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超板金 山形ロボ ―ロボットがランドマークになった街で、怪異が目を覚ます―  作者: bobson3b


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165 2026年5月23日(土)_03 会議室の“C”

とある場所、地下。


光はない。

闇ですらない。


黒という概念だけが、そこに在る。


黒いスーツの男――奈良は、

床も壁も天井も区別のない空間を、ただ歩く。


足音はしない。

だが“歩いた”という事実だけが残る。


空間の中央。


複数のモニター。

古典的なデスクトップ端末。

計算式と星図と、位相構造の断面図が浮かんでいる。


その前に、

上品な革の椅子。


そこに座る白髪の男。


老いの倦怠を纏いながら、

若人の骨格を持つ顔。


時間が彼を削れなかったかのような、

不自然な均衡。


背後には顔色の悪い執事。


“会議室”特級序列零位――

《虚》

マスター・オブ・ケノーマ。


虚無の支配者。

空隙の管理者。


奈良の一歩が止まるより先に、

執事が構えた。


だが。


白髪の男が、静かに手を上げる。


「ここは“会議室”の深奥だ。

道化、ナイアルラトホテップ。

邪悪なる神が何の用だ」


奈良は笑う。


「久しぶりだね、C。

なんだっけ?名前いっつも変わるよね?

カスピエル?

カリオストロ?

クローリイ?

クロウ?


そうそう、君がモデルの小説読んだよ。

結構脚色あったけど面白かった」


白髪の男の瞳が、わずかに細まる。


「いまは“伯爵”。

それ以上でも、それ以下でもない。

去れ、道化。

貴様がいていい場所ではない」


奈良は肩をすくめる。


「そう、後ろの紳士では僕には勝てない。

でも――君が動くと、世界の均衡がずれる。


世界、繰り返してるんだっけ?

何巡目?

……もう憶えていないか」


モニターの一枚ノイズが発生する。

別の画面では、3日後の南太平洋の位相値が臨界を越える。

数字が赤に染まる。


マスター・オブ・ケノーマの指が、わずかに端末の上をなぞる。

部隊が再編され、各大陸に張られた補助節点が再同期する。


予測グラフが再計算される。

未来予測線の赤が、ゆっくりと薄れる。


赤は消える。


世界は、何事もなかったように戻る。


「そろそろ疲れたころだろ?

諦めなよ。


大丈夫。

この世界は滅ぼしたりしないから。


ちょっとだけ、僕たちが遊べればいい。

ちょっとだけ、僕たちが楽しめればいい。


贅沢は言わないよ。ほんの少しでいい。

ほんの国の数個で、我慢するからさ」


空間の温度が、下がる。


「そして気が付けば世界が悪徳に沈む。

お前たちのやり口は、もう知り尽くしている」


奈良は軽く笑う。


「でもさ。

世界中が火薬庫なんだよ?

少しぐらい、僕らも楽しんではダメなのかな?」


伯爵は動かない。


「それで滅びるなら、それが人間だ。

人の選んだ道だ。


だがな。


お前たちは理を歪める。


もう一度言う。

去れ」


奈良は視線を上げる。


「さすがに位相遮断領域が張られている地球上で、

多層位相制御フィールドの元祖の真っただ中で、

喧嘩をする気は無いよ。


僕もわが身が可愛い。


――じゃあ、最近見つけた面白いオモチャ、教えてあげる。


“浮雲平輔”。


彼個人なら、どう遊んでもいいよね?」


その瞬間。


モニターの星図が一瞬だけ逆転する。


伯爵の声が、低くなる。


「1999年の結界守護者。

二百万年戦い続けた戦鬼。


彼は英雄だ。

貴様の陣営には、下らない」


奈良は後退しない。


「君は身動きができない。

そんな君が何ができるか楽しみだ。

“会議室”を使って頑張ってくれたまえ」


次の瞬間。


奈良の輪郭が、空間から“抜ける”。


部屋は静かになった。


マスター・オブ・ケノーマが膝をつく。


「申し訳ございません。

術式を練り直します」


伯爵は首を横に振る。


「あれは何処にでも現れる。

しかも邪神だ。

防ぐのは難しい」


しばし沈黙。


モニターに映る地球。

位相遮断領域の薄い揺らぎ。


伯爵は、わずかに目を閉じる。


「浮雲か……」


“会議室”の空間が、

ほんの一瞬だけ、深くなる。


戦いは、まだ始まっていない。


だが、

遊びは、もう始まっている。



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