110 【過去編】1999年5月10日(月)_01 防衛課北へ
1999年5月13日。
北海道守護機。
キムン。
アペフチ。
コタンコロ。
レプン。
四機編成。
広大な北海道の四方を押さえる、面制圧型防衛構成。
北の大地は広い。
森。
湿原。
火山帯。
そして四面を囲む海。
怪異は、海からも来る。
四機は連携し、押し返し、封じ、削る。
しかし度重なる襲来。
そして、海霧とともに現れた、
名無しの邪神格。
限界を超えた瞬間。
まだ調整中の禁じ手。
四機合体。
決戦仕様――“カムイ”。
合体完了時の出力、単機比3.4倍。
制御は極端に難しい。
負荷は、操縦者へ直撃する。
北海道上空での長時間に渡る激しい高機動空中戦の結果、
撃退。
だが。
パイロットは、限界だった。
運用は2交代制。
だが、問題はそこではない。
メインパイロットは高度任務へ回され続ける。
サブパイロットは、暗に「メイン級の働き」を期待される。
選りすぐりのエリートパイロット達。
皆、若く、優秀。
だから消耗する。
それでも北海道は持ちこたえていた。
広大な大地は、辛うじて怪異の蔓延を防いでいた。
だがそれも限界を超えた。
増援要請を防衛庁経由で山形県総務部 防衛課へ繋ぐ。
戦況維持、絶望的。
他県の70メートル級は、
各地で固定防衛中。
動けない。
残るは。
20メートル級軽量型。
出力リミッター30%。
それでも。
三炉並列。
異常な瞬間出力。
そして山形県は広域防衛優先度は相対的に低い。
だから動かせる。
石原が、短く命じる。
「北海道からの支援要請。山形ロボ出るぞ」
メインパイロット、浮雲。
観測班。
班長・大沼。
児島。
若林。
警備班長・山倉以下三名。
整備班、早川以下一チーム。
運転手、三浦。
児島が笑う。
「北海道、楽しみじゃね?若林、オフはジンギスカンな」
若林がにやり。
「ラムつっつくっしょ」
緊張を、笑いで割る。
産休直前で待機の片桐がぼやく。
「お土産にジンギスカンキャラメル、買ってきてくださいよね!」
児島と若林が同時に。
「あれ、むっちゃまずいよ?」
片桐がむくれる。
「甘くて肉味でいいじゃないですか~?ね真さん?」
早川真は曖昧に頷く。
目が、正直すぎた。
大沼が嘆息する。
「あなた方はいいですね……
非戦闘員の私には移動のGですら厳しいというのに……」
三台のハイエース改造強襲移動指揮車。
銃器。
符。
アンチインサニティマテリアル。
予備は過剰。
足りないよりは良い。
――――――――――――――
山形ロボ。
バックパック背面マウントに、強襲移動指揮車三台が縦列で固定される。
ロック完了。
最終確認ランプが緑に変わった瞬間、ドック内に小さなどよめきが走る。
若い整備兵が、思わず息を呑んだ。
巨大リフトが、ゆっくりと上昇を始める。
油圧の低い唸り。
鉄骨の軋み。
金属が擦れる鈍い音。
山形ロボの足裏が、地下格納床から離れる。
――地上。
深夜の文翔館前。
静まり返った石畳が、音を立てて割れる。
ゆっくりと、姿を現す。
巨大な影が、歴史的建造物の全面を覆う。
酔っ払いが叫ぶ。
「おい!なんだあれ!」
誰もが足を止め、見上げる。
山形ロボが両手を掲げる。
虚空を掴むように、指を広げる。
空気が圧縮される。
圧縮気流が渦を巻き、目に見えない“隙間”を生む。
真空の縁が、淡い輪郭となって空中に浮かぶ。
足元から、地面が引き離されるような感覚。
山形ロボの巨体が、空間の裂け目へとねじ込まれる。
一瞬の無音。
――急上昇。
脚部収納。
反応ノズル展開。
噴射。
爆発的な推力が、夜気を引き裂く。
衝撃が、作戦参加者全員の身体を叩く。
強襲移動指揮車内部。
固定シートが軋む。
計器が跳ねる。
大沼が青ざめる。
「Gが……!」
速度表示が、跳ね上がる。
三〇〇。
五〇〇。
七〇〇。
三浦が歯を食いしばる。
「安定圏入ります!」
浮雲の目は、真っ直ぐ前を見据えている。
迷いはない。
三炉並列が唸り、夜空を裂く。
山形ロボは、
北海道――札幌郊外へ向けて、
弾道飛行を開始した。
雲の層を、突き抜ける。
山形の灯りが、あっという間に遠ざかる。
その背後で、割れた石畳がゆっくりと元の形に戻っていく。
夜は、何事もなかったように静まり返った。




