第17話 二人で宿の一夜を過ごして―3
そんな風にジャンヌ・ダヴ―が考える一方、土方鈴も考えていた。
最初の人生では、雄は戦死した。
そして、野村家は離散してしまい、会津に居づらくなった私と家族は東京周辺に赴いたのだ。
幸いなことに野村家から渡された千恵子の為のお金、それに雄の遺産の一部を千恵子が受け取ったことから、篠田家の財政は立ち直り、それなりの資産が持てることになった。
又、私の兄が独立相場師として徐々に身を立てた一方、子どもが居なかったことから、千恵子は兄から実の娘のように可愛がられて、千恵子の教育費等を兄は悦んで出す有様だったことから。
千恵子は裕福な家庭の娘として育ち、更に、異母弟である岸総司を介して、土方勇と知り合って、土方伯爵家に嫁ぐことになったのだ。
とはいえ、これは一騒動の末だった。
千恵子は(差別と言われるが)庶子だったからだ。
将来の伯爵夫人が、庶子というのは、と一部の人は難癖を付けてきた。
それで、私と雄は一時は婚約していた、つまり内縁関係の間で産まれた娘だ、という言い訳をした上で、千恵子は土方伯爵家に嫁いだのだ。
(尚、このてん末に最初の人生での岸忠子は激怒した。
この言い訳を受け入れては、自分が掠奪婚をしたのを認めることになるからだ。
更に、息子の岸総司が、千恵子姉さんが幸せになるのだから、昔のこと等は言わなくとも、と忠子に言ったことから、忠子は益々意固地になる事態が起きた。
お互いに生まれ変わってきた今でも、私と澪は犬猿の仲だが、その最大の原因は未だにこの件なのだ)
そして、千恵子が嫁いだ後、篠田家は裕福な元士族出身ということから、土方伯爵家とそれなりの家同士のお付き合いをすることになったのだ。
鈴は、更に考えを進めた。
異世界に赴いた際だが、私は冷酷な決断を下さざるを得なかった。
両親を説得して、兄を廃嫡して、篠田家から追い出し、雄を篠田家の娘婿として迎えさせたのだ。
野村家の資産が手に入らねば、兄の借金が整理できない以上、兄と絶縁して、雄と結婚するのが、あの時の私にとっては最適解、と自分なりに考えたのだ。
だが、それは兄を追い込んで綱渡り生活をさせることになった。
そして、綱渡りに失敗した兄は、詐欺師として告発されてしまい、刑事裁判の結果、刑務所生活を送る事態になった。
更には当時の日本の刑務所事情から、兄はろくな治療も受けられず、刑務所内で病気で若死にしたのだ。
まさか、自分の行動が兄を死に追いやるとは、私は呆然とするしか無かった。
だが、その一方で、この異世界では、それで野村家とは家族ぐるみの付き合いが続いたといえた。
よく言えば相場師だが、悪く言えば博打打ち、と言われても仕方が無かったのが兄の商売、仕事だ。
元士族として、相場とは無縁と言って良い生活をしてきた野村家にしてみれば、私の兄は博打狂いの生活をしていると言って良く、それもあって、雄と私との結婚に反対していたのだが。
兄を廃嫡して、雄を婿養子にするという篠田家の決断は、そこまでされるのならば、悦んで雄を婿養子として送り出し、篠田家とは家ぐるみのお付き合いを続けたい、と野村家の面々に考えさせたのだ。
そうしたことから、野村家と私の篠田家とは家ぐるみの付き合いが、ずっと続くことになった。
第二次世界大戦で、私が産んだ子全てが亡くなった後、もしもの時、雄が私に先立ったときは、雄の甥姪が口を揃えて、私を実の叔母同様に面倒を看る、後見人にもなる、という程の関係を、野村家と篠田家は築けたのだ。
こうした家同士の関係を、ジャンヌは野村家とは決して築けなかっただろう。
鈴は想わずそこまで家同士の関係について、自分でも先走り過ぎと考えつつも、考えてしまった。
少し話中の事情の補足説明を。
異世界で鈴の前世の篠田りつの兄が、詐欺師になり、刑務所で病死したてん末ですが。
この辺りは、現実世界でもあり得ることなのです。
返すつもりで借りたお金を返せなくなり、最初から返すつもりは無いのにお金を借りた、詐欺師の所業だ、と債権者、貸し手が騒ぐ例は、現実世界でもよくあることではないでしょうか?
そんな感じで、りつの兄は金を返せなかったことから、詐欺師として債権者に告発されて、刑事裁判で弁明が認められずに、詐欺罪で有罪となり、刑務所で病死したのです。
りつの兄にしてみれば、酷い冤罪にも程があることでした。
そして、りつの生まれ変わりの鈴は、兄の死を悔やむことになったのです。
御感想等をお待ちしています。




