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こころのいろ  作者: 如月心
第7章 雪溶けの空には虹がかかる
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4幕 デートプランは出たとこ勝負

 十一月の後半と言えば寒さが本格的に増していく。しかしその日は小春日和で、気温も普段に比べると非常に温かい。これで雲があれば話は別だが、幸いなことに今日は太陽を覆い隠すものが何一つ見当たらない、絶好のお出かけ日和だった。


 だからか、虹北高原もいつもよりも人が多い。

 電車に乗っている人が少ないのは、ここに来る人は基本的に車を使ってきているからだろう。電車では持っていける荷物に限りがあるから、車で訪れるのが理想である。


 ――そんなことを到着してから一色は考えていた。


「決めた。十八歳になったらすぐに免許を取る」

「確かに田舎だと交通便が悪いよね。……私はなんか、車乗ったら人を殺めそうで怖いや」

「…………」


 水無月の珍しいブラックジョークに、一色は引き笑いを浮かべた。

 ……虹北高原に着いて、一色と水無月はまずは適当に辺りを散策していた。いつもならば、うるさい先輩たちや甘えん坊の和那の相手をしないといけないため、中々ゆっくりと出来ないのだが……今日は当然、一色と水無月の二人きりである。


 一色はもちろんのこと、水無月も虹北高原をゆっくりと見回った経験は少ない。一色はデートプランに若干の変更を加えてのんびりと過ごしていた。

 水無月がゆっくりとしたことがないことに、一色は切に同情をしているのは内緒な話だ。


「本当に色々あるな。露店とかもあるのか」

「土日限定らしいけどね。平日は人が来ないから閉めてるんだよ。もっと寒くなれば雪が降って、スキー場になるから……」

「だから今日は人が多いのか」


 スキー場になれば、しばらくは今の風景を見ることが出来ないから、見納めに来ている。一色のその考えは正しい。


「でもほとんど家族連れだな――今更だけど、ここで良いか? 水無月がもっと繁華街に行きたいなら、今からでも変えるけど」

「私は、ここの方が良いな。……繁華街はうるさいし、ここなら静かだろうから」

「……そっか」


 もはや自然に握っている手を、水無月は少しだけキュッと握り締めた。

 ……少しだけ表情が歪んだところを見ると、偏頭痛だと一色は解釈する。既に水無月の事情を結構な深みまで知っているためだ。


 無論、偏頭痛に対する対処法も一色は勉強してきた。図書館に篭り、その類の本を片っ端から読み切ったのだ。


「水無月、こっちだ」

「へ?」


 一色は水無月の手を引き、彼女を近くのベンチに連れて行って座らせる。一度手を離し、鞄の中からコップ付きの水筒を取り出して、中の飲み物を注いで水無月に手渡した。


「これ、よかったら飲んでくれ」

「え、えっと……ありがと」


 水無月は気遣う一色にお礼を言って、コップを受け取る。そこからは湯気が立ち込めていて、丁度良い具合の温かさであった。一口飲んでみると……


「あ……おいしい。これって、紅茶?」

「……ああ。水無月印のミルクティーじゃなくて、俺のオリジナルだよ。飲むと身体が温かくなって、調子が良くなるんだ」

「……生姜、ちょっとだけ入ってるんだね」

「……すぐに言い当てるのは流石だよ」


 水無月の指摘通り、一色の作った紅茶には少しばかり生姜のエキスが入っている。それに加えて仄かに甘みを加えるために砂糖ではなく、はちみつを溶かして入れた。それを保温性の高い水筒に淹れてきたのだ。


 ……一色もこれで頭痛が無くなるとは思っていない。だが温かい飲み物は身体を温かくして、心を落ち着かせる。その上、生姜にもそのような効能があるから、水無月が頭痛に苦しんだ時のために用意してきたのだ。

 医学的な知識や根拠を一色は持たないが、それでも水無月には効果があったようで……


「……ごめんね、気を遣わせちゃって」

「…………他に、言葉があるんじゃないか? ごめん、じゃなくてさ」

「あ……あはは。なんか、いつもと逆だなー」


 一色が何を言いたいのか分かった水無月は、困った表情で笑いながら、


「ありがとう、一色くん」

「ん、どういたしまして」


 そう笑顔でお礼を言った。その頃には先ほど少し感じた頭痛がなくなっているのを、彼女もすぐに気付いた。


「……よし、行くか」


 一色はそれに気付いて、水無月からコップを受け取って水筒に取り付け、鞄にしまう。そして水無月に手を差し伸べ、手を握り直した。


「最初はどこに行くの?」

「――疲れてる水無月に必要なのは、まずは癒しだろ? だったら一つしかないよ」


 一色は非常に爽やかな笑みを浮かべて水無月を連れて歩く。

 高原を横断していくと、次第に小さな建物に辿りついた。

 その建物は屋根が赤く、壁面はレンガ造りなっている。更に建物の周りには高い塀が建物を大きく囲っている。

 そこで水無月は一色がどこに連れていっているかを理解して――少し、気分が上がった。


「――ど、動物!」


 ……水無月は無類の可愛いもの好きである。マスコットキャラと言われる類のキャラクターをほぼ絵で再現できるほどに網羅しており、それは何もキャラクターだけではない。

 動物も彼女にとっては愛でる対象であり、時には人間をも対象に入る(主に和那)。

 ……その目は、頭痛とか手の震えとか。そんなことを忘れたようにキラキラしていた。


「(……貴音先輩の意見を取り入れて不安だったけど、まさか役に立つとは)」


 心の中で大変失礼なことを思うが、作戦は成功である。

 ――一色と水無月が訪れているのは、動物と触れ合える施設だった。基本的に入場は無料で、動物に餌を与えることも出来て、その餌代のみ有料という施設。


 虹北高原でも屈指の人気スポットである。

 レンガ建ての建物は二階建てになっていて、それぞれの部屋で触れ合える動物は異なる。更に庭にも動物が放し飼いされていて、動物好きには天国のような空間だった。


「どうぞ、いらっしゃいませー。エサはどうしますか?」

「……貰えますか?」

「はい、じゃあすみませんが三百円いただきます!」


 受付で一色は料金を支払い、動物に与えるものを一纏めにした餌袋をもらう。それとついでに係の女性にここについて気になったので話を聞いていると……


「なるほど、ここの動物は全部オーナーの人が飼っている動物なんですね」


「はい、そうなんです! 私のおばあちゃんが営んでいて……って、いいんですか? 彼女さん、どこかに行きましたけど」

「……え」


 一色は隣を見ると、そこには水無月の姿はなかった。

 ……水無月は辛抱できず、一色の手を離して動物のいる方へ行ってしまったのだ。普段ならば一言ぐらい声を掛けるだろうが……今の水無月は欲望に忠実である。

 一色は軽くため息を吐いて、係の女性にお礼を言って建物の中に入って行った。


「はふぅ……猫ちゃん、モフモフ」

「……水無月」


 しかしすぐに彼女と合流は叶う――一階の猫のコーナーで、水無月は仔猫二匹を抱きかかえ、それはもうだらしなく破願していた。

 こんな顔、他人には見せられないほどに、だ。一色は腕を組んで、とりあえず触れずに見守ることにする。


 ……しかしながら猫はとても懐いている。水無月の抱擁に嫌なそぶりを見せず、「にゃあ~」と仔猫に恥じない可愛らしい声で鳴いていた。

 ――と、そのとき、一色の足元に一匹の少し大きな黒猫が歩いてくる。黒猫は一色の足に引っ付いて、遊んでと懇願しているようにも見えた。


「……物好きだな、お前は」


 一色は腰を下ろし、黒い猫を腕の中に迎え入れた。


「む、その子はさっき私にそっぽ向いた猫ちゃん!!」


 水無月は一色が黒猫を可愛がっているのにすぐに気付き、途端に羨ましそうな表情を浮かべた。

 ……自分の状況を忘れているよな、と一色は思うも、それが良い傾向であるからか、何も言わない。

 代わりに得意げな顔を浮かべて、黒猫の顎回りをソフトタッチで触れると……猫は「ふにゃ~」と破願して、気持ちの良い鳴き声を漏らした。


「……こいつ、和那に似てるな」

「そ、それはどこで判断したの?」

「――あいつもな、こんな風に撫でると異様に喜ぶんだよ。たぶんあいつの先祖は猫だな」

「一色くん限定だけどね」


 ……水無月は手元にいた二匹の白い仔猫を離して、一色の方にしゃがみ込む。


「毛並み綺麗だなー……触らせてくれないかな」

「試してみたらいいだろ」


 一色は黒猫を水無月に差し出そうとするが――黒猫はそれを良しとせず、離れようとはしなかった。


「――こいつ、和那が乗り移ってるんじゃないか……?」

「うぅ、毛並み綺麗なのにー」


 水無月は本気で嘆き、床に崩れ去るように倒れ込むと――面白いことに、黒猫はピクッと水無月を見つめた。

 それまでは見向きさえしなかったのに、一色のところから離れ、水無月の方に近づく。


 そしてその肉球を水無月の太ももに乗せた。水無月は顔をバッと上げて、黒猫と目を合わせる。

 そしてその目を見て、


「……この子の名前は、かずにゃん」

「おい」


 黒猫に対し、勝手に名前を付ける水無月を一色は叱る。水無月は一度だけ黒猫の毛並みをすぅっと撫でると……黒猫はまた一色の方に帰っていった。

 まるでこの場所は私のもの、とでも言いたげな表情を見て、水無月は顔が引きつる。猫は一色に頬擦りしていて、まさに甘え上手の体現者であった。


「もしかして、泣いてて可哀そうだったから、一度だけ触らせてあげたのか」


 一色は胸元の黒猫にそう言うと、都合良く「にゃ!」と力強い鳴き声が漏れる。

 ……一色と水無月は本当に思った――この猫は、本当にどこかの妹の意識が入っているんじゃないかと。

 今日のデートを恨めしく思って、猫に乗り移った。そう思ってしまうのだった。


○●○●


「あ、あそこにはウサギが! あっちの鳥かごには小鳥……っ。あぁぁ、ワンちゃんも~、羊さん! ――一色くん、ここは天国だね!!」

「あ、ああ。楽しんでいて何よりだよ」


 猫のゾーンを抜けて、一色と水無月は庭に出た。庭にはウサギや犬、中には羊までもが放し飼いされている。

 水無月は子供のように動物の方に駆け寄り、愛着行動を起こしていた。それを親心で見つめるのは一色と……何故か一色から離れない黒猫であった。

 離れないため、今は一色が抱きかかえており……やはりその存在は和那と被ってしまう。


「子を持つ親っていうのは、こんな気持ちなんだろうか」

「にゃぁ~~~」

「……なんかもう、お前に対して愛着が湧くよ」

「にゃん!」


 愛という言葉に反応して猫はまた鳴く。

 ……と、またもや一色の足元に動物が近づいてくる。次は小さな犬であった。

 しかもその犬も、毛並みの綺麗な黒い犬。「ハッハッハッ」と息を漏らして、上目遣いで一色を見つめていた。


「……お手」


 一色は黒猫を抱えたまま膝をつき、片手を出してそう言うと……犬は前足を手の平に乗せる。

 ……そして頭を差し出してきた。


「――水無月、ちょっとこっちに来て、こいつにお手ってやってくれないか?」

「うん、もちろん! ――って、その子は私が近づいたら逃げるわんちゃん! よ、よし――お手だよ!」


 水無月は気合一杯にそう言うが――


「ワン!!!」

「ひゃっ!」


 ……子犬とは思えぬ、猛々しい遠吠えであった。子犬に威嚇される水無月は、尻餅を尽きながら……少し涙目だった。


「――まずい、かずにゃん、水無月が泣いてしまうぞ」

「に、にゃん!!」


 一色の言葉に反応するように、黒猫は一色の胸から離れて水無月の胸に飛び込む。すると水無月は次第に涙が引いていき……

「はふぅ、可愛いモフモフだなー」

「に、にゃ~……」


 水無月は黒猫をぬいぐるみのようにモフモフと頬擦りするのであった。

 ……一色はその隙に、未だなお一色に頭を撫でてもらうべく待機している子犬の頭を撫でる。子犬は先ほどの叫びが嘘のように従順であり、服従のポーズまで取っている始末。


「別に動物に嫌われてるわけじゃないのに、なんでこいつらはこう、和那っぽいんだろう」

「にゃ! にゃ!!」


 すると黒猫の悲痛な鳴き声が聞こえる。一色はそちらを見ると――頬擦りされ過ぎて、げんなりとしている黒猫の姿があった。 

 その目は一色に救いを求めていて――数分後、黒猫は一色の胸の中に帰ってきて、もう二度と水無月に近づくことはないのであった。


「ほら、ここの動物たちにエサをあげたらどうだ?」


 一色は少し落ち着いてから、水無月にそう提案した。

 せっかく買ったエサを、まだ一つも動物にあげていないのだ。エサはこの建物にいる動物それぞれのものが少量ずつ入っている。


「うん、ちょっと餌付けしてくる!!」


 水無月は一色からエサを受け取り、小走りで庭の動物の方に向かっていった。

 ……それを見守る一色は、今は庭のベンチに座っている。面白いところは、先ほどの黒猫と子犬が彼の胸の中にスッポリと収まっているところか。


「……なんで俺に懐くんだよ」


 他にも家族連れがチラホラと見受けられる中、二匹は決して一色から離れない。

 ……一色は少しばかり運命的なものを感じつつ、二匹を可愛がりながら水無月の方を見た。

 ――心が蝕まれているとは思えないほど、水無月は元気だ。少なくとも一色の目には、彼の知る普段の天真爛漫な水無月虹の姿が、そこにはあった。


 笑顔で動物と触れ合い、エサを与えている。しかしその笑顔の裏には、とてつもないストレスや一人では抱えきれない問題を背負っていると考えると……一色は眉間に皺が寄ってしまう。

 ……そんな時、黒猫は肉球を一色の眉間にペタリと押し付けた。


「……そうだな。今日は難しく考えないようにするんだったな」


 一色はその考えを振り払う――もしも自分が難しい顔をしていれば、水無月はそれを察して、今のあの笑顔が曇ってしまうかもしれない。

 ……楽しめる時には楽しんでほしい。それは一色の……いや、彼らのささやかな願いだ。


「たぶん、先輩たちが立てた計画はこんなにまったりしたもんじゃないんだろうな」


 一色はポケットの中のデートプランの紙を思い出して、そう呟く。

 ――一色不在の間に美月たちが立てた作戦は、それはもう妄想力が豊かなものばかりであった。

「肩を抱き寄せて愛の言葉を囁けってなんだよ」


 雪彦の助言であることは分かり切っている。その他には「上手いものを食べる」などが書かれていた。その色気の無さは確実に美月の提案である。

 その点、初香の提案は異常に的確で……この動物の触れ合いも初香の意見であった。


 その他にも、この後の予定の半分は初香の意見を採用しているところを考えると――もしかしたら一色と初香で予定を立てた方が、効率が良かったのではないか……と邪推してしまうものだ。

 が、一色はそんなことは決して考えない。それぞれの先輩に等しく感謝をしており、いずれは何かで恩を返さないといけないと、心に決めていた。


「一色くん!!」

「ん、どうした、みな――すごいな」


 目を離して遠くを見ながら考え事をしていると、突然水無月は一色に話し掛けた。一色はなんだ、と思ってそっちを見ると……そこにいるのは、動物を引き連れた水無月だ。

 庭にいた動物の数多くを引き連れて、水無月は若干の決め顔をしている。……彼の手元の二匹が懐かなかったことがよっぽど悔しかったのだろう。

 ……それでも二匹は見向きもしないが。


「羊に犬に子豚に……ミーアキャットにフェネック? ……ホント、色々な動物がいるな」

「ねー。それに皆、すっごく人懐っこいんだよ! ほら、あっちのケージにはインコもいるよ!」

「インコか……」


 鳥類が特に好きな水無月も、インコに興味が移っているようだ。

 インコは非常に頭が良く、簡単な言葉であれば人の言葉でも覚えることが可能な動物だ。

 一色は黒猫と子犬を離してケージの方に近づく。二匹とも相変わらず彼の足元からは離れないところを見て、水無月は「あはは」と苦笑いを浮かべるのであった。


「……水無月、試しに話しかけてみたらどうだ? もしかしたら何か返してくれるかもしれないぞ」

「そ、そうだね……よし――こんにちは!」


 まずは挨拶から、無難なところから水無月は発生する。……すると、


「コンニチハ!」

「おぉ……」


 見事、インコは返答した。やはり簡単な挨拶は既に覚えているようだ。それを受けて水無月の瞳は更に光り輝く。


「あなたのお名前は?」

「インコ!!」

「……たぶん、ここでインコって連呼されているうちに覚えたんだろうな」


 一色は簡単に予想して、少し屈んでインコと視線を合わせる。珍しくも興味が湧いたようで、少し話しかけようと思っていた。


「……こういう時はなんて質問したら良いんだろうな。……人は好きか?」

「あはは、一色くん、それはちょっと難しいんじゃないかな?」


 一色がインコに向けた質問に対して、水無月は笑いながらそう指摘した。確かに挨拶や名前に比べれば、多少難易度は高い。

 一色も自覚はあったが、あれ以外の質問が思い付かなかったのだ。


「やっぱりそうだよな。ならもうちっょっと簡単なやつを考えて……」

「――オニイチャン、ダイスキ!!」

「「…………――」」


 ……突然のインコの発声に、一色と水無月は言葉を失った。互いに顔を見合わせると、その顔は二人とも、信じられないものを見たような表情であった。


「ね、今の、聞き間違い?」

「いや、確かに好きって言った。…………もう一回、聞いてみる」

「オニイチャン、スキ!! ダイスキ!!」


 聞き返す必要もなく、インコは立て続けにそう言葉を叫んだ。


「……なんか、すごいね、今日」

「ああ――でもインコについては、たぶん思い当たりがあるよ」


 ……そう、一色にはインコが何故都合良くこんな台詞を吐いたのか、見当が付いていた。


「……あいつも鳥、好きだからな」


 その犯人は、何を隠そう和那である。もちろんその根拠は一色の中にあった。

 ――初めて虹北高原を訪れた時、和那は初香と共にここに来た。和那もまた可愛い動物が好きだからである。


 更に言えば、和那は水無月と同様で鳥類が好きだ。その時にきっと、インコに話し続けていたのだろう。

 恐らくは好きという言葉に反応し、その時に和那の言っていた言葉を覚えたに違いない――こんなところでそんな台詞を妹が吐いていたなんて、一色は思いたくもないが。


「スキ、オニイチャン、スキ!」

「……ったく、和那は何をやってんだ」

「え、これ覚えさせたの和那ちゃん!?」


 未だその答えに辿り着いていない水無月は、心底驚くのであった。


「こんな台詞をインコに言うのなんてあいつくらいだろ? ……ったく、帰ったら聞いてみるか」

「あはは、一色くん、お願いね?」

「スキ、スキ!!」

「はいはい、分かったから」

「――チヒロン、スキ!!!」

「「……………………」」


 一色と水無月は再び無言で顔を見合わせる。

 ――ちひろん、などという珍妙なあだ名を言う人間など、この日本中を探してもそうはいないだろう。

 少なくとも県下に何人もいてたまるものか、と一色は思った。


「……私ね、初香先輩が敢えてインコに覚えさせていても、何も不思議じゃないって思うの」

「奇遇だな、俺もだ――あの人なら、俺がここにいずれ来ることを予測して、覚えさせていても不思議じゃない」


 ……インコがその台詞を発声したのは、水無月が「一色」という名前を出した時である。

 ――二人は想像した。わざわざこの場に来て、「一色」という言葉に合わせて、その台詞を覚えさせている初香の姿を。

 それはとても容易に想像できて、二人は苦笑いを浮かべながら――


「……そろそろ出よっか」

「そうだな。ここであったことは一回、忘れよう」


 そうして一色と水無月は、動物の触れ合い場から離れることにしたのであった。

ここからの物語、過去の更新分を読み返してみると面白いかもしれません。

もちろん読み返さなくても良いように、ちゃんと描写もするつもりです!

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