>一葉の盾が私、マークワンです。


「なにそれ。

ツーいないじゃん」


小さく笑う。


「……よし。

んじゃ、いきますか」


次の瞬間。


湖底の増圧ユニットに、

山形ロボの膨大な電力が流れ込む。


月山湖の水が、

吸い込まれるように動く。


圧縮。


増圧。


さらに圧縮。


巨大な水流が

山形ロボのバックパックへ流れ込み、


砲身内部で

さらに加圧される。


山形ロボの右腕。


装甲が、スライドする。


――カシャン。


内部で、

タービンが回転する。


冷たい光。


低い唸り。


終わりを告げるコーラス。


砲身の奥で、


水が――


刃になる。


一葉が照準を合わせる。


北緯: 39度15分50.0秒

東経: 139度03分40.1秒


巨大な甲殻。


その中心。


コア。


「……撃つ」


引き金。


次の瞬間。


右腕の砲身から、

圧縮水流が放たれる。


マッハ三十二、

時速――四万キロ。


だがそれは、

ただの水ではない。


因果滑走。


本来、

この狙撃のために生まれた技術。


空気抵抗。


重力。


風。


位相の乱れ。


それらすべてを、

“因果”の膜が包み込み、

水流を守る。


守られた一筋の刃が、

一直線に、

運ばれていく。


死を運ぶ、

一本の線。


夜空を裂き、

山々を越え、

120キロの距離を滑走する。


遥か彼方――


日本海。


荒ぶる海の化身。


その甲殻の奥、

脈動するコアへ。


一直線に、

走る。


発射の反動が、

山形ロボを揺らす。


だがその大半は、

流体エネルギーとしてダム湖へ逃がされる。


ドン。


低い衝撃音。


湖面が震える。


余剰エネルギーが巨大な噴水となって空へ吹き上がる。


通信。


那須の声。


「着弾確認――」


一瞬の沈黙。


「いえ……!」


「外殻で弾かれました!」


「第二射、お願いします!」


武田が叫ぶ。


「計算と合わない!」


「那須さん、現地で当時のデータと再照合!」


「片桐先輩、第二射準備してください!」


モニターの照準が、


わずかに――


ズレている。


ほんのコンマ数ミリ。


だが、

酒田湾沖では、

それが、

致命的な誤差になる。


そして海では、

巨大な甲殻の深紅の視線がゆっくりと、

こちらを向いた。


---


>一葉、第二射!


ハコ子の声がコクピットに響く。


>さっきので気づかれたかもです!

>撃ってください!

>誤差は今、補正かけました!


一葉が叫ぶ。


「……了解!」


視界いっぱいに、

照準が拡大される。


海。


巨大な甲殻。


その奥。


CG補助で輪郭が強調され、

コアの位置が浮かび上がる。


赤い光点。


鼓動のように、

わずかに脈打つ。


照準円が、

ゆっくりと、

重なる。


静寂。


一葉の指が、

トリガーに触れる。


カチリ。


左腕。


すでに待機状態だった“月山おろし”のエネルギーが解放される。


圧縮水流。


砲身の奥で、

さらに収束。


一瞬。


水が――


線になる。


そして、

放射。


夜空を貫く必殺の一撃。


水の刃が、

因果滑走の膜に守られ、

一直線に日本海へ走る。


---


寒河江ダムに架かる月山大橋。


頭上の山形ロボを見上げ、

黒いスーツの男は笑う。


まるで、

舞台の幕が下りるのを

待っている観客のように。


そして、

ゆっくりと名前を呼ぶ。


「片桐一葉」


少し間。


そして、

甘く囁く。


「これでチェックメイトだよ」


---


津波の怪異を吸収した存在。


その奥。


甲殻の裂け目。


無数の深紅の眼が――


一斉に開く。


海が、軋む。


通信に、叫び声。


浮雲。


「一葉!!」


「奴はネームドだ!!」


一瞬の沈黙。


「エイホートだ!!」


「低級怪異に擬態だ!!」


「何かしてくる!!」


「よけろ!!!!!!」


その瞬間。


海域に広がっていた水が、奇妙な形で――


歪む。


波ではない。


渦でもない。


水の迷宮。


海面に、

巨大な水の管が何本も生まれる。


その内部で、

津波のエネルギーが、


捻じれ、

曲がり、

圧縮されていく。


音が消える。


次の瞬間。


それは、

邪悪な殺意の水圧となって


解放された。


――放射。


山形ロボのツクヨミパックでの射撃。


その射線を、

まったく同じ軌道で


なぞるように、

放たれる。


水の刃。


だがそれは、

自然ではない。


憎悪。


悪意。


呪詛。


それらが混ざった、

黒い圧力。


二つの線が、

夜空でぶつかる。


ツクヨミの射線が、

押し負ける。


――霧散。


ハコ子の声。


>一葉!!避けてください!!


一葉の反応は、


一瞬。


重力制御を、

切る。


機体を、

落とす。


その直後。


キィンィィィン!!!!!!!


鋭い音。


水圧の線が、


山形ロボ頭部の外装を掠め、

背後の局所位相固定の壁に当たり散る。


ヒヒイロカネの装甲の一部が削られる。


甲高い金属音が夜空に響いた。


山形ロボは、

わずかに姿勢を崩しながらも湖上に踏みとどまる。


そして海では――


無数の深紅の眼が、

楽しそうに、

瞬いていた。


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