第19話 居心地が悪かったが、これが幸福な時間というのでしょうか
村の広場には、夕暮れの名残が漂っていた。
魔物を退けた祝いだと、村人たちは口々に言い、決して豊かな村とは言えないが、それでも精一杯工夫を凝らした料理を並べている。焼いた芋、干し肉、薄い酒。豪華ではないが、そこには確かな熱があった。
「さあさあ、騎士様も聖女様も、こちらへ!」
俺は困惑しながら、聖女様と並んで席に着いた。周囲の視線が、やけに温かい。
「いやあ、若いご夫婦がそろって村を守ってくださるとはなあ」
「え?」
思わず声が漏れた。聖女様の方を見ると、チラチラとこちらを見つめている。
一瞬訂正しようとしたが、それは聖女様のお気持ちを崩すことにつながるし、もともとこの村に来てからはそうしようと決めていた。だから黙っていた。
「ほら、息もぴったりじゃないか」
「騎士様がその武勇で我々の矛となり、聖女様がその神聖魔法で我々の盾となってくださった。まさに理想の夫婦だよ」
笑い声が上がる。聖女様は、わずかに困ったように、いや、恥ずかしそうに微笑んでいた。
酒が回り、歌が始まる。子どもたちは騒ぎ、大人たちは杯を重ねる。
俺は無心で飯を食べようとしていたが、横の聖女様たち(いつの間にか村の若い女性たちと談笑していたようだ)の声が大きくなった。
「えーっ! まだ夜も共にしてらっしゃらないのですか?」
「は、はい……」
顔を赤らめて肩身を狭そうにしている聖女様に、村人たちは驚きの声を上げていた。か細い声で聖女様は話始める。
「せ、聖女の称号を持つものは、清らかであることを望まれます……。ふ、ふしだらなことをしてしまうと、力が落ちてしまいます…。魔王を倒してない身です。そ、それにまだ結婚式を挙げる前にそのようなことを……」
「かたーい!」「騎士様すごーい!よく耐えれますね!」「かわいそー」
俺は何も聞いてない様子を貫くことにしよう…。
話は続く。
「でも、どこまでいったんですか?」
「ど、どこまでとは?」
「行為までいかないにしても! やることはやっているのですかってことです!」
「そ、そんな……はしたないですっ」
羞恥で顔を覆い始める聖女様。村の若いものたちが追い打ちをかける。
「接吻はしたんですよね?」
「……」
「うそ、それもしてないんですか? ……よしっ! じゃあ今からやりましょう!」
「ええーっ!」
「なんだ?」「どうした?」「今から聖女様と騎士様が接吻しますー!」「おおー!」
勇者様の『おおっじゃないが?』という幻聴が聞こえるが、まずいことになった。
いくら何でも、聖女様に申し訳ない。断ろうと、この話を始めた女性陣の方に目を向けると、そこには期待をしているような顔をした聖女様がこちらを見つめていた。
思考が凍った。
どうすればよいのでしょうか、勇者様…。私は勇者様のように人間関係をうまく処理できないのです…。
会場の熱が上がってくる。
俺たちが見つめあっていると、何を勘違いしたのか村人たちの歓喜の声が増した。
ちゅっ。
甘い香りがしたと思ったら、頬に何か感触があった。
……そうか、聖女様は頬に接吻したのか。
祝福の言葉が次々に飛んでくる。感謝。尊敬。期待。
胸の奥が少し高まると同時に、聖女様に申し訳ないことをしたと、罪悪感がわいた。騎士として失格だ。女性に失礼なことをさせてしまうなど。止めるべきだったか。
「そ、外の空気を吸ってきますーっ!」
聖女様はこの場にとどまるのに耐えられなかったのか、顔を赤らめながら席を立った。
「……俺も少し、風に当たってきます」
「後は若いご両人にー!」「頑張ってね!」「ごゆっくりー!」
何を頑張るのだ?と疑問に思いながら聖女様の後を追った。
………
……
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