第16話 聖女様と再会しましたが、どこか既視感があります
勇者様がおっしゃっていた、ここからすぐ近くの村にやってきた。
何の変哲もない村のように見えた。俺が前いた教会の雰囲気に近い、長閑な村。畑で作業をする農夫が見える。家畜の世話をしている牧場の者が少し遠くで見える。笑い声をあげながら走り回る子供が横を通り過ぎる。いたって普通の村だ。
「ゆ、勇者様!?」
村人の一人が大きな声を上げる。その声につられ、村人が一斉にこちらを振り向く。
勇者様とただの田舎の村人がわかるのは、勇者様の証としてお体に印が刻まれているのもある。ただ、それだけでなく勇者様の覇気もその一つだ。人間の本能へ訴えるほど。
『勇者』の称号を持つものは、一目見ただけで勇者様と判別できるようになる。そのおかげで、勇者様は初対面の者でも一定の信頼感を得ることができるのだ。まあ、勇者様の人柄により、触れ合えばすぐに信頼できるとは思うが…。
「わー、本物の勇者様だ!」「握手して!」「まぁ、麗しいお方だわ」
勇者様を村人が囲む。誰もがこの方を受け入れる声を上げている。
「あの方が騎士…」「なんて威圧感がある…」「あれが、『龍騎士』……」「そんな呼び方より、『華の騎士』の方が呼び方良いわよっ。ああ、なんと麗しいお方っ!」
俺の評価の声も上がっている。
そう、あのドラゴンの事件から俺の噂は出回っていた。
『龍騎士』『華の騎士』
吟遊詩人が俺のドラゴンとの対峙を歌にして回っていたらしいのだ。その影響で俺はそのように呼ばれ始めていた。
『騎士』の称号を持つものは、『民の理想』である。
民からの評判、そして『信仰』が、騎士の強さに影響を与える。『龍騎士』と呼ばれ始めたことで、ドラゴンの力が少し手に入った。まぁ、俺が直接ドラゴンを倒してはいないため、そこまで力は得ていないが……。『華の騎士』の影響はあまりわからないが…。女性からの目線がよくなった気がする。
「きーくん? 鼻の下伸ばさない! ほら、行くよ!」
勇者様は慣れているのか、丁寧に対応しながら村長を探す。もちろん、聖女様の居場所を教えてもらうためだ。
村長がその集団の中から出てきた。
「この村に聖女は来ていませんでしたか? 見た記憶がある方はいらっしゃいませんか?」
「ええ、聖女様ならば今、この村にある教会でお祈りをささげております。案内させていただきますぞ。ついてきてくだされ」
よかった。読みがあたったようだ。
「ありがとうございます!」
案内される道中、村長が声をかけてきた。
「あの……。聖女様やあなた様方がこのような何の変哲もない村にお越しになられた理由について、お伺いしてもよろしいですかのぉ?」
まさか痴情のもつれとは言えない。勇者様が苦笑いしながら応対する。
「ちょ、ちょっと訳ありなんですよ。深堀しないでくださると……」
「わかりました……。勇者様たちの旅は想像に絶するものを聞いております。何か理由があるのでしょう…。ワシらなどが関与できないほど大変でお辛いような……。聖女様はこの村に来られて、教会にすぐに籠ってしまいました。事情を聴きましたが、旅の療養だとのみで。ずっと辛そうな顔で一日中祈りをささげております。我々は聖女様の神聖魔法で日々助かっているのでよいのですが。何か一人にならないといけないほどの、呪いや大変な目にあわれたのでしょう」
「「……」」
俺たちは何も言えなかった。
「も、申し訳ありません。出過ぎた真似をしたようじゃ。ああ、もうすぐ着きます。では、儂はこれにて失礼いたしますぞ。お邪魔になりそうなので……」
古い教会が目の前に見える。扉を開きその中を覗いてみると、聖女様が一人で祈りをささげていた。
陽の光が聖女様を照らしている。幻想的で、神聖な光景。聖書の中の一ページを見ている気がした。
「……せーちゃん」
勇者様が聖女様に声をかける。聖女様はその声に驚いたようで、こちらを凄い勢いで振り向いた。
「ゆ、勇者様? それに……騎士様!!!」
聖女様は涙を瞳に溜め、笑みを浮かべなさった。そして、俺の胸元へ飛び込んでこられた。意外過ぎて正直驚いた俺は、そのまま聖女様を受け入れた。
「せ、せーちゃん、ちょっと離れようね? まずはお話しようね?」
勇者様は青筋を立てながら俺と聖女様を引き離す。しかし、聖女様は引き離された後も勇者様が眼中にないのか、俺ばかりを見つめてくる。
「騎士様…。私の騎士様。やはり、お迎えに来てくださったのですね……。大変嬉しく思います」
「……」
あまりにも以外すぎた。まず、俺は最低でも殴られるのを覚悟していたからだ。思わぬ形ではあるが、聖女様の御心を裏切ることをしたのだ。それ相応の罰を受けるべきだと思っていた。勇者様はお優しいのか罰を与えてくださらなかったが、被害を被ったご本人からは、大きな怒りがあるはずだ。それを受け入れるべきだと思っていたのだ。
だが、目の前の聖女様の様子はどうだ? 俺を逆に受け入れてくださっている。
俺は戸惑いながらも声をかけた。
「……聖女様。お怒りではないのですか?」
一瞬呆気にとられたような顔をなされる。だが、すぐに俺の手を取り微笑み返しなさった。
「ええ、正直言いますとあの時は怒りと、そして悲しみで途方にくれておりました。騎士様が、私を裏切られたと…」
「……申し訳ありません。そのつもりはなかったのです。今は言い訳にしかなりませんが。……ただ、ただ「いいのです」……え?」
俺が理由を説明しようとすると、途中で遮られる。聖女様は得心なさった顔をなされている。何が、何がいいのだろうか? 聖女様のその異様なお姿に口を閉じてしまう。
「いいのです。あの後、私はこの村に。そのあとに、私は神に祈りながら考えておりました。騎士様は何故あのようなことをおしゃったのだろうと。」
「……はい。ですから」
俺が言葉をつづけようとしても、それに構わず目の前の彼女は話を進めた。
「みんなを傷つけないようにするためですよね?」
「……はい?」
「騎士様はお優しい方ですもの。あの場をおさめるには、誰とも付き合っていないことにした方が、皆を平等に扱える。騎士様は誠実なお方なので、『平等』であるという意識づけが必要でしたものねっ。それにほら、私を想ってくださらなかったら、こうして一番にお迎えにきてくださいませんよね? それが証拠です! 嬉しいですわ、私の騎士様!」
彼女が俺に抱き着いてくる。柔らかい感触、そして女性特有の甘い香りがする。だが、なぜこのような話になったのかわからない。
後ろから人々の気配がする。どうやら村人が俺たちの様子を見に来たようだったら。
それに聖女様もお気づきになられ、声をかける。
「皆様! 私の騎士様がお迎えに来てくださいました! 少し仲違いをしてしまい、この村に一人できてしまいましたが、こうして騎士様がお迎えに! そう、まるで夫が実家に帰った妻を迎えにくるように…」
村人が「おおっ」と声を上げるのを横目に、勇者様は「いや、『おおっ』じゃないが?」と小さな声で冷静につぶやく。
「見ての通り、わたくしたちはお付き合いしておりますの! 少し旅の休憩にこの村へよりましたが、良い報告になりました! 凱旋はまだ先ですが、よい練習かと! 皆様っ、どうか祝福してくださいませ!」
「おおっ!」「めでたい!」「酒だ!」「おめでとう!」「お似合いだわ!」「だから『おおっ』じゃないが?!」
さっきとつじつまが合わないのでは?
村人たちの大きな喧噪に勇者様の声がかき消される。この喜びの渦は、一種の嵐だった。村人に向き合うために俺から離れた聖女様の方へ皆集まり、祝福の声をかける。
勇者様はこのままではまずいと感じたのか手を叩こうとしたが、俺は止めに入った。
「勇者様、お待ちを」
「ちょっと、だってぇ……。また前みたいなことの繰り返しじゃん!」
「このまま否定しても、聖女様の立場がなくなります。聖女様をさらに悲しませることになってしまう」
「でも、これじゃ誤解されたままだよ? そりゃ悲しませることになっちゃうけど…」
「折を見て話しましょう。少なくともこの村ではこのままで。村民に失望させることにもつながってしまいます。村を出て、魔王を倒した後、俺から彼女を手放したことにしましょう。不義理を働いたとして」
「きーくんが泥をかぶる必要はないけど……。わかったよ。この村じゃ我慢するよ。……もう疲れたよ」
「ご心労おかけし申し訳ありません。」
「後でちゃんとサービスしてね?」
「さーびす?」
「ご褒美ってことっ! いい? いっぱいきーくん成分味合わせてくれないと許さないからっ!」
「不健全では?」
「既にせーちゃんの胸で鼻の下伸ばしたきーくんがそれ言える? ふんっ、どうせ僕は胸ないですよーっだ!」
「勇者様に胸がないのは自然なことでは?」
「きーっ!!! もう怒った! きーくんの鈍感! 天然! 女の敵! ハーレム主人公! ジゴロ! スケコマシ! ラブコメの波動におぼれちゃえ! フォローなんてもう僕の気持ち的にできないから!」
「も、申し訳ありません勇者様……」
後半は何を言っているのかわからなかったが、勇者様はお怒りになられているようだ。
何とか宥めようと頭の中で悩んでいると、一人の男が俺と勇者様の前に現れた。
「……その鎧とマントの紋章、聖国の『神殿兵』だね?」
………
……
…




