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人類を絶望させたい元魔王軍の罠師、殺意100%のダンジョンを作ったのに死にゲー狂いから「神運営」と崇められる  作者: 他力本願寺


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第39話 運営は信用するな。設計は信用しろ

七十二時間に及ぶ『地獄訓練β』が終了してから数日後。


 地球の行政機関(ダンジョン安全管理庁)からの強い要請もあり、俺の迷宮の浅層エリアを利用して、その訓練の成果を示す『公開検証』が行われることになった。


 監視水晶には、黒瀬迅、天城レイナ、鬼塚豪の三人が、訓練を最後まで生き残った百人の精鋭たちと共に、さらに数千人の後続――基礎も身についていない初心者層を含む有象無象――を率いている姿が映し出されている。


「……無謀な」


 俺は玉座で腕を組み、冷ややかに鼻を鳴らした。


 百人の精鋭だけならともかく、数千の素人を引き連れて進むなど正気の沙汰ではない。群れの規模が大きくなればなるほど、統率は困難になる。情報伝達の遅れやパニックが連鎖し、俺の罠の前ではあっという間に崩壊するはずだ。


 だが。俺のその予想は、彼らの『変化』によって心地よく裏切られることになる。


『ストップ!』


 先陣を切る迅が、ピタリと足を止めて右手を高く掲げた。


 かつての彼なら、罠の起動音を聞いた瞬間、自分一人で最速の解を導き出して回避し、後続を置き去りにしていたはずだ。しかし今は違う。


『今の床のきしみ、0.5秒後に右の壁から矢が来る! 前衛は盾を斜めに構えろ! 後衛は伏せろ!』


 迅は一人で避けるのではなく、初心者にも直感的に分かる『言語化された攻略原則』を大音声で叫び、集団全体に回避行動を強要した。


 直後、右の壁から魔力矢の雨が放たれるが、迅の指示通りに動いた数千人の群れは、誰一人として致命傷を負うことなくそれをやり過ごす。


 別の通路では、天城レイナの足が、珍しく止まった。


 壁の赤い筋が一瞬だけ明滅する。俺には分かる。あの女の身体能力なら、今すぐ踏み込めば発動前に抜けられる。実際、レイナの膝は反射的に沈み、前へ飛び出す準備に入っていた。


 だが、彼女は一歩目を飲み込んだ。


 後ろには、同じ動きを真似すれば確実に間に合わない初心者がいる。


『……私だけなら行ける。でも、今は待つ』


 レイナは振り返り、初心者たちへ壁を指した。


『あの赤い筋が消えるまで前に出ないで。身体が行けって言っても、今日は我慢』


「……ほう」


 自分なら抜けられる最短解を、他人を生かすために捨てた。初めて現れた時、足場そのものを玩具にしていた女が、今は己の本能へブレーキを掛けたのだ。


 迅が言葉で全体の速度を揃え、レイナが自分の速度を捨てて待つ。


 二人とも、最初に俺の迷宮へ来た頃なら選ばなかった手だ。


 ただ罠を抜く側から、他人を生かして抜かせる側へ。俺の殺意は、また余計なものまで育てていた。


 そして、その巨大な数千の群れ全体を、一つの軍隊として統括しているのが、重装タンクの鬼塚豪だった。


『第一班、退け! 第二班が前に出て壁を作れ!』


 豪は最前線で巨大な大盾を構えながら、各部隊の損耗率と罠の解除状況をリアルタイムで把握し、的確な指示を飛ばし続けている。


『死に戻り組は帰還室で待機しろ! 無駄な突撃で魂疲労を溜めるな! 情報は常に前線へ回せ!』


 彼の指示のもと、群れは信じられないほどの粘り強さで、俺の仕掛けた複合ギミックを次々と解体していく。


 さらに、配信を見ている数百万の視聴者たちも、ただの観客では終わらなかった。彼らは七十二時間の訓練で得た膨大な致死データを、外部の『攻略wiki』に秒単位で更新し続けている。それが即座に前線の端末へとフィードバックされる『実戦用の情報兵站』として、完璧に機能していた。


「……俺の仕掛けた理不尽な死の反復が、彼らをここまで強靭な『種族としての軍隊』へと鍛え上げたというのか」


 俺は、罠師としての自負と、彼らの適応力に対する苛立ちがない交ぜになった、奇妙な感慨を抱いていた。


 やがて、数千の群れは見事に浅層の複合ギミックエリアを突破し、致死判定による帰還者を最小限に抑えたまま安全地帯へと到達した。


『マスター。公開検証の集団生存率は、β訓練前の予測値を大幅に上回りました』


 NAVIが数値だけを淡々と報告する。


『未同期コア想定モデルにおける生存予測値も上昇しています』


「ふん。調子に乗るなよ、NAVI」


 俺はワイングラスを置き、不敵に笑った。


「あいつらが攻略したのは、あくまで訓練用の浅層だ。最終シーズンでこれから追加する対侵攻用の高負荷区画は、あんな玩具とは次元が違うぞ」


 あくまで、この迷宮における最大の脅威は俺自身でなければならない。その矜持だけは、絶対に崩さない。


 水晶の向こうでは、探索者たちが歓喜の声を上げている。


『しゃああ! 抜けたぞ!』


『神運営の訓練のおかげだ! 理不尽への対応力が段違いに上がってる!』


『この連携なら、どんなクソゲー(未同期コア)が来てもぶっ壊せるぜ!』


 迅が、カメラに向かって力強く言い放つ。


『運営の性格は信用できねえが、あいつの「設計(フェアネス)」は絶対に信用できる。だから俺たちは、迷わず前へ進めるんだ!』


 彼らの、俺の罠に対する絶対的な信頼。


 その達成感と連帯感が最高潮に達した、まさにその瞬間だった。


 ――ズドォォォォォンッ!!


 ダンジョン全体が、まるで巨大な隕石が直撃したかのように、激しく揺れ動いた。


「……なんだ!?」


 俺は玉座を蹴り立てて立ち上がった。


 NAVIの警報が、かつてない悲鳴のような音量と赤色の明滅を伴って鳴り響く。


『緊急事態! 緊急事態! 当ダンジョンコアの直上、現実世界の座標(マスターの本拠地)の防壁が、外部から物理的に破壊されました!』


「破壊されただと!?」


『グラズ軍の強襲部隊が、空間転移によって当ダンジョンの内部へ直接侵入しました!』


「……俺の庭へ直接来たか」


 俺は笑わなかった。


「なら、歓迎してやる」

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