表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
超板金 山形ロボ ―ロボットがランドマークになった街で、怪異が目を覚ます―  作者: bobson3b


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

124/200

123 2026年5月14日(木)_08 決着、太平洋の死闘

山形ロボ<影>が、翼を大きく広げる。


空間に畳まれていた巨大な刀身が、透明な日本刀として展開される。

結晶化したヒヒイロカネの護身刀。


山形ロボサイズに巨大化されたそれを、ペンチのような手で握り締める。


神気を練り直し、修復を急ぐボクラグへ、一気に踏み込み、

神気の外殻を切り裂く。


「動き早い! 追いつけない!」


>どうさほじょように かこの そうじゅうパターンを エミュレーションして りゅうようしますか?


「どういうこと!?」


>うきぐもへいすけの そうじゅうきろく さいしゅうけっせん、30ねんぶんあります

>つかえるそうじゅうきろくを そうじゅうAIに わたしますか?


その間にも。


山形ロボは、回復を始めたアトラック=ナチャを殴りつける。


「今それどころじゃない! 勝手にやって!」


>わかりました パイロットうきぐも エミュレーションパッチさくせい

>これがあればどうきりつあげずに けいかいにうごけます


「あ・り・が・と・ね!」


重力補助と脚部噴射。

緩和されたG、それでも脳をシェイクする。


矢のように加速する。


蜘蛛の神気を、さらに切り裂く。


サブモニターに文字が走る。


<YAMAGATA CORE UNIT>

<MODEL: JGR-06-core ver.2026>

<Maneuver Support Emulative Overlay:UKIGUMO>


挙動が変わる。


軽い。


鋭い。


同期率95%後半の時のような滑らかさ。


「あれ? これどうしたの?」


>うきぐもの くせを はいじょした テクニックをそうじゅうけいAIが ひとは にあわせてさいげんします

>おおはばな どうさのさいてきか が はかられます

>ひとは は ひとは のまま つよくなりました


「……すごい。これ、すごい」


海面を滑るようにホバリングする。


その軌道は、美しい。


ナイアルラトホテップが、目を細める。


「片桐一葉の動き……だけでない。浮雲独自のマニューバのはず」


神気の右腕を巨大化し、山形ロボに斬りかかる。

刃が閃く。


ギャリッ!


左腕で受ける。

耳を裂くような異音。


3対2。


依然、不利。


浮雲の声。


「一葉、呼吸合わせられるか? 蜥蜴を先に仕留める。月山おろしだ、ワンツーでいくぞ!」


「……アドリブいけるかぁ! やるけど!」


局所位相固定、100メートル展開。

人が邪神と素手で殴り合うための結界。


山形ロボ<影>の日本刀が、因果凍結の光に輝く。


山形ロボの右前腕装甲が、スライドする。


――カシャン。


内部でタービンが謳う。

美しく冷たいコーラス。


冷却ガスが白く噴き出す。


前腕が高速回転を始める。


その時。


ボクラグが吠えた。


神気が膨張する。


海水が、応える。


周囲数キロの海が渦を巻き、巨大な「水の頭部」を形成する。


無数の水弾。


水圧。


水槍。


すべてが必殺。


「人間がぁ!」


水圧と呪いが絡み合う。


「自分たちは特別だと? 異形を排除して報いを受けぬと?」


黄緑色の眼が、冷たく輝く。絶対に報復する因果を練り上げる。

対象への存在否定。


神格干渉。


並みの邪神格なら捩じ切られる暴力が訪れる。


訪れるはずだった。


だが。


山形ロボの丸い眼が、射貫く。


「去れ」


声。


誰の。


「汝は理を乱す誤謬。記憶に値せぬ汚泥。去れ。」


一瞬。


ほんの一瞬。


ボクラグの意思が、呑まれた。


アトラック=ナチャの糸が届かない。


ナイアルラトホテップの位相転移が間に合わない。


ボクラグが、神として神格を過剰稼働。


石造都市が海上に出現する。


一瞬で築かれる神話の遺跡。


石塔が乱立し、進路を塞ぐ。


本来の神格に匹敵する軌跡。

肉体が負荷に持たず溶け始める。


だが遅い。


高速飛行モードの二機に、邪眼と石塔と水弾のすべてが襲い掛かる。

無数の殺意に銀と黒が躍る様なマニューバで突入する。

コクピットを保護するMPCFに遅延が出る。

慣性の暴力に晒された一葉の視界が灰色になる。


瞬きができない。

胃が背中に張り付く


感覚が研ぎ澄まされる

石塔が線になる。

水弾が光条に見える。

いや、止まってる。

遅すぎるだけだ。


だから止まらない。


「俺は神だ! 俺を傷つけた者! 許せない! 許せない!」


ボクラグの瞳が、裂ける。


それは怒りではなかった。

執念でもない。

もっと原始的で、もっと粘ついた何か。


邪眼が、開く。


黄緑色。


濁った海藻のような色。

腐食した銅のような光。


それはただ“見る”だけの眼ではない。


因果を掴み、時間を引き裂き、

未来永劫、子々孫々にまで伸びる呪いを放つ眼。


「……許せぬ」


低い、泡の弾けるような声。


神気が、収束する。


世界の音が、一瞬だけ遠ざかる。


その呪いは、一葉ひとりに向けられていた。


彼女の名を起点に。


彼女の血筋を起点に。


彼女の選択を起点に。


未来を、塗り潰すために。


千年後。

二千年後。

まだ見ぬ誰かの笑顔を、歪めるために。


「人間が……俺を傷つけた」


邪眼が、光を帯びる。


放たれるはずだった。


その瞬間。


視線が、射貫く。

山形ロボの視線。


「――在ってはならぬ」


声は、どこからともなく響いた。


黄緑色の光が、わずかに揺らぐ。


「未来を奪う資格はない」


海風が止む。


時間が、硬直する。


ボクラグの神気が、凍る。


邪眼の光が、収束したまま、動かない。


黄緑色の眼が、震える。


呪いは、放たれない。


未来へ伸びるはずの因果の糸が、

途中で、凍りついている。


刹那、

浮雲が吠える。


「因果よ、凍りつけ!」


強烈なGで一葉の口内が乾く。


脳裏に浮かぶ文字列、

“バイタルステータス:観測終了”


これ以上増やさない、増やさせない。

誰かの“明日”を護るため、これは無視できない。


―だから一葉が叫ぶ。


「あんたを、人の世界に、山形に入れるわけにはいかない!」



二つの声が重なる。


「「月山おろし!」」


因果を切断する冷光。


霊子が凍る。


海面が、音を失う。


波が、途中で止まる。


水弾が、雫のまま、空中に静止する。


石造都市の輪郭が、

輪郭のまま、意味を失っていく。


神気が、裂けない。


砕けない。


ただ、

“参照先を失う”。


ボクラグの瞳が、揺れる。


「俺は――」


声が、続かない。


その存在を支えていた“物語”が、

一行ずつ、静かに削除されていく。


石造都市。

崇拝する人型種族。

古き盟約。

信仰。

怒り。


すべてが、ログのない領域へ押し戻される。


山形ロボの双眸が、淡く灯る。


「在ってはならぬ。」


それは宣告ではない。


確認だった。


ボクラグの神格が、

一瞬だけ、過去へ逃げようとする。


だが、

逃げ先がない。


この海には、

もう彼の“席”が用意されていなかった。


光が、走る。


凍った因果が、砕ける。


破片は飛ばない。


音もない。


ただ、

そこに在ったはずの質量が、

水の密度から、そっと引かれる。


海面が、わずかに沈む。


ほんの数ミリ。


世界が、

「重さ」を取り戻す。


石造都市が、砂のように崩れる。


水槍が、ただの水へ戻る。


邪神の瞳が、最後に揺れる。


「……人間……」


その声は、

もう、どこにも記録されない。


ボクラグは、


受肉した肉体ごと、

神格ごと、

因果ごと、


“無かった”。


後に残ったのは、


凪いだ海と、

静かな空と、


山形ロボの丸い双眸だけだった。


空白。


神格が、消える。


ナイアルラトホテップが、舌打ちする。


その音だけが、止まっていた風の中でやけに鮮明に響いた。


砕けた神気の残滓が、彼女の足元でゆらりと揺れる。

まるで、水面に浮かぶ油膜のように。


アトラック=ナチャの人間体を、片手で掴み上げる。

細い首元を、乱暴でもなく、優しくでもなく。


「今日は、ここまでか」


黒い瞳が、海上の二機を見比べる。


「幽世で復活するにしても、相当かかる……。あの蜥蜴、当分は喋れないだろうね」


空間が、きしむ。


位相が折れ曲がる音はない。

だが、光の屈折がわずかに狂う。


海の匂いが、薄くなる。


黒い翼が、ゆっくりと畳まれる。

羽根の一枚一枚が、闇へ溶けるように。


それでも、口元は笑っている。


「片桐一葉は、生き残ったけど……」


巨人は肩をすくめる。


「いいよ。最高に面白い」


視線が、ゆっくりと山形ロボへ向く。


黄色い双眸。

紅い残像。


機体を見ているのか、

その奥の“誰か”を見ているのか、分からない。


奈良は、くすりと笑った。


「片桐一葉、イレギュラー。“狂気的な善”を行使するもの」


一拍。


「改めて、覚えておくよ」


一歩、後退する。


その足は、海面を踏まない。

空間そのものを、踏む。


位相が、閉じる。


空が、紙のように折り畳まれ、

裂け目が、糸で縫われるように細くなっていく。


最後に、かつて一葉が推していた混沌 めるの声だけが残る。


「次は、もっと丁寧に壊してあげる」


ぱちり、と。


音もなく、闇が消える。


アトラック=ナチャも、影ごと、連れ去られる。


二柱、撤退。


---


洋上。


静寂。


波が、ようやく動き出す。


遅れていた風が、吹く。


遠くで、深き者の死骸が、ただの肉へ戻る。


山形ロボ。

山形ロボ<影>。


二機が、並び立つ。


銀と黒。


「……作業、完了」


双眸だけが、まだ灯っている。


空には、

さきほどまで神格が押し広げていた裂け目の名残が、

蜘蛛の巣のようにひび割れとして漂っていた。


やがて、それも消える。


世界は、何事もなかった顔を取り戻す。


だが、海は知っている。


ほんの数分前まで、

神が、ここに在ったことを。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
SF / ロボット / 地方都市 / 行政・公務員 / 都市伝説
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ