第20話 百人必要――選抜戦
「次段階、百人」
第二階層の最奥へ刻んだ条件は、攻略界隈を一晩で沸騰させた。
だが、ただ強者を百人並べても意味はない。
俺が欲しいのは、百人が互いの判断を食い合い、連鎖的に崩壊する光景だ。
そこで第三階層の手前に、百人レイド参加枠を争う『選抜戦フィールド』を構築した。
ルールは単純。
広範囲ギミックを生き延び、解除・救援・解析・指揮などの貢献を積み上げた上位百名だけが本番へ進める。
個人火力だけでは点が伸びない。
「さて。腕自慢どもが、他人の足まで見られるか」
開幕。
黒瀬迅は誰より早く射線を読む。
天城レイナは砲台を誰より早く壊す。
だが、二人の正解は速すぎた。
『迅のルート、俺らじゃ追えねえ!』
『レイナが砲台壊した余波で後ろの足場が落ちた!』
上位者が前へ出るほど、後続が死ぬ。
俺の狙いどおり、群れは崩れ始めた。
『全員、止まれえええっ!』
その混乱を、一声で叩き潰した男がいた。
鬼塚豪。
奴は最前列へ出ると、レーザーを大盾で受けた。
『俺の防御指数500でも三秒! 三秒後は盾が焼ける! 足の遅い奴から左の岩陰へ!』
HPが赤く染まる直前、豪は一歩退いた。
『救援班、前! 俺は死なねえ。死んだら二十分、ここで指示が飛ばせなくなるからな!』
「……ほう」
以前なら、検証のため平然と死んでいた男が、今は自分の生存時間まで部隊の資源として扱っている。
『迅! 最速ルートじゃなく、全員が通れるルートをくれ!』
『了解。右へ二メートル修正!』
『レイナ! 砲台は壊すな、向きだけ逸らせ! 後ろの足場を残せ!』
『はいはい、リーダー!』
豪は部隊を四つに割った。
前衛。解除。救援。情報。
さらに、致死判定を受けた者には、帰還室から配信ミラーを通じてログ整理をさせる。
『死んだ奴は再同期が明けるまで外から情報班! 戻れる奴だけ戻れ! 180分ロックまで行ったら今日は終わりだ!』
死亡順まで、最初から管理するつもりらしい。
俺は次の波を叩き込んだ。
流砂。対角レーザー。崩れる足場。
豪は大盾を地面へ突き立て、自分のHPを目盛り代わりに安全限界を測る。
『二秒半! ここは二秒半で撤退!』
後衛が抜ける。
豪も最後に盾を引き、紙一重で退く。
「肉壁ではなく、群れの脳になったか」
俺は水晶へ身を乗り出した。
迅は解析を豪へ渡し、レイナは突破力を豪の号令に合わせる。
百人近い野良の挑戦者が、徐々に一個の生物へ変わっていく。
最終防衛線。
城壁型の魔力砲台が起動する。
豪は残ったHPを見て、一瞬だけ笑った。
『ここは俺が死ぬ順番だ』
「なに?」
『全員、俺が落ちたら三秒だけ砲身が固定される! 迅、その三秒で指示! レイナ、核まで行け!』
巨大レーザーを真正面から受ける。
盾が割れ、豪の身体が光へ砕けた。
致死判定。
だが、同時に砲台の照準が固定される。
『右三十五度!』
迅が叫ぶ。
『もらった!』
レイナが射線の外を走り、核を両断した。
城壁が崩れる。
豪は帰還室へ吐き出され、再同期20分の表示の前で四つん這いになっていた。
それでも配信端末だけは離さない。
『聞こえるか! 次の班、さっきの三秒は再現できる! 俺抜きで行け!』
フィールドの外から、なお指揮を続ける。
コメント欄が爆発した。
『豪ニキ、死んでもレイドリーダーしてる』
『タンクの仕事、ダメージ受けることじゃなく全員を生かすことなんだな』
『迅とレイナが完全に豪の指揮で動いてるの熱い』
やがて最後のギミックが沈黙した。
上空に『CLEAR』が浮かぶ。
『マスター。規定スコア上位百名を確定しました』
合格者一覧の上位に、迅、レイナ、そして――最後の一死まで含め、全体生存へ最大寄与した豪の名があった。
「…………」
俺は背もたれへ沈む。
個人の強さを測るつもりだった選抜戦で、人間どもは本番レイドの指揮系統まで完成させやがった。
腹立たしい。
だが、ただの烏合の衆を百人殺すより面白い。
「いいだろう。完全に統率された百人なら、壊し甲斐がある」
俺は設計盤へ両手を置く。
「次は選抜ではない。本番だ。貴様らの連携ごと、巨大な理不尽で叩き潰してやる」




