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超板金 山形ロボ ―ロボットがランドマークになった街で、怪異が目を覚ます―  作者: bobson3b


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119 2026年5月14日(木)_04 太平洋、悪意を込めて

最初は、本当に小さな違和感だった。


波が、ほんのわずかに重い。

艦縁に当たる水飛沫が、糸を引くように粘る。


見張りの隊員が双眼鏡を下げた。


「……?」


次の瞬間。


ぬらり、とした腕が、しなのの艦縁に掛かった。


青黒い鱗。

吸盤のような指。

関節が、人間よりひとつ多い。


「……っ」


もう一本。


もう一つ。


無言。


水音だけが、べたり、と甲板を濡らす。


「接触確認! 艦縁、複数! 深き者!」


警報が鳴る。


かげろうの甲板でも叫び声が上がる。


「左舷側にも出現! 這い上がってくる!」


貨物船――偽装された都道府県ロボ専用ドック船。


「ドック船、外板に付着確認! 数十体規模!」


「一隻は仙台港で補給中! そっちは無事!」


銃声。


甲板で跳ねる薬莢。


金属に叩きつけられる鈍い衝撃音。


深き者の一体が、無言のまま自衛官に飛びかかる。


「撃て!」


短い命令。


乾いた連射。


黒い体液が、甲板を滑る。


児島が通信室で立ち上がる。


「浮雲の監視を抜けた?!

警備班、二名は整備班の護衛に回って!

浮雲は最大火力で洋上で遊撃、被害を食い止めて!」


「了解!」


今田の声が、突然裂けた。


「何者かが霊子化炭素繊維のワイヤーを切断しようとしています!」


室内が凍る。


児島が即座に返す。


「通信は!?」


「通信用ワイヤーの基部変換機、破壊確認! 映像、途絶!」


深海八千メートル。


山形ロボ、孤立。


児島は一瞬だけ目を閉じ、短く息を吐いた。


「……アンチインサニティマテリアル、全員装着」


整備主任の早川が顔を上げる。


「現在、地球規模の位相遮断領域があります。不要では?」


児島は振り向かない。


「ネームドが出た場合、時間稼ぎくらいにはなる」


振り向く。


「遭遇して即座に正気を失うよりは、ましでしょ?」


沈黙。


「……了解。全員配布」


甲板の空気が変わる。


戦場の匂い。


---


洋上。


波間の上に、三つの影が立っていた。


作業服姿のアジア系の男。

制服を崩した細身の青年。

白いサマーセーターの女。


ボクラグ。

アトラック=ナチャ。

そして――真鹿める。


いや、ナイアルラトホテップ。


深き者どもの侵攻を、ただ眺めている。


ボクラグが、ゆっくり肩を回す。


「……人の子が多い船だ。どうするのだ?」


アトラックが空を見上げ、電波を探す仕草。


「ねー、ここ圏外なんだけど。今日まだログインボーナス貰ってないよ?」


ナイアルラトホテップが、くつくつと喉を鳴らす。


「ヒホヒホ……フヒ? あれ? あー。アー。あー」


喉をさする。

指先が、いびつに波打つ。


「……位相遮断領域の影響で肉体変化も大変なんです」


声色が、わずかに揺らぐ。

成田から奈良、そして真鹿めるへ。

男とも女ともつかない響き。


ボクラグが低く問う。


「不安定か」


「不便、と言ってほしいな」


ナイアルラトホテップは肩をすくめる。


その背で、仮面がひとつ、溶けるように消える。


「この世界、今は“均されている”。神格を広げるとすぐ検知され、貶められる」


アトラック=ナチャが、指先で空を弾く。


「帯域制限。出力上限。もろもろ制限がある」


ナイアルラトホテップは、楽しげに笑う。


「だからね」


両手を胸の前で合わせる。


ぐ、と押し込むように。


その瞬間。


背後に広がっていた“気配”が、音もなく折り畳まれていく。


都市が、消える。

糸が、巻き取られる。

仮面が、剥がれ落ちる。


波間に立つのは、


ただの若い女性。


白いサマーセーターが、風に揺れる。


「ほら」


くるり、と一回転。


「神格を畳むと、案外目立たない」


ボクラグが、鼻を鳴らす。


「縮んだな」


「違うよ」


ナイアルラトホテップの瞳が細くなる。


「“収納”だ、覚えると遊び場が広がるよ?」


海面が、静かにうねる。


遠くで銃声が響く。

始まったらしい。


「あっちも始まった。でも焦らないで」


その声は、やわらかい。耳に心地がよい。

癒しの声。


「今日は“観察”の日」


指先で、空気をなぞる。


「彼らが、どこまで耐えられるか」


アトラックがぽつりと呟く。


「深海の子も、そろそろ上がってくるかな?」


ナイアルラトホテップは、ゆっくりと海を見た。


「ええ」


微笑む。


「主役は、これからだ」


ナイアルラトホテップは、ゆっくりと前方へ手を伸ばす。


「でもね」


指を閉じる。


無骨なナイフ、超長距離投擲、指で受け止める。

“邪神”を狩る刃。


「早速のお出ましだね、浮雲。

この距離、ここまで小さな違和感で、よく対応出来る」


その瞬間。


風が、裂ける。


轟音。


上空から落ちてくる影。


浮雲。


怒号が空を震わせる。


「奈良ぁ!!!!!!!!!!!!」


飛行しながら、精神投影型戦闘構造体を展開。


己の存在を対価に、戦う意思を現実へ引きずり出す。


光が裂ける。


浮雲を包むように、巨大な影が立ち上がる。


山形ロボ<影>。


実体ではない。


だが、神格に触れるための“偽りの神”。


ナイアルラトホテップが、嬉しそうに目を細める。


「初手から召喚とは、大盤振る舞いだね」


ボクラグの背後に、深海都市が重なる。


石の塔。


沈んだ王国。


アトラックの足元に、無限の糸が広がる。


ナイアルラトホテップの背に、幾重もの仮面が浮かぶ。


浮雲が吼える。


「ここで止める!」


ナイアルラトホテップが軽く首を傾ける。


「止める?」


その瞳が、歪む。


「止められるのかな?」


三柱の神気が、物質へと圧縮される。


位相遮断領域の下。


洋上。


真昼。


神格が、衝突する。


衝撃波。


海面が円形に割れる。


艦上の隊員が踏みとどまる。


「衝撃波来る! 掴まれ!」


深海から、 “箱”が―― 急上昇していた。





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