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第1話 だが、今の「彼」は馬肉を

 本編の始まりになります。

 そんなことを2人が想い起こした後、まずは土方鈴が、「彼」に声を掛けた。

「貴方は、今でも馬肉料理が好き?」


「うん、食べないことはない程度かな。勿論、前世の記憶が僕にもあるから、それなりの想いが、前世の故郷の会津との絡みから馬肉料理にはあるけど、是非とも食べたい、とまでは自分は想わないな」

「そうなの」

「彼」の答えに対して、鈴は少し残念そうな顔をして言った。


 鈴は、自らの前世の記憶を想い起こしていた。

 確かに自分の記憶でも、明治、大正の頃から会津では馬肉を食べてはいたが。

 一部の人からすれば、戊辰戦争を想い起こすことに繋がっていて、好まない人もいたのだ。


 何しろ戊辰戦争で戦禍を実際に被った経験者が、自分の祖父母の世代や両親の世代を占めている。

 そういった戦禍の経験者の一部からは、馬肉料理は戊辰戦争を思い起こさせるとして、余り好まれないのも当然のことだった。

 

 更に言えば、自分の前世の篠田りつの家、篠田家にしても、「彼」の前世の野村雄の家、野村家にしてもれっきとした会津士族で、士中隊の一員として戊辰戦争、会津若松城で当主や家族が戦った家だった。

 そうしたことから、自分も、そして、雄も、あの頃は親達への遠慮もあって、馬肉料理を余り食べていなかったのだ。


「どうかしたの?」

「ううん、気にしないで」

「彼」の問いかけに、鈴は少し誤魔化して、その場を去った。


 それを見かけたジャンヌ・ダヴ―は、それとなく鈴を追い掛けて、物陰で二人きりになった後で、話し合うことになった。


「単刀直入に聞かせて貰うけど、ひょっとして、貴方の赴いた世界では、雄は馬肉料理が好きだったの」

「そうよ。唯、私も記憶を微妙に間違えていたみたい。雄が馬肉料理を好んで食べるようになったのは、第二次世界大戦後の話で、それ以前は余り好んで食べてはいなかったわ」

 ジャンヌの問いかけに、鈴は答えた。


「それが、どういう理由で、好むようになったの」

「私の赴いた世界では、娘の千恵子が戦死したからよ」

 ジャンヌの問いかけに、鈴は表情を曇らせて言い、ジャンヌは尋ねたことを後悔した。


 ジャンヌは想いだしていた。

 そうだった。

 鈴が赴いた異世界、異なった歴史が流れた世界では、雄と鈴ではなかったりつが結ばれたのだが。

 結果的に千恵子を始めとする子ども全てが両親に先立って、雄とりつは孤独な最期を迎えたのだ。


 ジャンヌの想いを半ば無視して、鈴は語った。

「私が赴いた世界でも、第二次世界大戦に日本は勝利したわ。でも、私達夫婦は、子どもを全て戦死させる等、幸せとは言えなかった。そうした中で、雄は馬肉料理を好むようになったの。馬肉料理は、戦争のことを色々と想いださせると言って」

「そうなんだ」

 ジャンヌは、何とかそれだけを言った。


 ジャンヌは、その言葉を聞いて、かつてというか、異なる歴史が流れた世界に赴いた自分が、雄の想いを実は理解していなかったのでは、と想わざるを得なかった。


 異なる歴史が流れた世界で、彼、雄は積極的に、私の作った馬肉料理を好んで食べていた。


「確かに馬肉は美味しい、という人がいるけど、安いというのが大きいの。馬肉で本当に良いの」

「良いよ。僕にとって、馬肉は戦争の味、そして、日本を想いださせる肉の味なんだ」

 私が尋ねると、彼はそう何時も答えていたが。


 そんなことをジャンヌが考えていると、鈴は想わぬ誘いを、ジャンヌにした。

「ねえ。一緒に雄の故郷の会津に、馬肉料理を二人で食べに行かない」


「良いの」

 ジャンヌは想わず問い返した。

 鈴は自分の恋敵の一人で、鈴もそう考えている筈だが。


「ちょっと、二人で馬肉料理のこと、雄のことをもっと話し合わない」

 鈴はジャンヌを更に誘ってきた。

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― 新着の感想 ―
 馬肉食文化の地で生まれ育ったとは言え馬肉に対して直球で「好物」なスタンスではなさそうな「彼」(´・ω・`)そんな「彼」の好物と言う前提で幾度もの前世を共にしたジャンヌさんには「青天の霹靂」ですわな、…
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