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第15話 二人で宿の一夜を過ごして―1

 予め旅館には、土方鈴が携帯電話で到着が遅く成る旨、何故にこうなってしまったのか(要するにジャンヌ・ダヴ―が複数のトラブル(?)に巻き込まれた為という)の事情等を説明してはいたのだが。


 結果的に旅館にチェックインするのは、夜の10時前ギリギリという事態になり、鈴とジャンヌは旅館の帳場で、遅くなって本当にすみません、と従業員に頭を下げながら、手続きをすることになった。

(本来ならば、夕方4時には旅館に着いて、荷物を置いた上で、夕食に二人で出かける予定だったのだ)


 二人が宿にしたのは、伝統的な日本旅館(とはいえ、日本旅館ならば、夕食も朝食も共に出ることが多いが、この旅館は現実のビジネスホテル等ではよくあるように、朝食は出るものの、夕食は出ない旅館だった)であり、風呂は部屋には無く、荷物を部屋に置いた上で、二人は旅館の大風呂に少し慌てて赴いて入浴することにならざるを得なかった。


 旅館にしても、天然の源泉かけ流し等では無い以上、それなり以上の費用が大風呂には掛かる。

 そうしたことから、結果的にだが、大風呂への夕方の入浴は午前0時まで、朝の入浴は午前6時以降という旅館を二人は選んでいたのだ。


(尚、会津に天然の源泉かけ流しの旅館が無い訳では無いのだが、余りにも宿代が高くつく等の理由から、二人は避けた次第だった)


 二人は、大風呂に浸かる等しながら、改めて夫のことを語り合った。

 とはいえ、会津に来た事情が事情である。

 主にジャンヌが、鈴に対して、夫の野村雄が会津に住んでいた頃の生活事情等を尋ねて、鈴がそれに答えることが多発することになった。


「夫が会津に住んでいた頃は、どんな生活をしていたのですか」

「そうね、それこそ中学校に通うことが出来る位の裕福な生活を、夫の家族はしていたわ。


 それに対して、我が家は貧困に喘いでいて、私は小学校を卒業したら、すぐに働かないといけない有様だったし、兄も小学校を卒業したら、東京に住み込みで働きに出る有様だった。

 何しろ、明治維新後の生活で、それこそ我が家は武士の商法で、投資に大失敗していたから。


 その一方、夫の家、野村家はその荒波を巧みにかいくぐって、それなり以上の生活を営めるだけの資産を築き上げていたの」

 ジャンヌの問いかけに答えることで、鈴は改めて嘗てのことを想い起こし、今となっては確かめようも無いことだが、夫の実家の野村家の当主等は、本音ではずっと私と雄の結婚に反対していたのではないか、ということに思い当たらざるを得なかった。


 何で気付かなかったのか、と言われて当然のことだが、それこそお互いの家の関係が近すぎる。

 何しろ保科正之公が、初代の会津藩主になって以来、篠田家と野村家には同じ会津藩士として関わりがあったとは、流石に言わないが、少なくとも幕末頃には、共に会津藩士中の一家同士だったのだ。

 更には、幕末から明治、大正への流れを共に過ごしてきた家同士でもある。


 そして、野村家は時代の荒波を無事に乗り切ってきたが、篠田家は完全に失敗してしまい、それこそ私が生まれた頃には家屋敷や先祖からの伝物を全て売却処分していた、と言っても過言では無かった。

 だから、私は元士族とは言い難い小さな借家で生まれ育ち、更に小学校卒業後は働いたのだ。


 そんな貧乏士族の篠田家の娘と、自分の息子が結婚しては、何かと金銭問題に巻き込まれて、悪く言えば金をたかられる事態が起きる、と野村家の当主等が危惧するのも当然だ。

 更には、私の兄はその前後に相場に大失敗して、借金を増やす惨状に陥ったのだ。


 鈴は想った。

 あの頃の野村家が、私と雄が結婚に反対したのは当然だった。

 そして、私と雄は気づいていなかった。

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