第19話 一人では絶対にクリアできない
百人レイドの本番を組む前に、俺は二十人だけを試作区画へ放り込んだ。
今回、欲しいのは情報共有ではない。
情報なら、こいつらは配信とコメントでいくらでも繋ぐ。
ならば――身体そのものを、他人へ預けなければ進めない盤面にすればいい。
試作区画の中央には、巨大な円形扉がある。
扉を開けるための四つの圧力盤は、部屋の四隅。
一つでも荷重が抜ければ扉は閉じる。
さらに扉の向こうでは、解除役が十秒間、両手を装置へ固定しなければならない。
四人は動けない。
解除役も動けない。
残り十五人だけで、移動する刃、毒霧、落下足場を処理しながら全員を守る。
誰か一人が『自分だけ先へ行く』を選べば、その瞬間に全員が詰む。
「速い者ほど、遅い者を邪魔だと思う。さて、どこで捨てる?」
開始直後、俺の予想は半分だけ当たった。
迅は速すぎた。
レイナは強すぎた。
二人が自分の最適解で進むほど、後ろがついてこられない。
『待って、前だけ抜けても盤面が開かない!』
声を上げたのは、上位ランカーではなかった。
以前、悪質クランの囮にされながら自分の眼で罠を見始めた若い探索者――真壁遼だった。
真壁は圧力盤へ残り、足を震わせながら叫ぶ。
『俺はここ押さえます! 足の速い人は先じゃなくて、往復して遅い人を運んでください!』
「……ほう」
迅が立ち止まった。
最短ルートを捨て、後ろへ戻る。
『聞いたな! 最速組は運搬役! 自分が速いほど往復しろ!』
レイナも舌打ちし、目の前の砲台を壊すのをやめた。
『壊したら破片で圧力盤の人が死ぬ。じゃ、向きだけ変える!』
双剣で砲身を叩き、射線だけを逸らす。
豪は最初から最後尾にいた。
『走れない奴、盾の裏に入れ! 置いていく方が遅くなるぞ!』
俺の罠は、個人の強さを使えば使うほど、他人へその強さを貸さなければ進めない構造だった。
迅は速度を捨てない。速度の用途を変えた。
レイナは破壊力を捨てない。破壊ではなく制御へ使った。
豪は耐久力を、自分が生き残るためではなく、列全体の移動速度へ変えた。
最終盤。
四つの圧力盤へ人が固定され、解除役が両手を装置へ差し込む。
残る十五人の前へ、左右から巨大な壁が迫った。
『あと十秒!』
『持たねえ!』
豪が壁へ盾を当てる。
だが一人では押し負ける。
真壁が圧力盤の上から叫んだ。
『押すんじゃなくて、斜めに流してください! 壁のレール、右だけ一段浅い!』
迅が一瞬で床を見る。
『本当だ。豪、右へ三度! レイナ、左のレール削れ!』
『了解!』
壁の力を真正面から受けず、互い違いに滑らせる。
二枚の壁が中央で噛み合い、止まった。
ゴォォン。
円形扉が開く。
二十人全員が、生きたまま向こう側へ転がり込んだ。
「…………」
誰も捨てなかった。
それどころか、強者ほど自分の得意を『他人が生き残るための部品』へ変えた。
俺は一つだけ理解した。
百人を集めるだけでは足りない。
個人の技量ではなく、『誰をどこへ置くか』を考えられる指揮官が要る。
最奥の壁へ、次の条件を刻む。
【次段階:100人】
【参加枠:選抜制】
『うおおおおおっ!』
二十人の歓声が上がる。
「喜ぶな」
俺は設計盤へ百個の侵入者マーカーを並べた。
「次は人数が五倍だ。今度こそ、判断の遅れ一つで群れごと崩れる」
そして俺は、選抜戦の採点項目から『個人撃破数』の比重を落とした。
代わりに追加したのは、救援、撤退判断、情報整理、指揮。
俺自身が、人間どもの『群れ方』を評価し始めていることには――気づかないふりをした。




