表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
影のように密やかに。孤高の騎士は、その熱を燻らせたまま、ひだまりの少女を護り抜く   作者: 星海 零


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
5/10

第5話:光の王子の血塗られた天秤

エルナとギルバートが、下町の喧騒の中で果実の串を分け合っていた、その同じ時刻。


王宮の最奥、ステンドグラスから夕闇の赤い光が差し込む執務室で、第一王子ラインハルトは、冷徹な目で机の上の書類を見つめていた。


「──これで、エルナのドレスを引き裂いた令嬢たちの実家二家への査察手配は完了したね」


昼間の爽やかな笑顔はどこにもない。


ラインハルトが氷のような声で告げると、机の前で頭を下げていた側近の男が「はっ」と短く応じた。


「すでに各家の帳簿を押さえ、不法な密輸の証拠を掴んでおります。明日には、公爵派の彼らは表舞台から完全に失脚するかと」


「よくやった。……僕の婚約者になる女性に手を出した代償だ。身の程を知るがいい」


ラインハルトは書類に王家の血判を押し、その書類を眺めながら冷笑する。


ギルバートが剣の脅しでドレスを用意させたなら、ラインハルトは権力という一撃で、その令嬢たちの実家ごと社会的に圧殺したのだ。エルナを害する者は、親族だろうと容赦なく根絶やしにする。それが、次期国王たる彼の、過保護で血塗られた愛の形だった。


「エルナには、このことは伏せておくように。彼女の綺麗な心を、僕の身勝手な血の匂いで汚したくはないからね」


側近が静かに退室し、広い執務室に一人残されたラインハルトは、椅子の背もたれに深く身体を預けた。


張り詰めていた仮面が剥がれ落ち、その美貌に、どっと深い疲労と孤独が滲み出る。


コンコン、と静かに扉が叩かれ、幼少期から彼を支える老侍従長が、温かい紅茶を携えて入ってきた。


「殿下、お疲れのご様子で。……聖女様は本日、護衛のギルバートと共に、街へ訓練に出かけられているとか」


「……知っているよ。僕が許可したんだ」


ラインハルトは、窓の外、夕日に染まる下町の街並みを見つめた。


今頃あの場所で、エルナはギルバートと二人きりで歩いているのだろう。


「分かっているんだ、ハンス。エルナは、僕の前ではいつも緊張して、完璧な『聖女』であろうとする。僕がどんなに優しく微笑んでも、彼女の警戒は解けない」


ラインハルトは紅茶に手をつけず、ぽつりと本音を漏らした。その声は、驚くほど脆く、傷ついた少年のようだった。


「だけど……あの護衛騎士の前では違う。ギルバートがぶっきらぼうに言葉を返すと、彼女は怒ったり、笑ったり、呆れたりする。……僕がどれだけ望んでも手に入らない、ありのままの少女の顔をするんだ」


「殿下……」


「羨ましいよ。これはきっと……嫉妬、なんだろうね」


ラインハルトは自嘲気味に笑い、自分のまばゆい金糸の髪を乱暴にかき上げた。


「僕がただの男なら、身分を捨てて、彼女の手を引いてあの街へ連れ出してあげられたのに。……だけど、僕にはこの王の血がある。彼女を愛しているからこそ、僕は王位に就き、絶対的な力で彼女を全ての陰から守らなければならない。それが僕の、彼女への愛の証明だ」


ラインハルトは立ち上がり、再び窓の外を見た。


街の灯りが、ぽつぽつと星屑のように灯り始めている。


「ギルバートは優秀な騎士だ。僕に対して『エルナを泣かせたら奪う』とまで言い放った。……あいつの目は、命を捨てる覚悟をした男の目だった。だが、そんな機会は絶対に与えない」


ラインハルトの青い瞳に、王者の、そして一人の男としての、激しい執着の光が灯る。


「たとえエルナの心が完全に僕に向いていなくとも、僕は彼女をこの腕に抱き、世界で一番安全な玉座へ座らせる。泥にまみれて戦うしかできないあの騎士には、彼女は渡さない」


そう、窓に映る自身の顔を見て言った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ