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人類を絶望させたい元魔王軍の罠師、殺意100%のダンジョンを作ったのに死にゲー狂いから「神運営」と崇められる  作者: 他力本願寺


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第27話 歓声の下で、存在しない扉が開く

第三階層の世界初攻略から数日。


 俺の迷宮は、かつてないほどの熱狂と喧騒に包まれていた。


 黒瀬迅、天城レイナ、鬼塚豪といった上位探索者たちの活躍により、このダンジョンは完全に地球社会のエンターテインメントの中心として定着した。彼らを確実に殺すための次なる地獄――『第四階層(個別最適化階層)』の解放を目前に控え、地球側では行政や巨大企業が協賛する公式攻略大会『World First Cup』の開催が宣言されたのだ。


 監視水晶越しに見下ろす、ダンジョン入り口の広場。


 そこは、これから死地へ向かう場所とは到底思えないほどの賑わいを見せていた。


 大会へのエントリーを済ませて意気込む探索者たちの群れ。彼らを一目見ようと詰めかけた数万の観客たち。広場の外周にはカラフルなテントの露店が立ち並び、上空には世界中にこの熱気を届けるための無数の配信ドローンが飛び交っている。


「……死地を遊技場と勘違いした愚者どもめ」


 俺は玉座で設計盤をなぞりながら、冷ややかに吐き捨てた。


 俺が今、盤面で構築しているのは、彼ら個人の「癖」を徹底的にメタに回り、一切の慈悲なく処刑するためのギミック群だ。あの祝祭の熱狂を、絶望の悲鳴に反転させてやるのが罠師としての俺の使命である。


 だが。


 その祭りの熱騒の只中で、突如として『それ』は起こった。


『おっ、なんだあれ?』


『運営のサプライズイベントか?』


 広場に集まっていた探索者の一人が指差した先。


 入り口広場の片隅にある、何もないただの石壁。その表面の空間が、水面に石を投げ込んだように不自然に歪んだ。


 そして次の瞬間。


 空間の歪みから押し出されるようにして、重苦しい赤黒い魔力を放つ『真っ黒な扉』が、一秒間だけ完全に実体化したのだ。


 それはシステムのエラーやホログラムのバグではない。その扉は確かにそこに存在し、分厚い鉄の質感を持ち、周囲の空気を冷たく沈み込ませていた。


 居合わせた数万人の群衆の肉眼、飛び交う数百機の配信ドローンのレンズ、そして探索者たちが手にしていた端末のカメラ。そのすべてに、異界の不純物である『存在しない扉』がありありと記録された。


 ――ジジッ。


 瞬きする間ほどの時間。扉はノイズのようにブレると、再び空間の歪みの中へと掻き消えてしまった。


 直後、広場は爆発的な騒ぎに包まれた。


『おい、今の見たか!?』


『黒い扉があったぞ! 隠しルートの入り口か!?』


『大会用の特別イベントじゃねえの!? さすが神運営、演出がニクいぜ!』


 彼らはそれを、神運営が用意した新たなギミックの予告だと勘違いし、さらに熱狂のボルテージを引き上げていく。


 だが。玉座に座る俺の認識は、彼らのような暢気なものではなかった。


「……NAVI!!」


 俺は血相を変えて玉座から立ち上がり、目前の設計盤を乱暴に叩いた。


 広場で扉が実体化したその一秒間。監視室の空間には、これまで聞いたことのない耳障りな警報音が鳴り響いていたのだ。


『マスター。広場の座標X72、Y104にて、当ダンジョンに対する不正なアクセスを検知しました』


 NAVIの無機質な音声が、緊迫したトーンで報告を上げる。


『「存在しない同期先」から、当コアのネットワークに対して強引な接続要求が発生。空間を物理的に歪め、強行突破を試みた模様です』


「弾け! 外部からの干渉など一切許すな!」


 俺は自らの魔力をコアに直接叩き込み、分厚い防壁を展開してその見えない接続要求を完全にシャットアウトした。


 扉が消え去ったのは、俺が物理的な魔力で弾き落としたからだ。


 だが、その弾いた瞬間に指先に伝わってきた手応えに、俺は背筋が凍るような戦慄を覚えていた。


「……なんだ、今の感触は」


 俺の迷宮のファイアウォールをこじ開けようとしたそれは、地球の未熟なプログラムコードなどでは断じてなかった。


 かつて俺自身が魔界の深淵で扱っていた、極めて暴力的で、それでいて緻密に編み込まれた『魔界の術式』の感触そのものだったのだ。


「NAVI。先ほどの接続要求の魔力波形を、過去の全ての異常ログと照合しろ」


 俺の声は、自分でも驚くほど冷たく沈んでいた。


 脳裏に、これまでの不可解な出来事がパズルのピースのように繋がり始めていた。


『了解しました。過去のログの全走査を開始します』


 空中に展開された巨大なウィンドウに、複雑な波形グラフが次々と表示されては消えていく。


『照合対象その一。隣県の粗製コアの最深部に残されていた、魔界式ノイズ』


『照合対象その二。ヘリックス社の企業AI「MAX」の学習領域から検出された、魔界式コード片』


『照合対象その三。チートツールの演算核から検知された、異常信号』


 これまでは、データの汚染だの、三流の作ったバグだのといった「偶然の事故」として処理してきた痕跡たち。


 それらの波形と、先ほど黒い扉を実体化させた強烈な接続波形が、ウィンドウの中央でゆっくりと重なり合っていく。


『――照合完了』


 NAVIの声が、無慈悲な真実を告げた。


『過去三件のノイズと今回の接続要求の波形は、類似率92%を記録しました』


「…………」


 92パーセント。


 もはや、偶然のバグやエラーで片付けられる数値ではない。


『事故やデータの汚染というこれまでの仮説を完全に棄却します。これは、単一の意思を持った外部の存在が、当システムへ継続して干渉を試みている、明確で能動的な痕跡(アクセス)であると確定しました』


 玉座の間が、重い静寂に包まれた。


 俺は設計盤から手を離し、ゆっくりと自らの額を押さえた。


 間違いない。バグでもエラーでもない。


「誰かが……泥水の中から、ずっとこちらを見ている」


 最初の粗製コアの頃から、チートツールという不純物に紛れ込ませてまで、俺の迷宮を、そしてここに集まる人間たちを監視し続けていた存在。


 俺の芸術の隙を窺い、機が熟したと見るや、黒い扉を実体化させるという強行手段に出てきた。


 地球の技術ではない。俺と同じ魔界の術式を操る存在。その正体に、俺はうっすらと見当がついていた。


「……面白い」


 俺の口角が、凶悪に吊り上がる。


 未知の脅威を前にしても、俺の罠師としてのプライドが萎縮することはなかった。むしろ、俺の盤面に手を出そうとする不遜な輩がいるという事実が、俺の殺意の炎に新たな油を注いでいた。


「NAVI。黒い扉が出た座標だけ即時封鎖。観客を半径百メートルから退避させ、魂アンカー回線を二重化しろ」


『了解。該当区画を隔離します。大会全体への影響は局所化可能です』


「なら大会は続行だ。得体の知れない奴に俺の盤面を潰されてたまるか」


 俺は戦闘外套の襟を正し、冷酷な目で水晶を睨みつけた。


「裏で追跡プロトコルを回し続けろ。次に覗き込んできた時は、今度はこちらから接続元を掴む」


 World First Cupという最高の舞台。


 それは、死にゲー狂いの攻略者たちを処刑する祭壇であると同時に、影から俺の盤面を狙う『招かれざる客』を迎え撃つための、絶好の狩り場へと変貌しようとしていた。

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