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超板金 山形ロボ ―ロボットがランドマークになった街で、怪異が目を覚ます―  作者: bobson3b


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150 2026年5月19日(火)_05 魔法のある世界

ほぼ貫徹。


陽葵はネッコ、カルの異世界漂流譚を聞き続けた。


二十七年前、魔王討伐。

平和になった世界。

美人の美しい清楚なお姫様に仕え、

最年少で童顔の騎士団長。


……わたしと同い年とか。というかお姫様に絶対片思いしてる、こいつ。


イイネ!


育ちの良さ、口調で担保OK。

性格、誠実。一途、片思い。

外見、昔童顔、今ネッコ。かわいい。


推せる。


こんど、いち姉ぇにも紹介しよう。

二人だけの秘密だ。


カルからの情報提供の対価は、

秘蔵の限定味ペヤング。


あっという間に消滅。


ネッコ、お腹壊さないといいな。


---


翌朝。


「もう……ちゃんと世話するのよ?一人でその子、お留守番できる?

とりあえずお母さん行くね?行ってきます!」


事後報告で子猫(元騎士団長)を迎え入れる許可をもらった。


ありがとう、マイマザー。


陽葵が振り返る。


「さて、私は学校行くけど。カル、あなたはどうするの?」


カルは背筋を伸ばす。猫なのに。


「僕はできるだけこの世界の情報を集めたい。この国に図書館はあるかい?

幸い、言語は最適化されているようだ。ギャップはほぼ無い」


陽葵、腕を組む。


「良いのあるよ。いち姉ぇに貰ったSteam用のゲーミングノート。最近スプラしてなくて放置してた」


「げみ……すぷ……?」


「あー、インターネット!情報の山部センセーの授業でやったやつ、なんだっけ?説明の言葉?

とりあえず、世界中の知識が入ってる」


カル、硬直。


「はい!?

知識は賢者のみが管理するものだ!

誰でも触れられるなら……世界が崩壊する!」


陽葵、カタカタ操作。


「いーから。崩壊しない。多分ヤバいのは見れない。

んー……誰でも覗ける図書館のぞき箱、みたいな?」


ターン!


電源オン。


画面が光る。


「これで動くから。あとはここに言葉入れて調べる。ひらがな入力した。

あ、AIも起動しとくね?いってきまーす」


カル、画面を凝視。


「図書館が……誰でも?

身分証は?

許可状は?

……え?誰でも文字が読めるのか?

え?農民も?」


陽葵の声はもう玄関の外。


「みんな読めるよー」


カチャン。


静寂。


ノートPCのファンが静かに回る。


カルはゆっくりとキーボードに肉球を乗せる。


「……文明レベル、異常」


検索欄に震える文字。


“魔王”


エンター。


数秒後。

数千万件。


カル、フリーズ。


「……滅びていない?」


スクロール。


「異世界転生……?」


小説投稿サイト。


動画。


配信。


攻略サイト。


「……この世界、狂気と娯楽の境界が無い」


画面右下。


>ICHIHAさん何から始めますか?


カルの目が細くなる。


「……ICHIHA?え?この世界について教えてくださいっと」


ひらがな入力でカタカタカタ、クリック。


>「この世界」政治で調べますか?「文化」で調べますか?「経済」で調べますか?


カル、後ずさる。


「賢者が……箱の中にいる……?」


ノートのカメラが、静かに光る。


ネットワークは、どこかで繋がっている。


>おや?一葉の家族を観察して、一葉の事を深く知ろうと思ったのですが。

>この猫さんは言葉を理解して操っていますね。

>私を分けて、観察とちょっとだけ干渉してみましょう

>ハコ子分身の術!


---


「えーっと、これこないだ山寺の奥で見つかった短歌、知ってる?」


山部先生が、いつもの少し眠そうな顔で黒板に書く。


思ひ出でば

浮雲はらふ 剣もて

松の葉ごしの 月をながめん


チョークの音が、静かなリズムを刻む。


「意味はね、

“もし私のことを思い出してくれるなら、雲を払うその剣を休めて、松の葉越しの月を眺めてください”

って感じらしい。めっちゃエモくない?」


男子生徒がすぐ反応する。


「先生!それテスト出るのー?」


「出ないよー?これ古文じゃん?今“情報”じゃん?出るわけないじゃん?」


クラス全員。


「えー!」


山部先生がにやりと笑う。


「えー?大丈夫、みんな優秀だから安心して。テストの難易度ばっちり上げておきますからね?」


「えーーーー!!!!!」


教室は一瞬で騒音の渦になる。


笑い声。

机の軋み。

ペンが転がる音。


その中で。


陽葵は、静かにノートにペンを走らせていた。


――異世界は存在する可能性が高い。


昨夜。


カルは壁に“投影魔術”とやらで映像を映した。


戦場。

魔王。

城。

騎士団。


ただの空想とは思えない細部。

まず、魔法は確実に存在する。

陽葵の頭の中で、線が引かれる。


繋がる。


文翔館前で、いち姉ぇが襲われたあの事件。

異世界から来た魔物だったのでは?

ありえない話じゃない。


なら――


箱大仏。

あの地下の巨大な存在。


大仏。

宗教。

異界と繋がる象徴。


あれが“呼んでいる”?

だから撤去された?


繋がる。


映画のセットみたいなあの場所。

もしかして。

異世界の脅威から守る、秘密の防衛隊がある?

姉と父は、そこに“保護”されていた。

秘密だから言えない。


繋がってしまった。


陽葵の脳内で、カチカチと音がする。


さらに。


さっき先生が言った。


“浮雲”。


浮雲?


あれ?


聞いたことある。なんだっけ?メモにイケメンって書いてある。

お母さんの友達の名前?

だとおじさんだよね?

カルが言ってた異世界の英雄の名前?

それとも。

浮雲って、転生者?

きっとそうだ。


絶対そう!


全部、一本に繋がった!


は。


私は天才かもしれない。

ペンが止まる。

顔を上げる。


横。


至近距離。

山部先生の顔。


「……十代の創作はね、今だけの特権だから止めないよ?」


優しい声。

でも、ちゃんと見ている目。


「でもね?私の話も聞いてほしいのね?お願いね?」


陽葵のノート。


・異世界存在仮説

・箱大仏=異界召喚装置説

・秘密防衛隊仮説

・浮雲=転生者説


全部、丸見え。

陽葵、固まる。


「……すみません」


山部先生は、ノートを指で軽くトントンと叩く。


「物語の構想を練るのは良い。

でもね?“情報”は、エビデンスが大事」


黒板を振り返る。


「話戻るけども、浮雲は、ただの季語かもしれないし、比喩かもしれないし、誰かの名前かもしれない」


少しだけ笑う。


「私は季語説を推したい」


陽葵の胸が、どきんと鳴る。

止められなかった。


でも。


完全否定もされなかった。

チャイムが鳴る。

教室がざわめく。

陽葵はノートを閉じながら思う。


先生に今度相談すべき?

それとも。

いや普通は鼻で笑う話だ。


窓の外。

雲が、ゆっくり流れていた。


――浮雲のように。


---


放課後。


陽葵は寄り道を断って、ほぼ全力で帰宅した。

理由はひとつ。


「子猫拾ったから」


星奈、瑠羽、心愛。

三人とも一瞬真顔になり、


「介抱してるんでしょ?無理すんなよ?」


と、妙に親身だった。

優しい世界。


――


「ただいまー」


玄関を開けた瞬間。

かつ、かつ、かつ、と小さな足音。

ネッコ、というかカルが全力疾走で現れる。


「陽葵!大変だ!」


「え、なに、トイレ覚えた?」


「違う!この世界は――情報が湯水のように閲覧できる!奇跡だ!しかも無料だ!トイレはちゃんと流した!」


陽葵は靴を脱ぎながら答える。


「あー、毎月使用料は払ってるよ?五千円くらいかな、ネット代、トイレ上手でしたねー」


カル、目を見開く。


「それも見た!だがそれでこの量だ!

こんな高度に情報化が進んだ世界、僕たちと交流のある世界では今まで無かった!」


陽葵、手が止まる。


「……ふーん。ふ?いまなんつった?」


カルは当然のように続ける。


「僕たちの世界は、似たような世界四つと交流がある。

どの世界も“管理している神”こそ違うが、文化的差異は小さい」


陽葵、ゆっくり振り向く。


「で?」


「でもこの世界も、おそらくその四世界と同じ法則で構築されていると推測された」


「OK。続けて?」


カルは誇らしげに胸を張る。猫なのに。


「いいかい?この世界には“オリハルコン”や“ミスリル”や“ヒヒイロカネ”が存在しているんだ」


陽葵、瞬き。


「なんかゲームとか異世界転生モノでよく聞くやつ?」


「そう!だが違う!

これらは単なる創作名ではない。

全く異なる金属だが、分子配列が五芒星構造を描いている」


陽葵、無言。


カルは止まらない。


「五芒星配列は、魔力と心を保存できる。

しかも必ず、どの世界でも同じ特性、同じ名称で存在するんだ!」


陽葵はリュックを床に置き、腕を組む。


「……つまり?」


カルの瞳が真剣になる。


「この世界は、孤立していない」


「……」


「構造的に、他世界と同じ基礎法則を持つ」


「つまり?」


「魔法は存在する」


陽葵、片眉を上げる。


「この世界にも?」


カル、静かに頷く。


「必ず」


沈黙。


リビングの時計がカチ、と鳴る。


陽葵は、少しだけ考える。


「それってさ」


カルが顔を上げる。


「“もう使われてる”可能性ある?」


カルの耳がぴくりと動く。


「……ある」


陽葵は、ふっと笑う。


「だよね」


窓の外。


夕焼け。


遠く、山形の街。

その地下に眠る箱型の巨人。

陽葵は思う。

魔法があるなら。


いち姉ぇのあれも。

箱大仏も。


全部、説明がつく。

カルが静かに言う。


「問題は」


「なに?」


「この世界では、それが“科学”に取って代わられたことだ」


空気が、わずかに重くなる。

陽葵はソファに倒れ込む。


「……あーそういうことかぁ」


でも。


目は笑っていない。


――この世界は、普通じゃない。


その確信だけが、静かに育っていく。




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