6話 再会した幼馴染みには秘密がありました
湊が真冬に聞きたいことは、はっきりしていた。幼いころにされた、打ち明け話がなんだったのかだ。
しかし、これを説明するのが難しい。真冬が忘れている可能性もある。
「なんて言ったらいいかな。昔のことなんだけど、川遊びしてたときかな」
「うん」
「水切りしてた日だと思う」
「懐かしいね。湊ちゃんにやり方教えてもらったら回数増えたよ」
懐かしい話だ。川遊びのことは真冬も覚えていた。さて、肝心の『真冬の告白』である。
「真冬に何か打ち明けられたんだけど」
「私が、湊ちゃんに?」
「うん、それが思い出せなくて。真冬覚えてるかなって」
今の情報量で、真冬が即答するのは厳しいだろう。十年近く前のことだ。もう少しヒントになるようなことはなかっただろうか。
「その日の真冬、ポニーテールにしてて、ショートパンツはいてたかな」
「湊ちゃんと遊ぶときは、大体その格好だったよ」
そうだった。男の子が好むような外遊びを一緒にしていたのだった。動きやすい服装だったはずだ。他に何かなかったかと頭を捻る。そんな湊に真冬が聞く。
「どうしてそんな前のこと思い出したの?」
どうして。これを思い出したきっかけは、雪真冬が小さいころに遊んだ『まふゆ』と同一人物だとわかったこと。
真冬の初恋の人が、男の子だと勘違いされていた自分だったこと。それをクラスの仲間たちがキャーキャー言っていて、真冬が顔を赤くしていたこと。
それを見て、似たような表情の真冬を昔に見たことがあったと思い出したのだ。
「わかった。あのことだ」
湊が順を追って、説明したところ、真冬には心当たりがあったらしい。
「湊ちゃん、中途半端に覚えてたんだね」
頬を膨らませる真冬。こんな表情も可愛らしい。
「ごめん。真冬の表情とかは印象に残ってたんだけど」
打ち明け話だ。内容がどうであれ、真冬にとっては思い切ったことだったのだろう。それを忘れていたのは申し訳ない。
「けっこう、衝撃的な内容だったと思うんだけどなあ」
真冬に言われて驚くようなことって、なんだろう。
「実は男だったとか?」
女の子らしい、と言う言葉がぴったりな真冬が男だったらそれはびっくりするだろう。昔の湊は男の子に間違われるような子であったけど、真冬はどう見ても女の子だった。あのころだけでなく、今も綺麗で可愛い女の子だ。
「違うよ」
まあ、それはそうだろう。なんだか睨まれている気がする。真冬のこういう表情は新鮮だ。
「本当にごめん。もう一回教えてもらえる?」
手を合わせて、頭を下げて頼む湊。オーバーリアクションにも見えるが本人は真剣だ。
真冬は少し考えているようだ。間を置いてから口を開いた。
「私ね『雪女』なの」
ゆきおんな。どこかで聞いた言葉だ。
そうだ、バレー部の見学に行ったときだ。真冬と同じ中学だったという子から聞いたんだ。
「それあだ名だよね。悪口な感じの」
振られ男や僻み女が影で言っていたと言う。小さいころの打ち明け話が、あだ名?
悪口を相談された雰囲気ではなかったと思うのだが。それにあの年から言われていたとは思えない。
「湊ちゃん、そっち知ってたんだ。それじゃなくて、本当に雪女なんだ」
本当に雪女? どういうことだろう。真冬は変な嘘をつくタイプではない。
「雪女って、人凍らせたり吹雪起こしたりする美人の妖怪だっけ? あと着物着てそう」
「だいたいあってる。昔話に出てくるのはそういう感じ」
「真冬、人凍らせたりするの?」
「今どきそんなことしないよ」
昔の雪女はしていたのだろうか。
そんなことより、他に気になることがある。
真冬が雪女だとして、ごく普通に、高校生をしているのはどうしてなのか。美人でモテモテが普通かは置いておくとして。
なぜ湊に打ち明けたのか。
「湊ちゃん、これ見てて」
真冬は、公園にくる途中で買った紅茶のペットボトルを両手で持っている。一体なんだろう。
「えいっ」
少し力を込めたようだ。パキッと音がした。
ペットボトルの中の紅茶が、さっきまでと違っている。
「……凍った?」
「うん」
「こんなとこでやって大丈夫?」
今日は日曜日で、ここは公園だ。二人がベンチに座れなかった程度には人がいる。
「他の人には手元まで見えないよ」
「あたしが騒いで注目されたりするかもしれないじゃん」
「湊ちゃん、そんなことしないでしょ」
聞いてみたら思いもよらぬ秘密だった。こんなに驚くようなことだったのに、忘れていたとは。
「前のときも、こういうの見せてもらってた?」
小さいころは、ペットボトルではなく水筒にお茶を持たされていた。保冷力の高いやつだった。なので、まったく同じ展開ではなかったはずだ。
「前は人いなかったからね。派手にやったよ。ばーって」
笑いながら真冬が答える。楽しくて笑っているのか、湊の忘れっぷりに呆れているのかはわからない。
「川全部、ってことじゃないよね。それならさすがに……」
あの時は、川遊びをしていた。凍らせられるものと言ったら、それくらいだ。そこまですごいものなら、さすがに覚えているだろう。
「川凍らせたんじゃないよ。空中に小さい氷がたくさんできたけど、すぐ消えちゃった。夏だったしね。キラキラ光って溶けちゃった」
キラキラ。溶ける。氷。
「あー!!」
「湊ちゃん!?」
思い出した。あれだ。あのキラキラだ。
あれは真冬が作った氷だったのか。
近くでボールを追いかけていた小さい子が、湊の方を見た。けれど、すぐに両親らしき男女の元へ走って行った。それだけだった。湊が騒いだせいで、雪女バレなどということにはならなかった。
「あれ冷たくて気持ちよかった!」
「やっと思い出した! でも感想それ?」
「だって、夏だったし。キラキラしててキレイだったよ」
とてもキレイだったから手を伸ばした。触れたら冷たかった。夏の暑い日に、心地良かった。
「うん、スッキリした!」
少し前から気になっていたことがわかってさっぱりした湊。何か他にもあった気もするけど、最大の疑問が解決したのだ。
「そうだ、真冬もあたしに何か聞きたいことあったんだよね」
自分のターンが終わったのなら、次は真冬だ。スッキリしたんだから、引っ張らないで次に行くべきだろう。
「私のはたぶん、解決しちゃった」
「なにそれ」
公園に来てから、ずっと湊からの話をしていたのだ。こども時代の思い出話ばかり、真冬が何かに気がつくとは思えない。
「私が茶道部入ったあとくらいからかな? 湊ちゃん、たまに私のこと見てそわそわしてたよ」
「うん、今の話思い出せなくて。みんなのいるとこで、聞いていいかわかんなかったし」
「やっぱり、解決だよ」
「ええと、つまり真冬の聞きたかったことって」
湊がそわそわしていたのは真冬にバレていた。それを気にしてくれていたらしい。
「湊ちゃん、何か聞きたそうだなあ。何聞きたいのかなあって。みんなのいるところで、聞いていいかわかんなかったし」
湊の口調を真似て、イタズラっぽく笑いながら言う真冬。
湊も応じてイタズラっぽく返す。
「つまり今日のデートはお互い大成功?」
「そうだね」
顔を見合わせて、今度は二人同時に笑った。
そのあとは、喫茶店でしたおしゃべりの続きだ。噴水の側に腰掛けて、ペットボトル飲料を飲みながら。
「明日、みんなに今日のこと聞かれるよね」
「そうだね。あたしがデートって言ったからなあ」
「湊ちゃんが言わなくても、誰かが『デート』って言ったんじゃないかなあ」
二人はT駅に戻って、そこで解散した。乗る電車が違うのでどんなに頑張ってもいっしょにいられるのはそこまで。
先ほど話したように、明日学校でみんなにあれこれ聞かれるだろう。
対応は少し面倒くさい。でも、真冬のこと聞けたからいいや。
みんなになんて話そう。まあ、湊ちゃんが私のこと受け止めてくれたからいいかな。
お互い、反対方向の電車に乗りながら明日の学校のことを考えるのだった。




