第16話 二人で宿の一夜を過ごして―2
思わず考え込み、暫く黙ってしまった土方鈴に対して、ジャンヌ・ダヴ―が声を掛けてきた。
「何か思い出したくないことでも、思い出されたのですか」
「ええ。あの頃は若かったな、と改めて想って。子どもを持って、育てたから分かったな、と」
「何をです」
「いえ、結婚ってどうのこうの言っても、お互いの家のつながりってあるじゃない」
「そう言われれば、そうですね。でも、私自身は余り感じたことはないですね」
「そうなの」
「ええ、私はある意味、天涯孤独の身でしたから。それに雄と結ばれた世界では、雄も天涯孤独と言っても良い身でしたし。勿論、子どもの結婚で、向こうの家とつながりが出来ることもありましたが、私からすれば遠い存在でしたし」
「そうか、考えてみれば、ジャンヌは、そういう身だったわね」
二人は、やや長いやり取りをした後、少なからずの物思いに暫く沈んだ。
ジャンヌは、改めて想った。
最初の人生では、私は10歳前後で長兄以外の両親兄弟姉妹を全て失った。
本当は父方なり、母方なりの伯叔父母がいたのかもしれないが、私は全く覚えていない。
伯叔父母にしても、それこそ貧乏暮らしの甥姪等、完全に厄介者だったのだろう。
それに長兄が成人しているという事情もあるのだ。
伯叔父母にしてみれば、長兄が成人している以上、兄妹で自活できるだろう、とも考えたのだろう。
そして、こんな小姑付きの長兄と結婚してくれる女性がいないままで、長兄はマルヌで戦死した。
18歳になっていた私は街娼に身を持ち崩して、益々親族とは疎遠になった。
(現代風に言えば、大手暴力団がバックに居る風俗営業の企業舎弟の一員に、私はなったのだ。
仮に親族がいても、そう言った背景がある私に、親族が関わりを持ちたがる訳が無かった)
そして、雄と知り合った末、私は足抜けしてシングルマザーとなって、アランを産み育てた。
文字通りの母一人、子一人の家族だった。
更にアランは成長した後、結婚を2回したが、何れも訳アリだったのだ。
アランの最初の結婚相手は、スペイン内戦で戦死した上官の妻だった。
私の記憶に間違いなければ、上官夫妻は駆け落ち婚をしており、その為に親から義絶されていた。
それで、上官の妻はアランを頼ることになり、アランは絆されてしまって、彼女と結婚したのだ。
ともかく、そうしたことからアランの先妻の実家との交流は無かったのだ。
アランの再婚相手も訳アリだった。
本人の主張を信じれば、スペイン内戦の混乱期に記憶喪失状態の処を保護されて、生きる為に娼婦として生活していた。
記憶喪失前のことは全く思い出せないとのことだった。
初婚前のアランが客として来て、彼女は惚れてしまい、アランの子を密かに妊娠したのだ。
幸いなことにスペイン内戦終結直後の混乱と、それを知ったアランが一括して養育費を渡したことから、彼女は娼館を手に入れて、更にユニオンコルスとも繋がって、それなりの娼館経営者になった。
それで、彼女はアランの娘を育てたのだが。
成長した娘が、アランの先妻の連れ子と知り合い、結婚すると言いだしたことから、アランは彼女と再会する事態が起きた。
そして、アランの先妻が病死したことから、アランと彼女は再婚したのだが。
ともかく、そうした事情から、アランの後妻にも実家は無く、交流は無かったのだ。
ジャンヌは改めて考えた。
異世界では、雄と私は結婚できたけど、雄は実家と義絶している有様だった。
そうした人生経験から、私は本当に結婚とは当事者同士で、向こうの家との交流等は無くて当然と考えていたけど、自分なりに考えてみれば、本当に偶々生じたことだったのだ。
むしろ、鈴のように向こうの家と交流があるのが当然か。
この話の中に出て来るアラン、ジャンヌ・ダヴ―の息子アランの結婚事情等については、
「サムライ―日本海兵隊史」(外伝)シリーズの一作、
「西サハラからの風に誘われて」
で描いた通りです。
アランは生涯で2回の結婚をしましたが、共に妻の実家は無いも同然でした。
更に異世界では初婚のみで再婚しませんでしたが、初婚の相手は史実(?)と同一でした。
そうした人生経験の違いから、鈴と違って、ジャンヌは結婚後の配偶者の実家との関係を極めて軽く見ているのです。
御感想等をお待ちしています。




