111 【過去編】1999年5月10日(月)_02 北海道激震
雲を突き抜け、山形ロボは弾道軌道を描いていた。
機体は静かだが、内部は振動している。
無線が割り込む。
石原の声。
続けて青山。
「北海道防衛機“キムン”交戦開始。
逃げ遅れた住民あり。土地面積が広大で対応遅延。
山形ロボ、現地へ直行せよ」
浮雲は、短く。
「了解」
そして即座に、背面の強襲移動指揮車へ回線を繋ぐ。
「減速に十分な時間が取れないかもしれない。
簡易MPCF発生装置で各車両、衝撃を凌いでくれ」
一瞬の沈黙。
無線の向こうから、威勢のいい二名の抗議。
「ちょっと待っ――」
「平輔!それ事前説明と違――」
浮雲は、聞こえなかったことにした。
進路変更。
針路、夕張市。
機体がわずかに軌道を修正する。
雲が裂ける。
――――――――――――――
夕張市郊外。
農場。
キムンは膝をついていた。
ダークグリーンの巨体、
陸戦重装型。
本来なら、都市一つを支える守備力。
だが今、
目の前の怪異は三十メートル級。
巨大な白猿。
だが、速い。
一撃が重い。
振り下ろされる拳が、大地を砕く。
キムンの装甲が軋む。
合体用機構が火花を散らす。
局所位相固定、展開から六分経過。
残り、四分。
キムンのパイロットは歯を食いしばる。
生体反応、検出。
逃げ遅れた少女。
怪異の足元。
神気が精神を侵食し始めている。
警備車両は迂回中。
間に合わない。
守らねば。
キムンは怪異を体当たりで弾き飛ばす。
四つん這いになり、少女を覆う。
白猿が怒号を上げ、踏みつける。
関節が悲鳴を上げる。
装甲の一部が弾け飛ぶ。
残り三分。
---
空が裂ける。
山形ロボ、到着。
背面固定ラックを半ば強引に地面へ降ろす。
MPCFが衝撃を“なかったこと”にする。
それでも。
強襲移動指揮車内部はシェイカーのように揺れる。
児島の怒号が無線を震わせる。
「おぼえてろよ!!!!」
浮雲は無視。
固定ラックが展開し
指揮車を地面へと並べる。
戦闘参加。
局所位相固定の重ね掛けは禁忌とされている。
世界が歪む。
残り三分。
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キムンの視界に、黒い影。
――来る!耐えきれるか?
少女は地面で動けない。
怪異の足が振り上がる。
間に合わない。
その瞬間。
白猿が横殴りに吹き飛ぶ。
山形ロボの拳。
浮雲の声。
「大丈夫か!? 残り時間は!」
キムンのパイロットがタイマーを見る。
「三十秒!」
浮雲の目が細まる。
次の瞬間。
山形ロボの足裏と背部噴射口が同時に火を吹く。
加速。
地面がえぐれる。
白猿へ一直線。
「まにあえ!!!!!!!!」
祈りのような叫び。
怪異の頭上へ跳躍し、
脳天へと両手を振り下ろす。
衝撃。
白猿の悲鳴。
浮雲が叫ぶ。
「月山おろし!」
腕部装甲が展開、
タービンが山が唸るような音を響かせる。
冷却ガス噴射。
怪異の毛を巻き込みながら腕部高速回転。
拳が光を帯びる。
「因果よ、凍りつけ!」
白猿の動きが鈍る。
霊子結合が凍結。
関節が軋む。
そして。
両断。
凍りついた因果ごと、切り裂く。
白猿が砕け散る。
静寂。
だが。
キムンのコックピット内に響いていたアラームが一斉にコーラスに変わる。
タイマーの数字が赤く点滅し、
そのまま、画面がフリーズする。
局所位相固定、展開開始から十分を超えた瞬間であった。
世界が、わずかに軋んだ。
空気が重くなる。
浮雲は息を飲む。
「……間に合わなかった……のか?」
キムンがゆらりと立ち上がり
山形ロボを“見た”。




