第5話 初心者狩りは運営規約違反だ
鬼塚豪の検証配信から数日。
奴が命を削って集めたデータは『攻略wiki』にまとめられ、浅層には成人登録を済ませたばかりの若い探索者まで押し寄せるようになった。
「他人の解答をなぞるだけの連中が増えたか」
俺は不機嫌に監視水晶を眺めた。
だが、その中に一段と目障りな三人組がいた。
揃いの黒い外套を着た悪質クラン。その前を、まだ装備の新しい若い探索者――真壁遼が歩かされている。
『ほら、先行け。豪の配信にない罠だったら、お前が踏んで確かめろ』
『でも、床の模様が少し違います。まず止まって――』
『いいから行け』
背中を蹴る。
囮だ。
自分では予兆を読まず、他人の身体を罠の検知器にするつもりらしい。
「……汚い」
『地球側規約でも重大な違反行為です』
「法律の話ではない」
俺は設計盤へ指を置いた。
「攻略とは、自分の眼で予兆を拾い、自分の判断の代償を自分で払うものだ。他人を罠へ押し込んで正解だけ盗むなど、俺の試験を受ける資格すらない」
真壁が火炎区画へ入る。
壁の彫像。床の煤。射線は見える。
恐怖で呼吸を乱しながらも、彼は一度立ち止まり、煤の切れ目を見つけた。
「そこだ」
少年ではない。登録済みの探索者だ。ならば答えは自分で選べ。
彼は身を低くし、火炎の射線から外れて通路を抜けた。
罠は作動しない。
『なんだ、楽勝じゃん』
三人組は、彼が通った場所だけを見て後へ続こうとする。
その瞬間、床に赤い文字が灯った。
『警告:攻略行為に対する強制囮使用を検知』
『対象三名:深部攻略資格を一時停止』
『監査区画へ転送します』
『は?』
三人だけが白い光に包まれ、別の小部屋へ転送された。
「勘違いするな。これは罠ではない」
俺の声を、監査区画の壁へ響かせる。
「攻略資格の審査だ。俺の試験を受ける前提を、自分で捨てたのは貴様らだ」
監査区画は短い一本道だった。
三つの扉。三つの罠。どれも普段の浅層より簡単で、予兆も露骨にしてある。
一つ目は、床の粉塵が途切れた鋼線。
二つ目は、煤の残った火炎射線。
三つ目は、作動前に壁の歯車が鳴る毒矢。
他人を先に歩かせなければ、初心者でも止まって考えられる程度のものだ。
『クソ運営が! こんなの知るか!』
一人目が走り、首を刈られた。
『右だ! あいつが死んだ場所を避けろ!』
残り二人は、また死者の位置だけを見て進む。煤を見ずに炎へ踏み込み、二人目が光へ砕けた。
最後の一人は、帰還した仲間の配信画面を見ながら毒矢の部屋へ突っ込んだ。
「最後まで、自分では見ないか」
歯車が鳴る。
毒矢が首を貫いた。
三人が帰還室へ吐き出される。
その端末には、再同期待機時間とは別に、赤い処分表示が出ていた。
『当迷宮・深部攻略資格 30日停止』
『当日獲得素材 没収』
『監査ログ 公開』
『ふざけんな! 俺たちだけ狙い撃ちじゃねえか!』
「当然だ。貴様らは俺の罠に負けたのではない。俺の盤面へ座る資格を失っただけだ」
NAVIが監査ログを公式ミラーへ送る。
コメント欄は一瞬で沸騰した。
『初心者をカナリアにした連中BANされてて草』
『しかも審査用の簡単な罠すら人の死体頼みで全滅w』
『不正者はゲームの外へ。神運営そこだけは容赦ねえ』
「正義のためではない。俺の作品を汚したから捨てただけだ」
俺は吐き捨て、監視水晶を元の通路へ戻した。
取り残された真壁は、一人になっていた。
それでも帰還を選ばず、次の角で足を止める。
壁の下部に微かな変色。罠の射線だ。
彼はしゃがみ、自分の眼で確かめ、ゆっくりと通った。
何も起きない。
「……ほう」
他人の死ではなく、自分の観察で答えを拾った。
「少しは見る目があるらしい」
『マスター。近隣の自然発生型ダンジョンで、異常な事故報告が増えています』
NAVIが別のウィンドウを開いた。
罠の配置が雑。通路設計も破綻。攻略者の能力ではなく、構造欠陥で致死判定による強制帰還と重傷者を続出させているらしい。
「粗製濫造か」
俺は立ち上がり、黒い戦闘外套を手に取った。
「他人の迷宮など知ったことではないが、近所にクソ仕事を置かれるのは目障りだ」
戦闘用アバターの起動ルーンが、足元に灯る。
「どれほど酷いのか、俺が直接査定してやる」




