第17話 これはパワハラじゃないからね? 交渉だからね?
神殿兵……。それは聖国を守護する武の一つ。
教皇直轄の兵たちであり、神の加護を得た者たち。
勇者様や聖女様たちには力及ばないが、それでも人類ではトップクラスの力を誇る。
それがなぜこのような村へ……。
神殿兵が俺たちの前にひざまずき、勇者様へ話始める。フルフェイスの兜により、表情は見えないが、それでも勇者様に畏れを抱いているに見えた。
「はっ。勇者様ご一行に関しては、本日も壮健でなにより…」
「いいよ、目的を伝えて」
「承知しました。実はここから離れた町に、強力な魔物の群れが出現しており……」
「……それで?」
勇者様の苛立ちが、目に見えて増えているのがわかる。それに伴いその神殿兵の頭が深く下がる。
「な、何卒勇者様のお力を……」
「何で僕? 君たちの力だけじゃダメなの? 神殿兵って人類の中でも強い人たちの集まりでしょ?」
「もちろん我々も増援を出し、討伐に向かいましたが、それでも苦戦しており……。……いえ、壊滅的な被害が」
「……だから僕? いや、何で『僕』だけ? きーくん…騎士は連れていっちゃだめなの?」
「それが、この地図のこの町でして…」
神殿兵が示した場所は、……なるほど。
「僕の『高速』『飛行』がないと、早くたどり着けないからか」
勇者様の能力の一部である『高速』、そして『飛行』。勇者様の称号を与えられたものに備わる力。
勇者様の力は一つだけではない。多種多様であり、それぞれが絶大な力を誇る。
その『高速』『飛行』の能力があれば、例えば俺らが1週間かかる道のりも、2,3日ほどで到着するだろう。
能力を使用しながら俺を連れて行こうとすると、早さが落ちてしまう。それほど急を要することなのだろう。
「僕たちにメリットがあるの?」
「めりっと、とは?」
「利益ってこと。わざわざ魔王討伐を一時休止してまで手を貸すんだよ? そして君たちでも苦戦するような魔物なんでしょ? それなりの見返りがないと、検討するにも値しないよ」
「教皇陛下からは、このような褒賞を与えてくださると…」
「へぇ……。まあ、少しは考えるには値するけど。それでもさぁ……君たち、僕たちを便利屋か何かと勘違いしていない? こんなこと、前にもあったよね? 僕、あまりサブストーリーに興味はない主義なんだけど」
「さぶすとーりー…? 申し訳ありません、何かはわかりませんが、それでも勇者様しか頼るものもなく……。それに、『勇』ある者として、民に希望を与えるよい機会だと教皇陛下が……」
その言葉を聞き、勇者様の威圧感が増した。聖女様の周りにいた村人もこちらに注目し始める。顔を青くする者も多く出ている。生物としての格の違いを見せられているのだ。
「『勇』あるもの…? それじゃ、これを受けなかったら『勇』なき者として扱われるってこと? 君たちの力不足で招いた事態で、そして勝手に君たちが僕を指名して、それで断ったらそうだと? 随分と勝手すぎない?」
「は、はっ! 大変申し訳ございません!!」
神殿兵が謝るが、それでも勇者様は止まらない。
「勇者システムは、教皇のもとにいる君たちだったら知っているよね?」
「しすてむ……とは?」
「勇者の理のこと。きーくんの『騎士』の風聞のように、勇者も周囲の信仰から力が増幅される。その武勇、そして『勇気あるものとしての行い』でね。この依頼を断ったら、いつものように教皇はその話を周囲に広めるだろう? 『勇』を失ったって。力を取り戻すには、また面倒なことをしなきゃいけない。君たちは、僕の足を引っ張りたいの?」
「い、いえ! そのようなことは、滅相も……。それに、この依頼を受けてくだされば、勇者様の勇名は更にっ!」
「それが自分勝手すぎるってことが何でわからないかなぁ…。このせいで魔王討伐が遅れたらどうするの? 人類はまた劣勢になるよ? そこまで考えているの? その場合の責任は教皇がとってくれるの?」
勇者様がおっしゃっていることももっともだ。だが、ただ頭を垂れるしかない神殿兵に同情するしかない。
……ん?
勇者様が目配せをしている。俺に何かしてほしいのか?
考える……。なるほど。
「勇者様。差し出がましいですが、発言よろしいでしょうか?」
「……許可するよ」
「確かに勇者様のおっしゃる通り、懸念もあります。ただ、それを上回るだけの利益があればと」
「続けて」
「討伐が遅れた場合に備え、そのための資金等を用意してくださればと。特権もしかり。」
「……そうだね。ねえ、それはできるの?」
「はっ。可能かと思います。教皇様はほかに必要なものがあれば、それに応える用意はあると」
「じゃあ最初からそれを言ってほしいんだけどね」
「も、申し訳ありません!」
「まあ、いいや。助けることで僕の武勇も、『信仰』も上がることだし。……便利屋扱いしているのは気に食わないけどね。受けるよ、その依頼」
「ありがとうございます!」
「きーくん。ちょっといいかな?」
勇者様が俺に近寄ってくる。
「しばらくこの村で休んでおいてくれないかな? 多分1~2週間程度かな? ちょと行ってくるから」
「わかりました」
「それと、ありがとね。よく僕の考えていることわかったね」
「はい。予算も少なくなってきましたし。これからパーティの人数も減るかもしれない。準備しておいて損はないと。」
「うん、そうだね。……普段もそれくらい鋭かったらいいのに」
「申し訳ありません。それに、自分がその遠征に赴くわけでもないのに、偉そうなことを言ってしまい失礼しました」
「ふふっ。いいよ。それに僕もこの村に居たら、ブチぎれちゃうかもしれないから、いい機会だと思うことにするよ。何が夫婦だよ……。僕だってまだそんなこと周りに言われたことないのにっ」
「私と勇者様だったら不健全だからでは?」
「だから不健全ってなにっ!? もう、きーくんの、ばか、あほ、おたんこなす! 行ってきます!」
勇者様は早速高速飛行を使い、この村から出発する。
静寂が少しの間続いていた。その中で聖女様の鈴のような一言。
「……さすがです騎士様!」
「聖女様?」
「これぞ騎士様っ。見習うべき『忠義』です! 勇者様の役割を重んじ、たとえ尊敬している騎士様に意見するようなことがあっても、勇者様を『勇あるもの』とすべく、諫言なされる。ああ、やはりあなた様は私の理想の騎士様……」
そんな大層なことを考えたことはなかったが…。それでも聖女様が嬉しそうならばよかった。
その聖女様の言葉で、村人も俺の方に集まってきた。
「騎士様!」「さすが!」「いつから聖女様とお付き合いを!?」「式はいつから?!」
逃げられる雰囲気ではない。このような経験は少ないため、対処がわからず対応に困った…。
……でも。
聖女様が喜んでくださるのが、嬉しかった。
………
……
…




