表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
誠実であることが、最も残酷だった世界で ――第一部 完  作者: 平成アニメとゲームに取り残された者(旧名pawa)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/37

第18話 村の防衛も騎士の役目の一つです

この村は、町から外れた位置に存在していた。すぐ横に森林が広がり、美しい川が流れている。作物はあまり育たないように見え、豊かな生活はできていないように見える。それでも、住民たち健気に過ごしている。清貧を体現しているよう。

だが、そのような、あまり国から『重要視されない』ような村だからか。魔物に対する防備、そして町からの救援も十分ではなかった。


俺は馬を降り、兜を外した。


「失礼いたします」


声をかけると、村の者たちは一瞬、言葉を失った。傷だらけの鎧。その上に魔物の血もついている。怖がらせていないだろうか。

俺は勇者様がこの村に戻ってくるまで滞在することになったが、ただ飯食らいをするのは忍びないため、こうして村の防衛をしていた。ここを回ったら、一通り巡回したことになる。ここに来るまで数匹の魔物を退治していた。

座り込んでいる村人の目線に合わせるように、俺は姿勢を低くする。


「……あ、あなた様は、もしや」


「どうやらご存じのよう。はい、お察しでしょうが、しばらくこの村に滞在させていただいてる『騎士』です。ご無事でしょうか?」


村人たちは顔を見合わせ、頷きあった。


「村の外れに、魔物の痕跡を見ました。被害が出ていませんか」


その言葉で、空気が変わった。沈黙。視線が伏せられる。


「……夜になると、出るのです」


村人の一人である男は、絞り出すように言った。


「森の方から。家畜がやられ、柵が壊され……。今回は特にひどい。町の守備隊にも応援を呼びましたが」


「返答は、なかったのですね」


男は、うなずいた。

それ以上は不要だった。理由は分かっている。優先度が低い。ただそれだけだ。


「この気配ですと……まだいるようですね。少々お待ちを。退治してまいります」


「え?」


「私一人で十分です。村の方は、戸を閉め、私が声をかけるまで用心してください」


村人たちに背を向け、気配の方へ歩みを進める。


「そ、そんな……お一人では」


「ご心配には及びません」


村人を安心させたいと思い、表情を変えようとした。だがやめた。

勇者様が前におっしゃったことを思い出したのだ。

『きーくんはいつも表情硬いから、ちょっと笑顔意識した方がいいよ? ただでさえ、きーくんは誤解されやすいんだからさ。ほら、笑って笑って! ……やっぱり無理して笑うのはやめようか。獣が人を襲おうとしているような顔しているよ。わっ、わっ! ごめんね? 傷つけるつもりはなかったんだよ? そんな落ち込まないで!?』

だから、言葉だけでもと思い、穏やかに。


「目の前で怯え苦しんでいる民に報いず、何が騎士でしょうか」


夜。焚き火は落とされ、村は闇に沈んていた。村の外れに立つ。

血の匂いがする。周りには人間と思わしき物体があった。生命活動はしていない。


剣を抜き、呼吸を整える。

魔獣は一般的な動物と違い大きな魔力を保持している。魔力を感じれば、対処はできる。目に頼る必要はない。

集中していると、魔物は、音もなく現れた。

目に頼る必要はないと言ったが、夜の中でも輝く赤い目。異様に発達した脚。犬に似ているが、その獰猛な呼吸は隠しきれない暴力性を感じる。


計三体。


最初の一体が飛びかかる。半歩退き、剣を振る。浅い。爪が鎧を掠め、衝撃が骨に響く。いくら龍騎士の称号を得ようと、勇者様と違い所詮は一般人に毛が生えた程度なのだ。当然痛みもある。


「……っ」


声は漏らさない。漏らしてはいけない。隙を見せるとそこから決壊してしまう。

足を止めない。腕も止めない。


二体目が横から迫る。盾で受ける。体当たりだ。絶対に転がりはしない。それは終わりを意味する。転がったままだとそのまま食いちぎられ、終わりなのだ。

龍騎士の称号のおかげか、身体能力が上がっているのが実感できた。昔の俺ならば転がって死んでいただろう。無事ですんだ。


だが、恐怖はある。

しかし、それは退く理由にはならない。


背後には、家がある。暴力におびえる民がいる。

あの俺の原初の光景が頭に過る。これは、勇者様が昔おっしゃった『りべんじ』だ。俺が村を守る。今度こそ。


こいつらの速さはわかった。あとはこの犬たちの体当たりに合わせて剣で切り払えばよい。


最後の一体を斬り伏せたとき、膝をついた。剣を支えに、荒い息を吐く。極度の緊張から解放されたのだ。興奮状態が覚めていく。よく生きていたものだ。


「……終わりました」


誰に向けた言葉でもなかった。自分に言い聞かせた言葉。興奮をおさえたく。


すると足音がした。振り向くと、小さな人影があった。

少女だ。夜着のまま、裸足で立っている。そういえば村で見た覚えがある。あまり話したことはなかったが……。


「隠れているように言ったはずですが……。危ないですよ? 確かに気配は消えましたが……。戻りましょう」


できるだけ穏やかに言った。


少女は、少し震えながら近づいてくる。そして、俺のマントを掴んだ。


「……こわかった。だけど、気配、なくなったからお外に」


小さな声。折れてしまいそうな体躯。

この子は魔力の気配に人一倍敏感なのか。だから出てきたのか。


「だけど……おじちゃんにお礼言いたかったから」


俺はまだ10代だが……。

だが、それは些細な事。


「もう、大丈夫です」


「来ないよね? もう、怖いの、来ないよね?」


「ええ、来ません。来ても俺が守りましょう。」


その言葉に少女は、ほっとしたように息を吐き、笑った。


「ありがとう! ありがとうね、『騎士』様!」


聖国の信仰があるこの村であっても、少女から神への祈りはなかった。神の名も出なかった。

ただ、俺への『信頼』がそこにあった。

胸に奇妙な重さを残したが、ただそれも些細な事。目の前の少女の笑顔による達成感に比べれば。


少女を伴い、村の者たちの元へ戻る。村人たちは安心し、そして俺に感謝を述べた。

達成感があった。あの時俺にできなかったことを自分は成し遂げたのだと。

ただ、少し虚しさもあった。俺が成し遂げたとしても、あのシスターは帰ってこないのだと。


「騎士様!」


村人たちの中を潜り抜け、聖女様が駆け寄ってくる。そして俺を抱きしめた。


「お体は大丈夫でしょうか、騎士様?」


「はい、私は問題ありませんが…。聖女様、危ないですよ。この夜更け、女性が一人で歩んでいたら。それに魔物もいたはず」


「もう、私は勇者パーティの一員ですよ? 自分の身は自分で守ることができます。それより勇者様です! お一人で魔物退治しに回っているとお聞きし、胸が張り裂けそうで……」


「それこそ、私は勇者様パーティの壁です。通常の魔物など、取るに足りません。それより聖女様だ。あなたは前衛ではない」


「私はこの神聖魔法があります!」


「神聖魔法だけでは、聖女様の安全が完全に確保されたとは……。やめましょう。これ以上は平行線です。それよりも今はお互いの無事と、村人たちの無事を喜びましょう」


「ええ、そうですね。本当によかった、騎士様がご無事で。もしあなたがいなくなったらと思うと、私は……」


聖女様は涙を瞳に溜めながら俺を上目遣いで見つめる。

俺は達成感からか、それとも安心感からか、少し胸が高まるが、それは自分に疲れがたまっているからだと断じ、聖女様を正面から見つめ返した。大丈夫だと、安心させたいから。


「問題ありません。俺が居なくとも、聖女様は、いえ、勇者様パーティに何の影響も及ぼしません。私の代わりなどいくらでもいます」


「そんなことありません! あなたは、私の、私だけの理想の……。あなたのためなら私は……」


正直、嬉しく思った。

俺程度の存在を気にしてくださっている聖女様のお優しさに。この人に報いたいと、心の中から深く思った。

理想の騎士、今はなれているかわからない。だが、この人との誓いはこれからも守り続けたい、そう願った。


「聖女様……」


「騎士様……」


見つめあっていると、視線を感じた。村人たち皆がこちらを生暖かい目で見ていたのだ。

俺と聖女様はお互い恥ずかしさを感じ、距離を置いたが、聖女様は俺の服の裾を握ったままだった。


俺は、それを拒否せず、されるがままでいた。心地よかったのだ。



………

……


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ