142 2026年5月18日(月)_06 ラーメンファイト!ラウンド1
■ 第1班:池上苑
今野(医療)
鎌田(整備)
武田(観測)
長井(警備)
更家(警備)
一度「ケンチャンラーメン山形」のクジを引いたのだが、生憎の定休日。
再度のシャッフルでこちらのお店が当たったのだ。
山形駅西口から西へ、緩やかな坂を下る。
昼の陽射しはまだ強すぎず、街路樹の影が歩道にゆれている。
扇状地の山形市は東西での高低差が100メートルを超えるのだ。
百円ショップの赤い看板の前を通り過ぎると、そこに目立たない暖簾がかかっている。
いわゆる“街中華”と呼ばれる店構えだが、年季の入った看板が、ただ者ではない雰囲気を漂わせていた。
裏口の駐車場に車を止め、五人は並んで店に入る。
カウンターと小上がりの座敷。昼のピークには少し早い時間帯で、店内はまだ落ち着いている。
案内された座敷に腰を下ろすと、畳の柔らかさが不思議と緊張をほどいた。
今野が壁のメニューを眺めながら、ほう、と息をつく。
「どれも美味しそうですね……」
鎌田は腕を組んで、壁の短冊を眺める。
「あー、前さ、駅前のラウンジ行ったとき、なんかここのテイクアウト食ったかも。かなり美味かった気がする。」
武田が少し身を乗り出す。
「山形って、ラーメン美味しいんですか?」
長井が笑う。
「らしいぞ?俺たち二班は四月二十三日からの配属だからな。もともといた一班の連中から、たまにうまい店は聞いてる。」
更家がうなずく。
「あいつら、やたら詳しいからな。山形全県を三人でフォローしてたって話だし。」
注文を終えると、厨房から中華包丁の音が響く。
中華鍋。油のはぜる音。香りが立ちのぼる。
やがて、湯気とともに丼が運ばれてくる。
今野は北京風らーめん。透き通ったスープに細麺が泳ぐ。
「牛骨……でしょうか。なんだろう、するするいけますね。」
鎌田の前には麻婆ラーメン。赤い餡がたっぷりと揺れている。
「あ、麻婆けっこう美味い!これ、ちゃんと香辛料きいてるけど食べやすい!」
武田は四川風らーめん。香辛料の匂いが鼻をくすぐる。
「おいしい……。癖になりそうです。」
長井と更家は半炒飯と拉麺のセット。
長井がスープをすすりながら言う。
「この辺で案件あったらキープだな。」
更家が炒飯を口に運び、静かに頷く。
「ああ。那須にも教えよう。」
ただ、それぞれの丼に静かに向き合い、余計な言葉は交わさずに箸を進める。
丁寧に仕上げられた中華の味が、熱とともにゆっくりと身体へ沁み込んでいく。
派手さはないが、出汁も油も塩も、どれもが角を立てず、きちんと仕事をしている味だった。
湯気の向こうで、昼の光がやわらかく揺れている。
その光の中で、誰もがほんのひとときだけ、肩の力を抜いていた。
第1班、完食。
---
■ 第2班 寅真ら~めん
青山(顧問)
若林(司令部)
早川(整備)
今田(観測)
浮雲(警備)
山形県庁のある松波から、さらに東へ。
住宅街の一角に、その店はあった。
寅真ら~めん。
目立つ外観ではないが、すでに店前には列ができている。
平日の昼前だというのに、多くの麵好きが迷いなく並んでいるあたり、実力店なのだろう。
辛うじて専用駐車場に車を止め、五人は最後尾に並ぶ。
馬見ヶ崎川が近いせいか風が少し冷たい。ラーメン日和だ。
事前に食べログでメニューを確認済み。青山がスマホをしまいながら言う。
「辛味噌ラーメン……魚介系か。鎌田が好きそうだな。いつも並んでいるから、つい避けていたのだが。」
若林がすかさず横から釘を刺す。
「いい、平輔? あんた“四天王原理主義”は控えるのよ?」
今田が首を傾げる。
「何ですかそれ?」
若林がため息交じりに説明する。
「私が悪いんだけどね。昔、山形に“ラーメン四天王”って呼ばれてた店があってね。全店巡ったら、この人、それ以外は認めなくなって難儀したのよ。」
今田が苦笑する。
「あー……天然の人って、たまにこだわり強いときありますからね。」
浮雲が小さく抗議する。
「悠……頼む、そういうのを若いのに教えるのは……」
早川が肩をすくめる。
「いや、お前との記憶を忘れちまった今の俺が言える立場じゃないがな。浮雲、お前、結構食い物面倒くさいぞ?」
「え??」
「若林と初デートで行ったろ、ろかーれ。しばらく毎日通って毎日カルボナーラ大盛り食って、今野先生に“痛風になる”って怒られただろ?」
浮雲が、悲しそうに俯く。
「……すまん。気を付ける。こないだはきちんとカレーを食った、ハンバーグカレーだぞ?」
「平輔、お願い、貴方は一応英雄なの。自重しろ」
列が少しずつ進む。
暖簾の向こうから、スープの香りが漂ってくる。
十分ほどで店内へ。
券売機で食券を購入し、混雑を避けるため二手に分かれて座る。
青山は辛味噌ら~めん。
丼の横の小皿に赤い辛味噌が鎮座し、魚介の香りが立つスープを味変しながら楽しめる。
一口すすり、目を細める。
「ああ……これは見た目よりあっさり系だな。今度、孫たちを連れてこよう。」
若林と今田は辛味噌チャーシュー麺。
若林はご機嫌だ。
「今日はチートデー♪ キャベツもあるからヘルシー♪ 私、ここ好きなのよ。」
今田は丼を覗き込み、思わず声を上げる。
「チャーシューが……丼からはみ出てる……。え? これで千五百円しないの?……うまっ!」
一方、浮雲と早川は特製しょうゆら~めん。
澄んだ醤油スープに、厚切りのチャーシュー。
早川が懐かしそうに言う。
「あかねヶ丘店以来だなぁ。うめぇ。浮雲、お前、毎食通うなよ?」
浮雲は真顔で返す。
「え? ダメなのか?」
早川が即答する。
「いや、ダメだろ?」
今田が横から呟く。
「正気ですか?」
若林が深刻な顔をする。
「うちの子がごめんね?」
店内に、笑いが広がる。
ただ、それぞれの一杯に向き合う。
辛味噌の赤と、醤油の透明。
昼の光が湯気を透かし、丼の上に揺れている。
第2班、完食間近。




