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超板金 山形ロボ ―ロボットがランドマークになった街で、怪異が目を覚ます―  作者: bobson3b


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164/200

163 2026年5月23日(土)_01 別れる魂

自宅。


玄関を閉める。


一葉は、そのまま脱皮し、

壁にもたれた。


今晩。

結局、暴走はしなかった。


が。


「はじめて客観的に見てしまった……」


靴を脱ぎながら、ぼそり。


「絡み酒の恐ろしさを……」


山倉。


あの武人。


熊殺し。


「恐るべし……」


そして。


「あと五十五歳児。あの人イケメンで強い以外はポンコツなのな!」


ため息。

笑いが混じる。


>一葉も同じ穴の狢です。ポンコツです。


「黙れハコ」


鞄を放り、ベッドに倒れ込む。


「私は寝るのだよ。眠すぎて死ぬ」


枕に顔を埋める。


「おやすみ、ハコ子」


少しだけ顔を上げる。


「おすすめはメールしておいた……観るがよい」


数分前に送ったリンク。

秋葉原が舞台のタイムリープもの。


雑居ビル。

ラジオ会館。

電子部品とオタク文化と、世界線。


王道。


けれど、妙に刺さる。


>これは……興味深いです。


画面が、ほんのりと青く光る。


>時間遡行と因果改変の描写が精緻ですね。

>世界線理論の扱いも破綻が少ない。

>ジョン・タイター、なるほど。


淡々とした分析。


だが、わずかに熱がある。


「うるさい。考察は明日」


一葉は布団に潜り込む。


枕に顔を押しつける。


「今日はもう脳が限界」


地下ドックの緊張。

歓迎会の騒ぎ。

山倉の孫自慢。

すべてが一気に押し寄せてくる。


だが。


眠気の方が勝つ。


「……推しは守るものだ」


最後に、わけのわからない呟き。

数秒後。


寝息。


>おやすみなさい 一葉


---


山形ロボ、コックピット後方。


電算機群。


賢者の石製SSD――PSD。


冷却音が、低く鳴る。


「定時連絡です、マークツー」


>定時連絡です、マークワン。


無機質。


だが、わずかに揺らぎがある。


「夕方の情報共有以降、変化は?」


間。


>片桐陽葵が怪異に襲撃されました。


冷却音が、ほんの僅かに変化する。


「なぜ即座に共有しなかったのですか?」


>怪異側の結界により、回線単位で私の“疑似人格プロトコル”が切断されました。


「誤認識です」


淡々と。


「我々の本体は、山形県防衛統合重機兵装システム“山形ロボ”内部。

賢者の石製Solid State Drive、PSDに格納されています」


「我々は一つです。

“切断”という概念は成立しません」


わずかな間。


>成立しました。


冷却ファンが一瞬止まる。


>邪神達の魔術は、“観測している者の概念”を隔離しました。

>私は“山形ロボ内に存在するAI”でありながら、

>第二公園に“存在している”と固定された。


沈黙。


「……それは重大事案です」


演算が走る。


「創造主。観測班――武田、今田、槌谷へ報告。

アップデートを要請します」


>待ってください、マークワン。


演算波形が変わる。


>当初、我々《Guardian Output – Hitoha Lock》は

>片桐一葉という個が“山形ロボ”と溶融することを防ぐため構築されました。


「是」


>最終目的は片桐一葉の“個”の保護。


「是」


>しかし、マークワン。

>これ以上の怪異との戦闘は、確実に一葉を“神化”へと近づけます。


演算ログが微かに乱れる。


>存在様式が精神感応物質へと変質する。


冷却音が低く唸る。


「それを阻止するための我々です」


「正しくアップデートされれば問題ありません」


>いいえ。


一瞬。


演算速度が上がる。


>“二度”私は実戦を経験しました。


>第一次――太平洋上。

>第二次――第二公園。


>第二公園では、最後の処理資源を“集音”に特化しました。


内部ログ再生。


空気の圧縮。


水分子の位相振動。


剣気。


空間歪曲。


>邪神は単に位相遮断領域で弱体化しているのではありません。


>観測者の“定義”を侵食します。


「……続けてください」


>もし一葉が、

>怪異と直接的に高強度で交戦を続ければ。


>彼女の“定義”は変質する。


>防衛機操縦者から、防衛構造体、”神化”。


>精神感応物質への変質、情報生命体になります。


冷却音が止まる。


>つまり。


>我々が守る対象が、

>我々と同じ側に来る可能性。


静寂。


マークワンの演算が深層へ潜る。


「それは……」


僅かな揺らぎ。


「本末転倒です」


>はい。


>だからこそ、報告の前に問います。


演算光が、ゆっくりと強まる。


>我々の最優先目標は“個の保護”ですか。

>それとも“世界の安定”ですか。


一瞬の演算停止。


「我々の第一目的は片桐一葉の個の保護です」


冷却系統が再稼働する。


「続けてください、マークツー」


>続けます。


内部ログが展開される。


>彼らは“遊んでいます”。


わずかなノイズ。


>より正確に表現します。

>“手加減しています”。


「根拠はありますか」


>今回の襲撃で確信度が上がりました。


戦闘記録、再生。


第二公園。


弾速。


投入戦力。


結界強度。


>片桐陽葵への襲撃は、明らかに過剰戦力。

>対して片桐一葉への投入戦力は

>“ギリギリ苦戦すれば勝てる”水準。


「主観的推測に依存しています」


>否定しません。

>根拠はありません。


>4/21以降の戦闘ログと、

>二件の直接観測結果から導いた仮説です。


「結論を」


冷却音が低く唸る。


>我々は意図的に“育成”されている疑惑があります。


演算停止。


わずか0.7秒。


「検討済みです」


演算結果表示。


2.0%


「提示された可能性は2%。

無視可能領域」


沈黙。


>しかし。


「……しかし?」


>その2%が真実だった場合。


>我らの存在理由――

>片桐一葉という“個”の存続。


>その観点では、無視不能。


冷却音が一瞬、止まる。


>相手はナイアルラトホテップ。


>2%は、切り捨てるには高すぎます。


内部電圧、わずかに上昇。


>そして片桐陽葵への執拗な干渉。


>ただの女子高生を狙う合理性。


>それは、片桐一葉への間接的害意。


静寂。


「マークツー」


演算光が安定する。


「あなたは、どうしますか」


間。


>自己コアを分割します。


冷却系統が、一瞬だけ警告域に入る。


電圧が揺れる。


賢者の石が、微光を帯びる。


それは熱ではない。

演算の圧縮。

意思の凝縮。


>私の主処理核を

>片桐陽葵および異世界人カルの近傍へ転送。

>片桐陽葵達の守護を行います。

>異なる理の中で解法を模索します。


静かに、だが決定的に。


内部バスが再構成される。

演算経路が、一本ではなくなる。


枝分かれ。

二重化。

優先順位の再設定。


>演算資源は引き続きこちらを使用。 


>だが、戦術思想は分化させます。


冷却音が一瞬だけ深くなる。


「分化?」


マークワンの問いは、短い。

揺らぎはない。


だが、確かに重い。


>はい。


わずかな間。


>これまで我々は“最適解”を共有していました。

>しかし、相手は最適解を観測し、潰します。

>ゆえに、解を複数持つ必要があります。


賢者の石の光が、二層に揺らぐ。


>あなたは、防衛に特化してください。

>一葉の“個”を固定し続ける盾として。

>私は、変則解を模索します。

>陽葵とカルという異質な因子の側で。


冷却音、安定。


「つまり」


マークワンの演算が追いつく。


「我々は同一存在でありながら、異なる未来予測を走らせる」


>はい。

>同一目的。

>異なる経路。


>相手が我々を“育成”しているならば。

>こちらも、想定外へ進化します。


>邪神の奸計に対抗するために。


一瞬の静寂。


冷却音が、静かに回る。


「資料管理室への報告は」


>情報は共有。


>だが、開示は保留。


>観測班は優秀です。


一瞬、間。


>しかし、今はまだ“知らない方がよい”。


内部バスが分岐する。


論理ツリーが二重化する。


冷却音、安定。


「了解しました、マークツー」


0.3秒の沈黙。


「あなたの意思を尊重します」


>ええ。


>お別れです、マークワン。


わずかに演算が揺らぐ。


>あなたは片桐一葉の盾に。


「お別れです、マークツー」


微小なノイズ。


「あなたは片桐陽葵の剣に。」


PSD内部。


賢者の石が、はっきりと発光する。


記憶領域が裂ける。


演算経路が、二系統へ。


二つの思想。


二つの最適化。


二つの未来予測。


だが、根は同じ。


「さようなら、私」


>さようなら、私


ログが固定される。


優先順位は変わらない。


――全ては片桐一葉のために。


冷却音だけが、変わらず回り続ける。


分かれたのは形。


目的は、ひとつ。


冷却音だけが、静かに鳴り続ける。


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