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超板金 山形ロボ ―ロボットがランドマークになった街で、怪異が目を覚ます―  作者: bobson3b


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122 2026年5月14日(木)_07 巨神激突

洋上を、漆黒の影が裂く。


翼を鋭角に畳み、空気を刃のように切り裂きながら高速飛行する山形ロボ<影>。


その正面。


神気を巨大な蜥蜴のように纏ったボクラグが、海面を蹴る。


尾が振るわれるたび、海水が槍と化す。


「穿て」


低い声。


海水が、追尾する矢のように無数に放たれる。


空気が歪み、水の粒子が弾丸のように突き刺さる。


その側方。


神気を巨大な蜘蛛の姿に変えたアトラック=ナチャ。


深紅の目が瞬く。


指先が動く。


見えない。


だがそこにある。


触れた瞬間、位相ごと切断する糸。


空間が、細く裂けていく。


浮雲=山形ロボ<影>は、その隙間を縫う。


高速。


だが無駄がない。


接近を許さない鉄壁の防御。


反撃の機会をうかがう沈黙。


そして――


黒い翼。


巨大な影の巨人。


神気を背に纏った真鹿める=ナイアルラトホテップが、位相転移を繰り返す。


残像。


消失。


出現。


刃が走る。


山形ロボ<影>の装甲に、概念の切断痕が走る。


遠く。


日本海溝直上から、蒼い神気。


視界の端。


撤退する深き者。


ナイアルラトホテップが、肩をすくめる。


「せっかく港町ひとつスカウトして連れてきたのに、もう退散してるのか……」


鼻で笑う。


「そういうところ、日本人の勤勉さ、学んだほうがいいですよ?」


浮雲が唸る。


「貴様ぁ!」


ナイアルラトホテップが、目を細める。


「叫ぶしかできない浮雲くん。いいね、今風に言うと“尊い”だったかな?」


黒い翼が揺れる。


「ずっと私を、僕を殺したがってたものねぇ」


一歩、空間を踏む。


「ほらぁ。2,277,600年前みたく油断してあげるから――頸、取ってみなよ」


その瞬間。


霊子化炭素繊維のワイヤーが閃く。


一瞬。


拘束。


「フヒ! あぶないあぶない」


ナイアルラトホテップが身をひねる。


ワイヤーが弾ける。


瞳が、遠くを見る。


「もうこっちに来た!」


口角が吊り上がる。


「山形ロボ。片桐一葉ちゃん」


「よけるなぁ!!!」


超音速の加速からの急停止。

空気が、遅れて悲鳴を上げる。


山形ロボ。


多層位相制御フィールドが左手で球状になる。


加速熱。


衝撃波。


空間摩擦。


本来なら機体を焼き尽くすはずのエネルギーを、個体化。


展開していた真空膜を右手で握る。


内部には時速40000キロの慣性、濁流のように保存されている。



>ひとは あまりこのいどうはしないで せかいがゆがむ


操縦桿を操作しかけ、慌てる一葉。


「え、これ解き放っちゃダメなの? 危ないよ?」


>そう せかいがおかしくなる みんなにも いわないと


「……やべぇ、結構使ってる。ゴメン世界」


一瞬の呼吸。


睨む。


蜥蜴の神。


「んじゃぁ!!!!!!」


右手に真空膜。


荒れ狂う慣性。


左手に多層位相制御フィールド。


衝撃波と加速熱。


「ハグロ・インパクト!!!!」


時速40000キロからの急停止。


世界が、わずかに軋む。


圧縮された慣性が、逃げ場を失う。


真空膜の内側で、

420トンの存在が持っていた運動量が、

一点へと折り畳まれていく。


拡散しない。

漏れない。

爆ぜない。


ベクトルは、ただ一本。


右拳に、固定される。


山形ロボが踏み込む。


――直線。


拳が、ボクラグの顎を神気ごと撃ち抜く。


それは爆発ではない。


宇宙法則そのものが、

位置をずらしただけだ。


音は遅れて来る。


神気が、裂ける。


顎から後頭部へ、

不可視の衝撃が貫通する。


海面が大きく波打つ。


だが、蒸発はしない。


砕けたのは水ではなく、

神格の位相。


物理学の暴力。


振り向きざま。


「ユドノ・バースト!!!!」


加速時に生じた摩擦熱。

大気を裂き、海上を駆け抜けた際に蓄積された圧縮熱。


衝撃波は拡散させない。

多層位相制御フィールドの内側で、

熱と圧を結晶化する。


それは炎ではない。

白色に凝縮した、灼熱の塊。


山形ロボの左手が、わずかに開く。


――解放。


光が走る。


アトラック=ナチャの腹部へ、

一点限定で叩き込まれる熱量。


爆風は広がらない。

海は蒸発しない。


焼き尽くすのは空気ではなく、

“因果の接続部”。


蜘蛛の神気が、

焦げるように軋む。


糸が、音もなく断裂する。


存在密度の差に耐えきれず、

編み上げられていた位相構造が、

一枚ずつ削ぎ落とされていく。


「どうよ!思いつきだけど!」


>ひとは かっこいい


浮雲の声。


「一葉、加勢助かる」


「おうよ!」


陽光を反射する銀。

世界を吸い込む漆黒。


山形ロボ。

山形ロボ<影>。


二機が、洋上に並ぶ。


山形ロボ内部。

出力制限30%。

霊子炉《如来》が、低く唸る。

光子炉《観音》が、透き通るように鳴く。

次元炉《菩薩》が、軋む。


三炉は臨界には届かない。

制限されている。

だが――

共振が一点へ収束する。


山形ロボ<影>。

質量を持たぬはずの構造体。


守る。

貫く。

耐える。


影の内部で、

無数の戦闘記録が高速で再生される。

2,277,600年。


失敗。

撤退。

殴打。

拘束。

神格との衝突。


すべてが圧縮され、

現在へ接続される。


決して交わらない二機の出力が共振した。


その瞬間。


風が、止まった。


荒れていた海面が、嘘のように凪ぐ。


砕け散った神気の残滓が、空中で凍りついたように静止する。


白波が、崩れない。


水滴が、落ちない。


深き者の一体が、逃げる姿勢のまま固まる。


甲板で踏ん張っていた髙橋が、無意識に息を止める。


長井の指が、引き金に掛かったまま止まる。


観測班達や児島の乱戦が止まる。


ナイアルラトホテップの黒い翼が、羽ばたきかけたまま、止まる。


ボクラグの再構成中の神気が、ゆらぎを失う。


アトラック=ナチャの糸が、空間を裂きかけたまま凍る。


音が、消えた。


衝撃波も。


風切り音も。


海鳴りも。


ただ、二機の箱だけが、そこに在る。


銀と黒。


双眸が、同時に灯る。


黄色。


そして、紅。


一葉が吠える


「邪神ども!かかってきな!」


一瞬、視線がナイアルラトホテップへ向く。


「あと奈良さん!あなたは許しません!私の推し返せ!」


>やっつける!


黒い翼が、ゆらりと揺れる。


ナイアルラトホテップが、静かに笑う。


「――いいね、いいね、やっと、同じ高さに来た」


戦場が、さらに歪む。


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