第34話 理想の騎士
「弱き者です」
短く、答えた。
「俺はその者たちを、選んだだけです。あなたたちを否定したいわけではない。ただ、……そう、ただ。俺は選んだだけです」
そうだ、否定したいわけではないのだ。彼女たちも彼女たちなりの思いがあるのだ。
「秩序に守られない者がいました」
あの村の光景が目に焼き付く。神殿兵に殺された民。
「声を上げられない者がいました」
地下牢の光景が目に焼き付く。失敗作として尊厳を破壊された者たち。
「切り捨てられる者がいました」
原初の光景が目に焼き付く。誰も、神も、助けてはくれなかった。
「……それは」
聖女様の声が、揺れたような気がした。
「世界全体ではありません」
「そうです」
俺は、肯定した。
「世界ではない。世界全体から見たら、それは少数かもしれない。ただの、弱き人々です。俺はただ……、その人たちを守りたいだけです。あなたたちを否定したいわけではない。ただ、ただ……その人たちを見捨てることが、俺にはつらいのです」
沈黙。長い、長い沈黙だった。
聖女様の中で、何かが、軋んでいる気がした。
神の理。『聖女』の役割。旅の記憶。
村での笑顔。
夜の会話。
誓いの言葉。
「……あなたは」
聖女様は、ゆっくりと話始めた。
「自分が、間違っている可能性を考えましたか?」
「何度も」
俺は、即答した。
「何度も何度も何度も。今も、考えています」
だが。
「それでも、自分の気持ちに『誠実』でいることだけはやめられませんでした」
「なぜ……なぜ?」
その言葉に、聖女様の瞳が、揺れていた。
--ああ、そんな悲しそうな顔をしないでください。
俺は聖女様の悲しそうな顔を、見たくなくて俺は……。
俺には難しことだが、なかなかうまくいかないが、あれをしよう。
シスターが俺によくやってくれた、……『笑顔』を。
「俺は、あなたの理想の『騎士』になると誓ったのですから」
「……あぁ」
そうだ、この気持ちは間違っていない。
「あなたが世界を守るのならば、私は人を守りましょう。そうすれば、皆が幸せになりましょう。」
「あぁ……あぁ!」
神の力が聖女様の中でうごめいているのがわかる。何かを抑え込もうとしているのが目に見える。だが、完全ではない。
「あなたはお優しい。人が救われないのを見て泣いていらっしゃっていた。本当は世界も、『人』も救いたいのでしょう? 私はただ、あなたのそんな涙は見たくない。笑顔が見たいのです。お優しい聖女様……。だからこそ、誓ったのです。あなたの、理想の騎士になると」
「うそっ、うそっ……」
聖女様は否定する。だが、俺も否定しよう。
「あなたのその『眼』で見てください。邪な者が見えるその瞳で。俺のすべてを見てください。……これが最後なのです」
「あ……」
そうだ、これは嘘などではない。俺には、ただこの誓いがあなたとともにあるのだ。
「あなたを脅かそうとする者から守りましょう。」
「ああっ……」
あなたもおびえていた。そうだ、あの故郷の惨事を目のあたりにしたのだ。怖かったのだろう。自分がその欲望の対象になるのが。
「あなたに欲望を向け、どうにかしようとしたものから防ぎましょう。」
「ああっ……ああっ!」
「そして、あなたが嫌がる、怖がるものから、私が切り払い、救いましょう。この剣に誓って」
「……あなたは、私の……」
聖女様の声が、詰まる。
「理想の……騎士様」
………
……
…




