164 2026年5月23日(土)_02 暴かれ始める嘘
(低い不穏BGM)
ゆっくりぷちタコ:
「ねえ目玉ん。世界を裏から操る組織って、本当にあると思う?」
ゆっくり目玉ん:
「あるに決まってるだろ。名前は――“円卓会議室”。」
(ドン…という効果音)
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ぷちタコ:
「円卓会議室?なにそれ、ファンタジー?」
目玉ん:
「いいや。歴史の“空白”を辿れば、必ず行き着く名前だ。」
「1228年。
第6回十字軍。」
「本来なら血の海になるはずの遠征が、
なぜか“大規模戦闘なし”で終わる。」
「外交で解決。
双方が得をする。
領土も返還。」
ぷちタコ:
「奇跡?」
目玉ん:
「違う。
“調整”だ。」
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目玉ん:
「中心人物は神聖ローマ皇帝フリードリヒ2世。
そしてアイユーブ朝のアル=カーミル。」
「敵同士のはずが、なぜか戦わない。
その裏で行われたのが――
“幕で囲われた極秘会議”。
音を吸収する絹。
身分を外す円卓。
12人の代表。
宗教も国家も超えた“秩序の決定者”。
それが、円卓会議室の起源。」
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ぷちタコ:
「でも、それ平和的じゃない?」
目玉ん:
「甘い。」
「戦争を止めたんじゃない。
“戦争を管理し始めた”んだ。
円卓会議室の役割:
・戦争の勝敗を調整
・宗教対立を制御
・国家間の緊張を維持
・技術を段階的に解放
人類は発展しているように見える。
だが。
発展速度すら“許可制”。」
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目玉ん:
「なぜ天才は、同時代に集中する?
レオナルド・ダ・ヴィンチ。
ロジャー・ベーコン。
ノストラダムス。
ニコラ・テスラ。
偶然?
違う。
“知の継承枠”。
人ではなく、
思想を選抜し、
次代へ渡す。
円卓は“人材”を育てる。」
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ぷちタコ:
「東洋も関係あるの?」
目玉ん:
「もちろんだ。
郭守敬。
徐光啓。
天海。
そして天正遣欧少年使節。
文化交流?
違う。
“接続テスト”。
東西知識ルートの構築。」
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(重低音の不穏BGM)
目玉ん:
「近代になると、名前を変える。」
「“Conference Room”。」
「通称――≪会議室≫。」
画面に黒い円卓のシルエット。
目玉ん:
「軍事。
情報。
学術。
宗教。」
「表舞台には出ない。」
「だが、すべてに触れている。」
「その支援者は……みんな知ってる名前だ。」
「セブン・シスターズ。」
「マグニフィセント・セブン。」
「エネルギー。
軍需。
IT。
金融。」
「世界を回す血流。」
「その裏に、静かに座る“会議室”。」
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ぷちタコ:
「戦争は止めないの?」
目玉ん:
「止めない。」
「止めたら秩序が崩れる。」
「均衡が壊れる。」
「市場が凍る。」
「だから――」
目玉ん:
「“終わらせず、調整する”。
勝たせすぎない。
負けさせすぎない。
技術は一気に解放しない。
常に“少し足りない”。」
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目玉ん:
「そして今。」
「彼らは“執行装置”を持っている。」
とある地方都市の病院の遠景。
荒い解像度。
その中心にぼやけた巨大影。
その形はまるで“箱”。
雑なコラージュ、
AIですらない。
「巨大兵装。」
「地方都市に残る不可解な施設。」
「公式に存在しない防衛構造。」
「存在は確認できない。」
「だが、噂だけは消えない。」
「存在自体が曖昧な建造物。」
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ぷちタコ:
「でも証拠は?」
目玉ん:
「証拠は残らない。」
「第6回十字軍の違和感。」
「同時代に集中する天才。」
「突然跳ねる技術。」
「終わらない戦争。」
「全部、偶然か?」
「偶然が重なりすぎると、
それは偶然じゃなくなる。」
「フリードリヒ2世
アル=マリク
ハサン・イブン
アル=フサイン
バディーウッ=ザマーン」
「ロジャー・ベーコン
ヒルデガルト・フォン・ビンゲン
郭守敬」
「レオナルド・ディ・セル・ピエーロ・ダ・ヴィンチ
ミシェル・ド・ノートルダム
ジャンヌ・ダルク
ペドロ・ド・モンテギュー
サンジェルマン
南光坊天海
徐光啓
伊東マンショ
千々石ミゲル
中浦ジュリアン
原マルティノ」
「グリゴリー・エフィモヴィチ・ラスプーチン
葛飾北斎
渋川晴海
ニコラ・テスラ
ハワード・フィリップス・ラヴクラフト」
「この中の誰かの名前は聞いたことがあるはずだ」
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目玉ん:
「円卓会議室は今も続いている。」
「あなたの国家も。」
「あなたの信仰も。」
「あなたの未来も。」
ゆっくりと円卓の影が広がる。
「すでに円卓の上だ。」
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ぷちタコ:
「信じるか信じないかは――」
目玉ん:
「あなた次第だ。」
(不穏BGMフェードアウト)
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動画を見終えた神田は、PCチェアに深く沈み込んだ。
モニターには再生終了の画面。
「いいね。彼、仕事早いね。」
指を組む。
「継続オファー、出そうかな。」
軽い口調。
だが目は笑っていない。
「奈良さんに貰ったアカウントに上げておこう。
もちろん、アクセス経路は最新の注意を払って、ですね、坂口さん。」
坂口はゆっくり頷く。
「ええ。一応、奈良さんの情報と私が知り得る範囲の材料は渡しました。
あとは動画の“バズり方”次第ですね。」
部屋の隅。
秘書がミネラルウォーターを差し出す。
田中 恒一はそれを受け取り、喉を鳴らして飲む。
「フン。こんな低俗なもの、誰が見るんだ?」
冷笑。
「もっと金をかけた映像にすればいいだろう。」
坂口は肩をすくめる。
「逆なんです、田中先生。」
わざと、そう呼ぶ。
「このくらいの粗さのほうが“本物っぽい”。」
神田も頷く。
「陰謀系はね、作り込みすぎると嘘くさくなる。
チープなほうが刺さるんですよ。」
田中は“先生”と呼ばれたことに満足し、話題を変える。
「で、マッチングアプリだったか。
スポンサーは私が集めておいた。」
タブレットを滑らせる。
有名企業のロゴが並ぶ。
「これで足りるか?」
神田の目がわずかに光る。
「十分です。
これだけの知名度のある企業が後ろ盾なら、
日本資本・全年齢規対応のマッチング系SNSとして信頼を取れます。」
少しだけ、声が熱を帯びる。
「これで、仲間の苦労が報われる。」
坂口が画面を切り替える。
UI設計図。
「そしてこれ。
奈良さんの最終チェック済み。」
画面上の配置は、完璧なまでに整っている。
坂口が薄く笑う。
「“出会い系化”や“闇バイト投稿”は自然に減ります。」
坂口が笑う。
「仕組みが、そうなっていますから。」
神田が眉を上げる。
「……仕組み?」
坂口は肩をすくめる。
「ええ。誰も違法を選ばない設計なんですって。
奈良さんの仕込みです」
神田が眉を上げる。
「本当ですか?
それ、本当なら特許級ですよ?」
キーボードを叩く。
「あ、特定の投稿パターンで裏の同期が走るようにしてあります。
意味、あるんですか?これ?」
部屋の空気が、ほんの少し重くなる。
田中が、端正な顔をゆがめる。
笑う。
「意味はある。」
静かに。
「“会議室”が隠している情報。
山形の箱大仏の画像。」
指先でテーブルを叩く。
「それが、ばらまかれる。」
神田が一瞬止まる。
「……プロモーションですか?」
坂口は何も言わない。
ただ微笑む。
「で、名前は決まったのか?」
神田が苦笑する。
「それがですね。
奈良さんの希望で“Luthco”。」
「ゴリ押しされました。」
「反対も出なかったので、それで。」
ふと気づく。
「そういえば奈良さんは?」
坂口がスマホを確認する。
「山形の月山の日本一の大噴水を見に行くそうです。」
神田が笑う。
「あの人、山形好きですね?」
坂口も笑う。
「でも、お土産は美味しいですよ。どら焼きとか何でしたっけ?梅の生チョコとか」
田中は黙ったまま、再び水を飲む。
窓の外。
五反田の夜が、ゆっくりと明ける。
高層ビルの隙間から、白い光が差す。
サーバーは、眠らない。
その日、アクセスが集中する時間。
どこかで動画がアップロードされる。
縦型と横型。
タイトルは曖昧。
サムネは粗い。
陰謀論風。
だが、刺さる者には刺さる。
再生数は、ゆっくりと伸びる。
三千。
一万。
三万。
そして。
六時間後。
削除。
異例の速さ。
だが――
六時間、日本限定で瞬間的に閲覧された。
面白がった者は、キャプチャを取る。
切り抜き。
まとめ動画。
考察スレ。
それも、六時間で消される。
通報か。
圧力か。
アルゴリズムか。
理由は表示されない。
だが。
合計して十時間強。
誰かが、見た。
それが大事だった。
情報は残らない。
だが、記憶は残る。
「なんか消された動画あったよな」
その一言で、十分。
どこかでSNSが立ち上がる。
洗練されたUI。
安心感のある配色。
スポンサー企業のロゴ。
健全。
安全。
公式。
どこかで、誰かが“偶然”それを見る。
どこかで、誰かが“偶然”箱大仏の画像を目にする。
偶然は、設計できる。
五反田の朝日が、ビルを照らす。
会議室の窓ガラスに、光が映る。
世界は、今日も動く。




