第12話 土方鈴とジャンヌ・ダヴ―の改めての馬肉料理と戦争についての話
二人の間で、桜鍋を共に食べて、そんな話をしている内に、何時か桜鍋の中の肉も野菜も、ほぼ無くなる事態が起きていた。
「そろそろ締めにされますか」
と、それとなく様子をうかがっていたらしい仲居が声を掛けてきたことから。
二人は締めを頼むことにして、溶き卵を桜鍋の汁に入れて、それによって、半熟卵と混じった鍋の残りの汁を、茶碗に入れた白ご飯に掛けて食べることにした。
ある意味では、卵入りの味噌汁を掛けたといえる白ご飯は、それこそ前世から会津味噌を食べ慣れてきた土方鈴のみならず、ジャンヌ・ダヴ―にも心身を温めて、全ての心身を癒すような味を感じさせた。
その味に癒されたことから、心が緩んでしまい、想わずジャンヌは口走っていた。
「これが夫の故郷の味ですか。あの世界で、私も味わいたかったし、ここでも夫と共に味わいたい」
それを聞いた鈴は、思わずカッとなって言っていた。
「ええ。私の夫と私の故郷の味です。
そして、あの世界で夫と共に私も食べてきた故郷の味で、ここでも夫と私と共に味わいたいものです」
ジャンヌは、鈴の言葉を聞いて、自分の言葉が、鈴の逆鱗に想わず触れたことを察した。
自分も鈴のことを非難できないが、鈴は彼、野村雄の生まれ変わりと、この世界でも結婚したいのだ。
そんな中で、自分が彼と結婚したい、と明言しては、鈴は絶対に看過できないのだ。
だが、そう易々と自分も引くことはできない。
何しろ、それこそ50年以上も琴瑟相和す仲の良い夫婦生活が自分と営めることが、ほぼ確実な相手との結婚を易々と諦められる人が、何処にいるだろうか。
私の考える限り、そんな人は皆無ではないだろうか。
とはいえ、一緒に旅行中の相手と大喧嘩しては、色々と支障が生じるのは必然だ。
そう素早く頭を回転させたジャンヌは、少なからずのずらした話をして、鈴の気持ちを逸らして、鈴を徐々に宥めることにした。
ジャンヌは、改めて口を開いた。
「会津の桜鍋は、本当に心身を癒して温めるモノですね。
考えてみれば、馬肉を使った煮物、鍋物は、食べた人の心身を癒して、温めるモノが多い気がします」
「そう言われれば、そうかも」
鈴は、ジャンヌがいきなりズレた話を始めたことから戸惑ってしまい、同意するような言葉を言った。
「この辺りですが、此処、会津でも、又、フランスでも、戦争、それも敗戦をきっかけとして、馬肉料理が広まったことが大きい気が、私はしてなりませんが。
鈴さんは、どう想い、考えられますか」
ジャンヌは、鈴に問いかけた。
「そもそも論になるけど、煮物、鍋物料理は、心身を癒して温めることが多い料理だけど。
そう言われてみれば、会津でも、フランスでも敗戦に伴って心身を傷めたり、又、戦禍による被害を受けたりしたような人を、癒す為に馬肉の煮物や鍋物が作られたのかも」
鈴は、想わずジャンヌの問いかけに答えていた。
その答えを聞いたジャンヌは、鈴の言葉に深く肯きながら、更に言った。
「だからこそ、お互いの夫、彼は馬肉料理を好むようになった気がしませんか。
戦禍によって、色々と心身が傷め付けられて、それを少しでも癒す為に馬肉料理を好むようになった気が、私はします。
更に言えば、馬肉は戦争、それも敗戦に伴って、食べられるようになったモノではないですか」
「そう言われれば、その通りの気がして来たわ」
鈴は、ジャンヌの言葉を聞く内に、徐々にその通りなのではないか、という想いが生じていた。
本当のところは、共にお互いの赴いた異世界での彼に対して、真意を聞かないと分からないことだが。
そうは言っても、ジャンヌの言葉を聞く限りは、その通りかも、と自分も考えざるを得ない気がしてならなくなってきた。
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