第37話 人類防衛? 素材契約だ
未同期コアを破壊して戻るなり、行政から通信が入った。
『神運営殿。人類防衛への正式な協力を――』
「断る」
俺は即答した。
「俺は守護者ではない。俺の獲物を、グラズの退屈な兵器に横取りされたくないだけだ」
画面の向こうが一瞬、静まった。
その中で一人だけ、拍手も感涙もしていない女がいた。
安全監査官・柏木。
彼女は資料から目を上げ、真顔で言った。
『……この方、本当に我々を救う気はないのでは?』
「やっと話の通じる人間がいたか」
俺は身を乗り出した。
「そうだ。俺は――」
『意図は契約条件に含まれません』
上席の長官が即座に遮った。
『救済意思がなくても、未同期コアを壊す行動が一致するなら十分です』
柏木だけが露骨に眉をひそめた。
『ですが、この人は明確に「人類を絶望させる」と――』
『正規同期迷宮では成人登録、入場同意、魂アンカー、安全基準を守っている。未同期コアには敵対している。現時点で確認すべきは行動です』
「…………」
分かっている人間がいるのに、組織の都合で正しい理解が処理されていく。
これはこれで腹立たしい。
『では、契約としてお願いします』
長官が続けた。
『対未同期コア装置、世界規模の干渉網、その試験区画。必要な希少素材を国家備蓄から最優先で回します』
「……素材?」
指が止まった。
神話級魔石。高伝導霊布。世界層へ干渉できる触媒。
グラズの未同期コアを地球の裏側から上書きするなら、桁違いの資材が要る。
「条件は三つだ」
俺は指を立てた。
「未同期コア対処の現場判断は俺に寄越せ。正規同期迷宮の内部設計へ口を挟むな。必要素材は備蓄と調達能力の範囲で最優先供給。数量と用途はNAVIが監査する」
『承知しました』
柏木だけが最後まで俺を疑う目で見ていた。
その視線は不快だが、他の連中よりはまともだった。
通信を切る直前、俺は柏木へ言った。
「安心しろ。貴様の疑いは正しい」
『……そういうことを言うから余計に怖いんです』
「なら恐怖を忘れるな。死地では役に立つ」
通信を切る。
世界地図には、未同期コアと同系統の反応が複数浮かんでいた。
俺一人で全てへ走るのは非効率だ。
しかも探索者たちは、予兆を読むことには長けたが、予兆そのものを消すグラズの兵器にはまだ弱い。
「なら、耐性を付ける」
『どのような試験を?』
「全世界の探索者へ告知しろ。七十二時間限定、『地獄訓練β』を開く」
俺は新しい区画の設計図を引いた。
「対象は成人登録探索者。魂疲労の上限管理を強制。180分ロックへ入った者は即休養。四時間の無死亡休息を取るまで再参加不可」
『了解』
「死ぬ順番まで管理できない奴は、本当の死地へ出す価値がない」
俺の目的は人類防衛ではない。
俺の獲物を、俺よりつまらない罠で死なせないための品質管理だ。
その説明を聞いた地球側は、案の定こう広報した。
【神運営監修・全世界向け生存訓練、開始】
「勝手に名前を付けるな!」




