第42話 世界中を一つのダンジョンにする
最終シーズン開始から九日目。
グラズが予告した本侵攻時刻まで、残り十五時間。
この九日で、世界中の正規ダンジョンは一つの訓練網へ繋がった。
アメリカ側が魔力スイッチを解除しなければ欧州側の毒が止まらない。日本側が音の暗号を解かなければアジア側の扉が開かない。
国境ごとに分断されていた攻略者たちは、嫌でも世界単位で情報を渡すようになった。
【対未同期コア/暫定攻略wiki】
一、魔力表示だけを信じない。粉塵・反響・風・床の傷を見る。
二、分からない部屋へは入らない。止まることも攻略。
三、神運営から短文座標が来たら、意味を議論する前に予兆を探す。
四、退路を残せ。退けることは敗北ではない。
「……誰が四番を書いた」
『利用者による共同編集です』
「消せ」
『外部wikiのため権限外です』
「一匹で勝てないなら、数万匹で一つの頭を使え」
俺は世界マップ型の進捗盤を睨む。
グラズが本気で来れば、個人の強さなど物量で潰される。
なら、その前に地球全体を一つのレイドパーティーへ変える。
『マスター。重大な懸念があります』
NAVIが警告を出した。
『本侵攻時、未同期コア群の魔力干渉により、通常の双方向ネットワークは高確率で遮断されます』
「映像もコメントも消えるか」
『加えて、こちらからの詳細指示も送れません』
俺は舌打ちした。
称賛が見えないことより、俺の引いた道が現場へ届かなくなる方が致命的だ。
「通常網と物理層を分けろ。俺の本拠地コアから各地域の中継コアへ、災害用の一方通行回線を敷設する」
『一方通行?』
「受信はいらん。座標、退避、短い攻略ヒントだけ送れればいい。俺が手動で叩き込む」
『了解。独立単線を構築します』
これでNAVIが黙っても、俺の側から最低限の道標だけは送れる。
もう一つ、現実的な問題があった。
『世界中継の視聴者は数千万規模。訓練ログも集中し、既存サーバーが限界へ接近しています』
「人間の器は脆いな」
その時、ヘリックス社本社から通信が入った。
『神運営殿。我々のサーバー網と復旧ドローンを使ってください』
以前、極東支部の佐島がP2Wを持ち込み、俺の罠を粗悪コピーした企業だ。あの騒動の後、佐島は迷宮運営部門から外され、今は本社が直接この案件を握っているらしい。
「クソゲー企業が、どの面を下げて」
『ゲームを作る才能がないことは認めます。ですが、通信を落とさないこと、物資を運ぶことなら世界規模でできます』
社長は苦笑した。
『それに、地球が滅べば顧客も市場も消えます』
合理的だ。
「表には出るな。サーバー、回線、補修、輸送だけやれ。設計へ口を挟んだら切る」
『承知しました』
コピー運営には向かなかったが、裏方としては使える。
役割を間違えなければ、三流にも価値はあるらしい。
ヘリックスの回線が接続され、世界地図の通信エラーが緑へ変わっていく。
その直後。
『緊急警報』
NAVIの声が鋭くなる。
『未同期コア群の連結速度が予測値を上回りました。侵攻開始時刻、十二時間前倒し』
「……残り三時間だと?」
世界地図へ赤い点が一斉に灯る。
空が、赤紫へ染まり始めた。
「最後まで性格が悪いな、グラズ」
俺は設計盤へ両手を置いた。
「だが三時間あれば、盤面を起こすには十分だ」




