遇见
蕭珊雅は病棟のロビーを通り抜け、受付で訪問者用の通行証を返した。当直の看護師が頭を下げて記録を済ませると、彼女は「お疲れさまです」とそっけなく言って受付を後にした。
彼女は廊下沿いのトイレへと足を向けた。この時間帯なら誰もいないから、ちょうどいい。最奥まで進み、空いている個室のドアを開けて中へ滑り込むと、素早く手を動かして鍵をかけた。
ドアが閉まると、狭い空間が外界から彼女を完全に隔離した。腰までの黒髪を肩前に寄せ、指先でくるりと巻き、二つに編んで三つ編みにする。
髪型を変えた後、彼女は手持ちの黒い斜めがけバッグから、縁が少し擦れた小さな丸い鏡と、あらかじめ用意していた変装グッズを取り出した。そして鏡を見ながら、慣れた手つきで身なりを整えていく。
ほどなくして、個室のドアがそっと開き、「月野兎美」という名前の普通の女の子が姿を現した。彼女は頬のあたりの短い毛を軽く撫でて鏡をバッグにしまい込み、トイレを出た。
廊下を行き交う人々の中、蕭珊雅は周囲の患者や家族たちを素早く一瞥した。遠山凛の姿が見当たらないことを確認すると、ようやく安心して、足早に病院の玄関を出た。
病院近くの商店街は、午前中の最も賑わう時間帯だった。コンビニの店先には特売の広告が並び、ドラッグストアの店員が客引きの看板を掲げ、三々五々の買い物客が歩道をのんびりと歩いていた。
混雑する交差点を渡る時、前方の信号はちょうど緑から赤に変わった。蕭珊雅は人波に合わせて横断歩道の手前で立ち止まった。
赤信号を待つ間は少しうっとうしく、彼女の視線は無意識に街角のほうへ流れて、少し先にあるレトロな内装のカフェに向けられた。
「原田さんは、今日は店にいるのかな……」
その頃、カフェの店内では、女性スタッフが忙しく動き回っていた。トレーをしっかりと手に持ち、テーブルと椅子の間を縫うように行き来し、体をひねって避け、静かに皿を置く。その動作はきびきびとして落ち着いており、どこにも慌ただしさはない。
彼女はパーマのかかった髪をきちんと後ろでまとめ、制服も以前よりずっと清潔で整っていて、顔には以前のような派手なメイクも見当たらない。見知らぬ客が見たら、数週間前のあのどたばたしていた新人・小林千夏だと気づかないだろう。
彼女はアイスアメリカーノを運び、カウンター脇の席へ向かった。そこには濃い色のスーツを着た中年男性が座り、膝の上の事件ノートを眺めて眉を少し寄せ、何か考え込んでいる様子だった。
「島田さん、アイスアメリカーノです。どうぞごゆっくりお楽しみください」と小林千夏は静かに言葉を添え、カップをテーブルに置いた。
「ああ、ありがとう」と島田氏は礼を言い、ノートにさらりと書き加えた後、アイスアメリカーノを一口飲んだ。
小林千夏は軽く一礼し、それ以上逗留することなく、他のテーブルの客の相手へと戻っていった。
カウンターの奥の布製の扉がふいにめくれ上がり、オーナー夫人が抱えたばかりのコーヒー豆の袋を携えて、バックヤードの通路から現れた。
「店長、お帰りなさい」と小林千夏が声をかけると、オーナー夫人は「うん、帰ってきたよ」と答えた。
島田氏はノートから目を上げ、ちらりと彼女を見て尋ねた。「店長、最近新しい豆が入ったんですか?」
「ええ、二種類新しく入ったわ。ひとつはコロンビア産、もうひとつはエチオピアのイルガチェフェよ。もしよかったら、淹れてあげるわね」
「いや、それは結構です」と島田進介は笑いながら手を振った。「やっぱり僕にはアイスアメリカーノが合ってる。一日一杯、もう習慣だからね」
オーナー夫人も微笑みながら「そうですね、島田さんのその不変の習慣は何年続いているでしょう。よく覚えてるわ、あなたが初めて部下の若手二人を連れてこの小さな店に立ち寄った時も、アイスアメリカーノを注文して、飲み終わった後で『ここのアイスアメリカーノはほかのチェーン店より本格的だ』って褒めてくれたものね」
「そうか、もうずいぶん経つんだな」と島田氏は感慨深げに店内を見渡しながら言った。「ところで、今日はどうして店長ご自身でバックヤードまで行って商品を運んでるんです? 以前はずっと原田曈ちゃんが店のあれこれやってたのに、ここ二日ほどは彼女の姿が見えないけど?」
「原田ちゃんはちょっと家で用事があって、来週まで仕事ができないの。だからこの数日は、私が代わりに荷受けや整理をやってるのよ」
「じゃあ、この間は店長一人で大変ですね」
「まあ、大変じゃないわ。小林ちゃんもずいぶん手伝えるようになったし、以前よりずっと手際が良くなったわ」オーナー夫人はそう言って、ホールの反対側を一瞥した。小林千夏が腰をかがめて、老婦人のテーブルから皿を片づけているところだった。「最初はぎこちなかった子だけど、原田ちゃんの指導のおかげで、今では一人でしっかりこなせるようになったわ」
さらに店内のまばらな客席をざっと見て、付け加えた。「それに、原田ちゃんは見た目も話し方も愛嬌があって、近所の学生たちが彼女を目当てに来るのよ。原田ちゃんがいないと、若いお客さんも減っちゃうから、私と小林でもなんとか回せてるわ」
「それは良かった。二人で回せているなら安心だ。さっき考えてたんだけど、もし本当に人手が足りなくなったら、休みの日に雅紀にも手伝ってもらおうかなって」
「雅紀?」オーナー夫人は少し驚いてから思い出した。「ああ、雅紀ちゃんはあなたの娘さんよね? 前に店で会った時はまだ高校生だったと思うけど、今は大学生になってるんじゃない?」
「そう、すぐ近くの聖マーガレット大学で一年生よ」と島田進介は少し表情を和らげて言った。「あの子、大学の放送部に入ってて、毎日学校の怪談や都市伝説を探して記事を書いてるの。最近はいつも私に絡んで、仕事で遭遇した事件の話を聞きたがるのよ」
「それは大変ですね。最近の行方不明事件は町中を騒がせてますから」
「そうだね。だから、一度彼女をうちの店でアルバイトさせて、余分なエネルギーを発散させ、あの旺盛すぎる好奇心を少し抑えたいと思ってるんだ」
オーナー夫人は島田進介の愚痴を聞きながら慰めた。「若い人はいつだって好奇心旺盛なものよ。興味が薄れれば、そんなに付きまとわなくなるわ」
「そう願うよ」
話している最中に、バックヤードの更衣室のドアが開いた。午前のパート勤務を終えた小林千夏が作業服を脱ぎ、制服のジャケットを羽織ってバッグを肩にかけ、カウンターの前にやって来た。
「店長、私のシフト終わりました。午後は大学で選択授業があるから、先に失礼します。明日の朝のシフトはちゃんと来ますね」と小林千夏は丁寧に報告した。
オーナー夫人は穏やかにうなずき、「ありがとう、今日はお疲れさま。気をつけてね」と声をかけた。
「はい、また明日」
小林千夏は別れを告げて、出口へと向かった。
その時、ガラスの外で一人の少女が足を止めた。
蕭珊雅がちょうどカフェの前を通りかかったのだ。彼女は入口で立ち止まり、ガラス越しに店内を覗き込んだ。カウンターやテーブル、椅子を一瞥し、誰かを探しているようだった。しかし、見覚えのある姿はなかった。
カウンターのほうからガラスのドアが開き、鈴が鳴った。小林千夏が一歩踏み出した瞬間、外に立つ人物と目が合った。
「あっ、すみません!」蕭珊雅は半歩下がって道を譲った。だが、彼女を見た瞬間に、以前カフェでアルバイトしていた留年生の小林千夏だと気づいた。
小林千夏は入口を塞ぐ見知らぬ眼鏡の少女を一瞥しただけで、特に何も言わず、脇をすり抜けてキャンパスのほうへと歩き去った。
「彼女も大学に行くんだろうな」と蕭珊雅は思った。
目的地が同じなら、自分もついて行こう――そう思い、蕭珊雅も歩き出した。十数メートルの距離を保ちながら、途中で同じ方向へ歩く何人かの通行人を挟みつつ、小林千夏の背中を追った。
前方に見える小林千夏の姿は時折隠れたり現れたりする。蕭珊雅はその背中を見つめ続けたが、しばらく歩いているうちに、彼女の歩き方に少し違和感を覚えた。
半条街ほど歩いた頃、彼女は鋭敏な観察力で気づいた。速歩きの際、右足のステップはとても規則正しく力強いのに、左足が地面を蹴って体重を乗せる度に、足首が不自然にわずかに内側へ傾くのだ。
「足を少し引きずっているみたいだ」と蕭珊雅は心の中で思った。「もしかして、昔ケガをしたのかな?」
ほどなくして、二人は入れ替わりながら馴染みのキャンパスの門をくぐった。
キャンパスに入ると、二人の道は分かれた。授業に急ぐ小林千夏は立ち止まらず、中央広場を突っ切って西側の教学楼へと向かい、一方、蕭珊雅は周囲をざっと見て、端の方へ曲がり、一番近い第三教学楼の一階にあるトイレへと向かった。
数分後、個室のドアを開けて出てきたのは、普段の冷ややかで端正な印象の蕭珊雅だった。彼女は鏡の前で自分の姿を確かめ、取り繕いに隙がないことを確認してから、腕時計に目を落とした。
午後の授業まで、あと四分の一時間あった。




