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人類を絶望させたい元魔王軍の罠師、殺意100%のダンジョンを作ったのに死にゲー狂いから「神運営」と崇められる  作者: 他力本願寺


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第38話 地獄の三日間

『地獄訓練β』の告知からわずか数時間。


 俺が用意した第二階層の特殊区画の入り口には、『本番では魂帰還が働かない可能性がある。その前提で訓練せよ』という警告を承知した、数千人もの探索者たちが集結していた。


 俺は玉座でワイングラスを傾けながら、水晶越しにその熱気を見下ろした。


 今回の訓練の目的は一つ。やがてグラズの未同期コアが仕掛けてくるであろう、「予兆のない不可避の暴力(クソゲー)」に、この人間どもを対応させることだ。


 俺の迷宮のように、親切に「見返せばわかる予兆」を探している暇など、グラズの兵器の中には存在しない。理不尽な死の気配を、視覚や聴覚ではなく、限られた情報で即座に退くか進むかを決める『判断反射』を養わせるしかないのだ。


「そのためには、致死判定の反復による極限の負荷(ストレス)を、貴様らの魂に直接刻み込む必要がある」


 俺が設計盤のルーンを弾くと、特殊区画へのゲートが重々しい音を立てて開いた。


 数千人の探索者たちが、怒号のような歓声を上げて一斉になだれ込んでいく。


「さあ、始めようか。過去の絶望を、もう一度味わえ」


 最初のギミックは、第一階層で黒瀬迅を苦しめた『毒沼+落下棘天井』の罠を、さらに狂悪にチューンアップしたものだ。


 以前は落下0.12秒前に噴出圧が変わるという明確な隙があった。だが今回は、そのラグを極限の『0.05秒』まで短縮している。


『うおおっ、いきなり落下トラップだ!』


『避けろ! タイミングを見極め――』


 ズバァァァンッ!


 彼らが予兆を探そうと足を止めた一瞬の隙に、0.05秒の死の猶予は無慈悲に過ぎ去り、先陣を切った数十人がまとめて毒沼と棘の餌食となった。


 光の粒子となって砕け散る探索者たち。入り口の帰還室に吐き出され、激しい帰還酔いと痛覚に呻く声が響く。


 だが、息つく暇など与えない。


「立て。予兆観測、情報共有、撤退の判断。過去にお前たちが数日かけて抜けた罠を、今は数秒で判断しろ。できなければ死ね」


 生き残った者たちの前に、間髪入れずに第二のギミックが展開される。


 今度は第三階層の『音波センサーと水面の連動罠』だ。ただし、視覚的な予兆である水面のエフェクトを極限まで薄くし、乱戦の最中ではほぼ視認できないレベルにまで難易度を引き上げている。


『音が鳴った瞬間に死ぬぞ! 足を止めろ!』


『ダメだ、後ろの奴が止まりきれない!』


 一人がバランスを崩して音を立てた瞬間、全方位から魔力レーザーが乱射され、一部屋にいた百人近くがまとめて致死判定を受けた。


 過去のギミックを、異常な速度と難易度でローテーションさせて叩き込む。


 俺は彼らを脱落させるつもりで、次々と殺意の雨を降らせた。休む間もなく続く死に戻りの連続。魂疲労のペナルティは急速に蓄積し、待機時間は二〇分から三〇分、一時間へと容赦なく延びていく。


 連続死の待機は20分、30分、60分、その先は180分、360分まで重くなる。180分へ乗った者は強制的に班から外され、四時間の無死亡休息で蓄積を落とす。誰を休ませ、誰を前へ出すか。その管理自体が訓練の一部だった。


「……なぜだ。なぜ、心が折れない?」


 俺は玉座の肘掛けを強く握りしめた。


 帰還室の床に転がる探索者たちは、激しい頭痛に呻きながらも、絶望の表情を浮かべてはいなかった。それどころか、死ぬたびに目を血走らせ、攻略の糸口を互いに叫び合っているのだ。


『今の毒沼、0.05秒のラグがあった! 視界じゃ追いつかねえ、足の裏の振動で合わせろ!』


『音波センサーの部屋、水面が見えなくても空気の揺れでレーザーの射線が読めるぞ!』


『次の連中は大盾持ちを先頭にして、0.05秒の間に壁を作れ!』


 彼らは死の経験を、ただの苦痛や理不尽への恨み言で終わらせなかった。


 俺の殺意を、グラズの未同期ダンジョンを生き抜くための「極上の実戦データ」として即座に咀嚼し、自分たちの血肉(プレイヤースキル)へと変換しているのだ。


「ならば、これならどうだ」


 俺はさらに難易度のギアを一段引き上げた。


 偽のUI(安全地帯を示すナビゲーション)と、本物の物理的な致死トラップを同時に乱射する複合エリア。


 視覚、聴覚、システム情報。全てが混線し、瞬時の情報の取捨選択を誤れば即死する極限の状況だ。


 かつてはこれらの罠を前にして疑心暗鬼に陥り、ただ喚き散らすだけだった群れが。今は違う。


『UIは無視しろ! 物理法則だけを信じろ!』


『前衛、風の魔法で空気抵抗を測れ! 隠し足場を見つけるんだ!』


 迅やレイナといったトップ層がいなくとも。彼らは瞬時に連携し、偽情報を切り捨てて、真の活路を見出し始めた。


 俺が繰り出す理不尽なまでの暴力のローテーションに、百人、二百人とまとまった群れが、確実に適応していく。


「……腹立たしいほどに、しぶとい連中だ」


 俺は、忌々しさと同時に、罠師としての奇妙な達成感を覚えていた。


 彼らは確実に、グラズの「三流のクソゲー」を粉砕するだけの強度を得つつある。俺の罠で死に続けることで、彼らの判断速度は、情報不足でも撤退と前進を即決できる水準へ近づいているのだ。


 ――そして、地獄の三日間(七十二時間)が終了した。


 特殊区画へのゲートが閉じられ、最終的な生存率の集計が行われる。


 帰還室では、数千人の探索者の大半が、魂疲労の限界を迎えて気絶するかのように眠り込んでいる。だが、最後まで立ち続けた精鋭たちの目には、本物の死を想定した模擬死線を三日間くぐり抜けた者だけが持つ、鋭く濁りのない光が宿っていた。


『マスターに報告。七十二時間の訓練終了。……参加者の行動ログを解析した結果、グラズの未同期ダンジョンを想定した生存予測確率が、訓練前の「三倍」に上昇しました』


 NAVIの報告に、俺は冷たく鼻を鳴らした。


「……まだ低い」


 三倍になったところで、グラズの本気の殲滅兵器の前では、まだ半数は犬死にするだろう。


「この程度で満足するな。この三日間はあくまで『β版』だ」


 俺は水晶の向こうで倒れ伏す人間たちに向けて、冷酷な笑みを刻んだ。


「俺が本番(最終シーズン)で用意する地獄は、こんなものではないぞ」


 俺の仕掛けた訓練で強度を上げた探索者たち。そして、彼らをさらに過酷な死の淵へと突き落とすための準備を進める俺。


 俺は次の訓練用ルーンを開いた。


 三日で足りないなら、次は世界規模でやる。グラズが来るまで、一匹たりとも休ませる気はなかった。

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