第13話 二人の妻によるそれぞれの世界における夫に対する想い
土方鈴は、改めて考えざるを得なかった。
私と夫の故郷の会津で、馬肉料理が広まったのは、戊辰戦争がきっかけだ。
更に言えば、私はともかくとして、夫は第一次世界大戦で出征して以来、(あの世界なりの)満州事変から日中戦争、更には第二次世界大戦の戦禍を直に見続けることになり、更には、私と自分との間の子ども二人を失う事態が引き起こされたのだ。
他にも夫、彼なりに戦禍については、色々と考えることがあったのだろう。
そして、その結果として、夫は戦争について色々と考える余りに、第二次世界大戦終結後に、馬肉料理を積極的に食べるようになったのではないか。
そんな想いが、今の自分の心の中で浮かんでならない。
そんなことを考え出すと、鈴は自分なりに考え込まざるを得ず、暫く無言のままで、物思いに沈まざるを得なかった。
そして、ジャンヌ・ダヴ―も、鈴の考え込んでしまった姿を見ながら、自分なりに考え込んだ。
夫が馬肉料理を、私と駆け落ち生活を始めた後で好むようになった理由だが。
あの頃、夫と私が駆け落ちした直後は、私は単に少しでも安い肉を、家族で食べる料理として出したいと考えていて、夫もそれに賛同していただけ、と軽く考えていた。
そして、私と夫は長く暮らすようになり、更に子宝に数多恵まれた結果として、苦しい家計の日々が続くことになったが、私なりに家族の健康、栄養問題に気を遣い続けたことから、家族で肉料理を食べるとなると、馬肉料理が基本にならざるを得なかった。
私が馬肉料理を出す度に、夫、彼は言っていた。
「馬肉が僕は好きだから。気にせずに馬肉料理を出せばよい」
あの頃の私は、それを彼なりに私を気遣って、優しさから言っているのだ、と考えていた。
だが、彼なりに、自分が捨て去った祖国である日本、更には故郷の会津を、馬肉を食べる度に思い起こしていたのではないだろうか。
尚、彼が祖国、故郷を捨て去る決断をした理由だが、(既述だが)妻の岸忠子ではなかった岸澪の暴走が最大の理由になる。
彼にしてみれば、大正時代に男女平等論を振りかざして、刑務所上等で政治活動をするような妻との家庭生活等は、(21世紀の観点からすれば、男女差別とフクロにされるだろうが)冗談ではない、そんな女との生活等、御免被るとしか言いようが無かったのだ。
とはいえ、日本には妻、及びそれ以外の女性2人が産んだ子ども3人もいるのだ。
フランスで私と住むことになれば、当時の交通手段からして、彼は日本に居る子ども3人も捨てざるを得ない事態になる。
彼なりにどうすべきか、かなり悩んだ末に私との生活を決断したのだろう。
そして、そういった事情から、共に異世界から還って来た岸澪は、絶対に私や当時の彼を赦せないと言う態度を未だに執っているが、同じように異世界から還って来た村山愛は、澪に寄り添いつつ、私や当時の彼の気持ちは分からなくもない、という態度を今では執ってはいる。
又、子ども達3人は妻の岸澪を捨てて、浮気相手の街娼である私との同棲生活を選んだ夫を、表面上は終生赦さなかったのだ。
最も子ども達3人にしても、いわゆる拳の振り下ろしどころに窮した末だったのだろうが。
ともかく、そんなこんなが絡み合った末に、今にして改めて深く考えればだが。
夫は、祖国、故郷に足を踏み入れる訳には行かず。
その代償として、馬肉料理を好むようになったのではないだろうか。
そして、馬肉料理を食べては、祖国、故郷を想い起こしていたのではないだろうか。
更に言えば、馬肉料理と戦争との関係にまで、夫は想いを馳せながら食べていたのではないか、と今更ながらだが、自分は考えてしまう。
ジャンヌは、其処まで考えてしまった。
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