第21話 会津から還って来た二人の妻が夫の為に作った馬肉料理
会津から還って来た後、土方鈴は実家の土方伯爵家と連絡を取って、土方伯爵家で作られ続けてきた自家製の味噌を入手した。
土方伯爵家の自家製味噌は、鈴からすれば曾祖母、鈴の前世の篠田りつからすれば娘の土方千恵子が、土方家に伝えた味噌でアリ、伝統的な会津味噌の味を伝えている味噌だった。
此れは鈴の前世のりつが、会津の味噌作り店で働いた経験があり、その際に結果的に様々な技法を、見様見真似で覚えたことから生じたことだった。
そして、りつは娘の千恵子に、会津味噌の製造法を伝えることになり、そして、千恵子が結果的に土方伯爵家にそれを家伝の味噌として受け継がせたことから、鈴は土方伯爵家に自家製味噌を送らせる事態が起きることになったのだ。
「うん、この味」
鈴は、土方伯爵家から送られてきた自家製味噌自体を味わった瞬間、それ以上の言葉が出なかった。
今となっては塩分が多過ぎ、と言われそうな味だ。
だが、前世の記憶がある自分にしてみれば、この味こそが伝統の会津味噌の味だ。
ちょっと邪道かもしれないが、この味噌があれば、私の思い通りの料理が出来る。
鈴はそう判断して、新鮮な馬肉を会津から手に入れて、馬肉料理を作ることにした。
ちなみに、鈴が作ったのは馬肉の味噌漬けだった。
鈴にしてみれば、「彼」に前世を思い出させるのに、最適の馬肉料理だった。
一方、ジャンヌも馬肉料理を作ることを決意して、試行錯誤した。
だが、ジャンヌは鈴と違う方法を採ることにした。
煮たり焼いたりという馬肉料理では、鈴に恐らく自分は勝てない。
だから、敢えて生肉、馬刺しを「彼」に食べさせることにする。
会津の馬肉は、赤身が多い馬肉だったが、私としては、フランスに多い脂肪、サシがそれなりに入った馬肉が好みだ。
流石にフランスから今更、そういった馬肉を航空便で手に入れる訳には行かないだろうが、私の知識からすれば、重輓馬の馬肉は脂肪、サシがそれなりに入ったモノの筈だ。
恐らくだが、会津では日本馬の血統等から、ポニー等の赤身の馬肉が好まれてきたのだろう。
ジャンヌは日本の馬肉の産地を調べ、それなりの馬肉の入手に努めた。
そして、ジャンヌなりに奮闘して探した結果、
「この馬肉ならば」
ジャンヌなりに満足できる重輓馬の馬肉を入手することに成功して、ジャンヌは、馬肉のタルタルステーキを調理して、彼に食べさせることになった。
「ちょっと馬肉料理を試作したのだけど、味見してくれない」
「いいとも」
まずは鈴が、馬肉の味噌漬けを「彼」に食べさせることになった。
「これは」
「想い出してくれた。伝統的な会津味噌を使って作った馬肉の味噌漬けを焼いてみたの」
「香ばしくて、遠い昔(野村雄と篠田りつが会津に居た頃)を想い出させる味だね」
「そうね」
二人の間に、それ以上の言葉は皆無だった。
「彼」は無言で想った。
この味噌の香りを、欧州の戦場に赴いて、ずっと自分は偲んでいた。
無事に日本に帰国出来たら、生まれ故郷の会津味噌で日本の米を山程、食べたいものだと。
前世では、その夢は叶うことなく、ヴェルダンの地で自分は戦死することになった。
今、その夢が少し叶った気がする。
「それではね」
鈴にしても、実際に「彼」に食べさせてみると、それ以上の言葉が出ず、それだけを言って、「彼」の前を去った。
そして、ジャンヌだが。
「フランスの馬肉料理の一つなの。会津では、馬肉を生では食べないようだけど、試食してくれない」
ジャンヌは、そう言って、「彼」にタルタルステーキを勧めた。
「これは僕は初めて食べる味だね。馬肉としては脂が多い気がして僕は好みだ」
「気に入ってくれて良かった」
ジャンヌと「彼」は、和やかなやり取りをした。
これで、本編を終えて、明日の午前、午後と「彼」視点のエピローグを2話投稿して完結します。
(尚、最初はジャンヌが重輓馬の馬肉を手に入れる為に奔走する話を、1話入れる予定でしたが、本題の「旅」から余りにも離れすぎる気がして、省略しました)
御感想等をお待ちしています。




