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超板金 山形ロボ ―ロボットがランドマークになった街で、怪異が目を覚ます―  作者: bobson3b


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109 2026年5月13日(水)_01 紅牛、龍王 帰還

昨晩は、豚だった。


そう、豚。


豚肉の生姜焼き。

ポテトサラダ。

具だくさん豚汁。


豚、サンキュー。


昨日は一機、なんとか海上に引き上げた。

そこからが本番だった。


封印用ロープを一本ずつ切断。

位相固定ピンを外し、

拘束タグを解除。


オルグガイストを、もう一度抱き上げる。


母艦「しなの」の甲板から、

隣に併走している貨物船へ。


貨物船といっても、

内部はくり抜かれ、

都道府県ロボ専用の移送ドックになっている。


巨大な空洞。

床は衝撃吸収材。

壁面には固定アーム。


そこへ、重力制御を微調整しながら、

ゆっくりと移動。


「お人形を寝かせるように」


……いや、70メートル級だぞ。


山形ロボは20メートル級。

大人と子供どころか、

大型犬と飼い主くらいの差がある。


それを抱えている。


腕のサーボが、微細に唸る。

重力制御の数値が揺れる。


気を抜けば、


壁を擦る。

床を踏み抜く。

ワイヤーを引っ掛ける。


怪獣を引っ叩く方が、正直楽だ。


戦闘は勢いがある。

これは、慎重さの連続。


そっと。

ゆっくり。

そっと。


固定完了。


その瞬間、全身の力が抜けた。


―――


そして。

四つん這いの山形ロボから降りて

突き刺さる6つの目


無言の圧。


武田。

今田。

槌谷。


「でもストレッチはしますよね」


言葉にしていないのに、聞こえる。


逃げられない。


運動後、泥のように眠る。

いつも思う。あの強度のピラティスはストレッチやない、筋トレや。


目を閉じた瞬間、落ちた。


―――


また、早朝。


筋トレ。


腕立て。

スクワット。

体幹。


鬼ども、容赦なし。


朝食は、厚切りトースト。

スクランブルエッグ。

ベーコン。


付け合わせのサラダが妙に美味しい。


人は、働いた後の炭水化物に弱い。


―――


午前。


再び、潜水。


二機目。


ザ・牛。


“クリムゾン・タウルス”。


巨大な角の意匠。

赤い装甲。

重量級。


昨日より、少しだけ慣れた。


海底。


泥を巻き上げながら、

テキパキとワイヤーを回す。


抱き抱える。


夜のブリーフィングで見た資料を思い出す。


70メートル級都道府県ロボ。

20メートル級山形ロボ。


身長差。


大人に抱っこされる子供状態。


……ちょっと可愛い。


海中で、巨大ロボを抱いている。


字面だけ見ると異常だ。


浮上。


固定。


移送。


クリムゾン・タウルスも、

貨物船のドックへ、そっと寝かせる。


二機目、完了。


―――


ふとモニターの端。

艦橋の上部


浮雲さんは、

艦の一番高いところに座っている。


アンテナの付け根。


水平線を眺めている。


あの人は嫌いじゃない。


でも、たまに思考がわからない。


天然だし。


海は静か。


午後まで、しばし休憩。


甲板に潮の匂い。

遠くに雲。


三機目が、待っている。

ランチのカツ丼を頬張り、

一葉は鳴らない拳を鳴らすのであった。


ヘニョ


―――


護衛艦「しなの」特設の観測室。


艦橋直下。

遮光パネルに囲まれた半円形の個室。

中央に大型ホログラフィックモニタ。

壁面にはリアルタイムの各種データ。


観測班三人。

早川。

児島。


全員、無言。


二回目である。


海中映像は、山形ロボ頭部の複合視覚センサーからのリアルタイム送信。

水圧、重力補正、位相干渉値、姿勢角、サーボ応答時間。


すべて同時に流れている。


片桐一葉の動きに合わせ、

“クリムゾン・タウルス”が持ち上がる。


微妙な角度修正。

重心の再配分。

泥の巻き上げ量を抑えた姿勢制御。


所要三時間。


偽装貨物船への収容時間込み。


武田が低く言う。


「……想定最短時間と、誤差三分。

あらゆるトラブルを想定し、最速四時間と予定していましたが、

これは……」


今田が、手元のログを拡大する。


「操作入力から姿勢補正完了まで、平均0.012秒。

海底での重心再計算、誤差率0.3%未満」


沈黙。


異常である。


MPCFが環境負荷を打ち消すとはいえ、

人間側の操作精度までは補助しない。


武田が画面を切り替える。


「これが、1999年の操作ログです」


波形が並ぶ。


「当時は、浮雲さんが“入力”し、ロボがフィードバック。

ここに平均0.18秒の応答遅延があります」


児島が頷く。


早川も。


「これが、2026年4月のデータ。

放置状態からの復帰直後です」


波形は荒れている。


微妙な補正の乱れ。

駆動誤差。


早川が腕を組む。


「普通は、ここで不具合が出る」


整備班長も無言で頷く。


武田がさらに画面を進める。


「文翔館交差点前。

新庄市北東部田園地帯。

飯豊町白川ダム湖付近」


片桐の操作ログ。


徐々に応答遅延が減少している。


油圧の物理的制約。

モーター駆動の慣性。


それでも。


「遅延、0.11秒」


今田が呟く。


「減ってる……?」


武田。


「そして、4月末の全面近代化以降。

笹谷峠での数値です」


画面に表示されるグラフ。


入力。


同時に、出力。


「遅延、0.03秒」


早川が眉を寄せる。


「物理限界だ」


武田は続ける。


「現在」


リアルタイムのログ。


片桐が三体目、“ヤクトドラグーン”を引き上げる。


入力波形と駆動波形が、ほぼ重なる。


「……0.01秒未満」


観測室が静まり返る。


今田。


「ほぼ、同時……」


槌谷が冷静に言う。


「人間側が速くなった、だけでは説明がつきません」


児島が視線を上げる。


「どういうこと?」


槌谷。


「逆です。

山形ロボが、片桐先輩の入力傾向を学習し、

予測補正している可能性が高い」


武田が低く補足する。


「入力完了前に、次の動作を“推定”している」


沈黙。


児島の喉が鳴る。


「……“神化”している?」


武田は即座に首を振る。


「そのような異常出力、位相変動、霊子干渉値は観測されていません」


淡々と。


「あくまで、機械としての適応です」


外。


海上。


山形ロボが三体目、“ヤクトドラグーン”を海上へ持ち上げる。


巨大な影。


水柱。


安定した姿勢。


児島は、以前自分が口にした言葉を思い出す。


>「冗談抜きで、“守護神”って言葉が近いわね」


今は、冗談に聞こえない。


武田がぽつりと呟く。


「片桐先輩は、確かに失敗は多い」


今田が苦笑する。


「でも、同じ失敗を二度としない」


槌谷が視線を画面に固定したまま言う。


「適応速度が異常です」


外では、ヤクトドラグーンがゆっくりと偽装船へ移送されている。


観測室の空気が、重くなる。


誰も口にしない。


だが全員が同じことを考えている。


――山形ロボは、誰に最適化しているのか。


片桐一葉か。


それとも。


他の“何か”か。


ごくり、と。


児島の喉が鳴った。


モニターの中で、

山形ロボが静かに海上を浮遊する。


三体目の固定が完了。


同期率、94.9%。


微増。


児島は、腕を組む。


「このまま、片桐さんを乗せ続けて良いのかしら」


誰に向けた言葉でもない。


だが、観測室の空気が変わる。


武田が慎重に答える。


「現状、代替パイロットは存在しません。

適性指数、反応速度、位相耐性、

いずれも片桐先輩が最上位です」


今田が苦笑する。

だか、目は笑ってはいなかった。


「しかし、先輩以外じゃ今の精度は無理です」


槌谷が、冷静に補足する。


「しかも、同期率の上昇は操縦時間に比例しています。

ここで交代すれば、数値は確実に落ちます」


合理的。


正しい。


だからこそ、重い。


児島は目を伏せる。


片桐一葉。


かつて共に戦った早川と綾の娘。


あの頃、

命を預け合った仲間。


早川は、今も整備班にいる。


綾は――


児島は、ゆっくり息を吐く。


「……兵器として見れば、最適解ね」


言い切ったあと、

自分でわずかに眉をひそめる。


兵器。


あの子は、兵器ではない。


早川が、低く言う。


「俺は整備担当だ。

機体のことなら判断できる」


一拍。


「だが、あいつの人生は、

一葉だけの、人生なんだ」


珍しく、視線を逸らす。


今田が小さく言う。


「同期率が95%を超えたら、

神経負荷の再検査を入れましょう」


槌谷も頷く。


「操縦時間の制限も必要です」


武田はモニターを見つめたまま言う。


「適応が進みすぎると、

切り離しが難しくなります」


児島が静かに問う。


「切り離し?」


武田は視線を動かさない。


「操縦者と機体の相互最適化が進むと、

山形ロボの霊体認証をリセットして、他の補充人員を宛てられなくなります」


観測室が、静まり返る。


今田が、小さく息を吸う。


「……専属化、ってことですか」


槌谷が淡々と補足する。


「霊体認証は本来、複数候補に対して許容幅を持たせています。

操縦特性、位相耐性、神経応答パターン等を分散管理する設計です」


画面に重ねられる分布図。


許容幅の帯が、ゆっくり狭まっている。


「しかし現在、

奈良透……彼――浮雲さんの右腕も含め、

ナイアルラトホテップからの遠隔アクセス完全遮断の影響で、

片桐先輩への最適化と属人化が急速に進行している」


児島が眉を寄せる。


「遠隔遮断が、なぜ?」


武田が答える。


「外部干渉を排除した結果、

山形ロボの学習対象が“片桐先輩のみ”に固定されています」


今田がモニターを拡大する。


「適応パラメータ、

片桐先輩の神経波形と相関係数0.97……」


槌谷。


「つまり、機体側が“理想入力”を片桐先輩に定義し始めている」


沈黙。


早川が低く言う。


「リセットは?」


武田は首を横に振る。


「理論上は可能です。

しかし、同期率が95%を超えた状態で強制初期化を行えば、

神経フィードバックの断絶ショックが発生します」


児島の声がわずかに低くなる。


「片桐さんに影響は?」


武田は、数秒だけ黙る。


「最悪の場合、

霊子過負荷による一時的意識障害、

あるいは恒常的な神経障害の可能性があります」


観測室の空気が凍る。


今田が、かすれた声で言う。


「つまり、

今切り離すのも危険、

このまま進めるのも危険……」


槌谷がうなずく。


「機体は、操縦者を“前提条件”として再構築を始めています」


画面の同期率。


94.98%。


ゆっくり、上がる。


児島は、甲板の方を見た。


山形ロボ。

あの中にいるのは、


早川と綾の娘。


そして今や、


山形ロボにとっての“唯一の入力源”。


武田が、静かに言う。


「これは進化ではありません」


一拍。


「依存です」


誰も、否定しない。


モニターに表示される数値。


94.99%。


観測室に、呼吸音だけが残る。


そして。


95.00%。


アラートは鳴らない。


ただ、表示色がわずかに変わった。


誰も、声を出さなかった。


外では、

山形ロボが膝をついて昇降モードに移行している。


児島は、甲板を見つめる。


あの中に、

早川と綾の娘がいる。


かつて自分が守ると決めた世代。


そして今。


自分たちを守っている世代。


児島は、小さく呟く。


「……守護神なんて、

本当は作っちゃいけないのよ」


その言葉は、誰にも向けられていない。


だが全員が聞いていた。


判断は、まだ定まらない。


代わりはいない。


だが。


代わりがいないことが、

一番の危険かもしれない。


モニターの同期率が、

95.0%をキープし続ける


誰も、声を出さなかった。


―――


浮雲は、船の甲板にふわりと着地した。


金属がわずかに鳴る。


海風。


塩の匂い。


遠くで、山形ロボが三体目を移送している。


浮雲は空を見上げる。


人間には目視できない虹色の層。


位相遮断領域。


地球規模の結界。


光のようで、光ではない。


薄膜が重なり合い、ゆるやかに脈動している。


――亀裂が増えている。


数値では微小。


だが感覚では明確。


歪みが増えた。


人が認知し始めている。


記事。

配信。

噂。

検証。

考察。


「知らない」は、結界の材料だ。


「知りたい」は、摩耗だ。


今回のサルベージ。


対抗手段を増やすためには必須。


都道府県ロボを回収しなければ、

いずれ都市ひとつが消える。


邪神は、制限されている。


だが、気まぐれだ。


一瞬の穴を突かれれば、

数万人単位で消える。


放置は、ありえない。


しかし。


巨大人型重機の運用は、

関係者を増やす。


整備班。

輸送班。

観測班。

警備班。

報道。

政治。


人が増える。


人が増えれば、語る。


語れば、認知する。


認知すれば、結界は薄くなる。


怪異が増える。

人が備える。

備えが可視化される。

世界が“怪異”を前提にする。


それは、防衛か。


それとも、誘導か。


浮雲は目を細める。


結界は、完全封鎖ではない。


減衰。


ゼロにするのではなく、弱める。


だからこそ保っている。


だが今。


減衰の勾配が、わずかに緩んでいる。


「……早いな」


誰に向けた言葉でもない。


思考を整理する。


もし、サルベージを止める。


短期的には静か。


長期的には、破局。


もし、続ける。


短期的に亀裂が増える。


だが、対抗力も増える。


均衡。


天秤。


最適解は、見えない。


浮雲は、再び空を見る。


虹色の膜に、

微細な揺らぎ。


まるで、外側から指で押されたような。


「……遊んでいるな邪神共」


小さく吐き出す。


結界は、まだ持つ。


だが、余裕は減っている。


背後で、巨大な水柱が上がる。


ヤクトドラグーンが固定された合図。


浮雲は振り返らない。


ただ、空を見る。


自分が張った膜。


守るための選択。


だがそれは同時に、

世界に“構造”を見せる選択でもある。


正しいか。


わからない。


だが。


何もしないという選択だけは、

許されない。


浮雲は、静かに息を吐いた。


虹色の膜が、

わずかに揺れた。



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