5話 真冬と湊のデート
何を着て行こうか。いや、友達と遊びに行くのだから普通でいい。いやいや、女子同士だからこそ、お洒落に気を使わなくては。ガーリー系か、少し大人っぽいものか。
真冬は、クローゼットから外出に使えそうな服を引っ張り出して、日曜日の『デート』の服を選んでいる。
「湊ちゃん、人のファッションとか気にしなさそうだなあ」
そう言いつつも、お出かけファッションを決められないでいる真冬だった。
幼いころ、二人で遊んだときはどうだったろうか。真冬は普段はスカートをはいていた。けれど、湊と遊ぶときは木登りや虫取りをするので、Tシャツにデニムパンツが多かった記憶がある。
今回は木登りなどをするわけではない。このあたりにしては都会のT駅周辺で、喫茶店に行ったり、買い物をしたりする予定だ。スカートで問題ないだろう。
真冬と湊のデート(?)の日がやって来た。
T駅の改札前、地元民にはお馴染みの謎モニュメントの前で待ち合わせ。電車の都合上、少し早く着いた真冬が待っていた。
改札から出てくる人が増える。湊もその中にいた。
「真冬、お待たせ。そのワンピースかわいい。似合ってるよ」
会うなり真冬を褒める湊。女子同士、普通のことである。湊としても普通である。慣れてきたようでも、少し照れてしまう。
「湊ちゃんも、そのショートパンツかわいいよ」
真冬が褒め返す。女子同士普通のこと、と自分に言い聞かせて。
湊は昔と変わらず、ボーイッシュな服装だ。動きやすさ重視なのだろう。男の子に間違えられることはなさそうなところは違うけれど。
合流した二人は喫茶店に向かう。ダンディなマスターのいる落ち着いたお店、ではなく全国チェーンのコーヒーショップだ。都会の高校生ならいつでも行けるかもしれないが、この辺りにはあまり店舗がないので、ちょっとした憧れである。
「この限定の、美味しそう」
店頭に大きく貼り出された広告に惹かれる真冬。ホイップたっぷりで、フルーツジュレも入っている。単なる飲み物というより、もはやスイーツである。
「いいね。って、高!」
真冬につられて広告を見た湊だが、美味しそうな見た目より値段の方に目がいった。内容が豪華なら、値段も豪華である。SNSではいくらでも見かけるような商品だが、いざ自分のお小遣いから出そうとすると、気が引けてしまう。
「オシャレって高いなあ。あたしは先輩に教えてもらったやつにする」
オシャレな喫茶店に来るにあたって、湊なりに予習した。バレー部の先輩で、こういうお店に慣れている人がいる。とりあえずこれを頼めばいいよ、と注文の仕方を教えてもらった。
「私もそれにする」
「いいの?」
「うん。日焼け止めとか買いたいし。ここは節約しておく」
二人が頼んだのは、シンプルなカフェラテだった。限定品に比べたらまだマシなものの、高校生の財布にはちょっと痛い。
カフェラテを受け取った二人は、窓側の席に着く。テーブルや椅子も、なんだかオシャレな感じがする。
「カフェで映え写真とか載せてる人ってお金持ち?」
「バイトしてるのかも」
湊の疑問に、真冬が推測を述べる。確かに、高校生ならその手がある。
「あたしは部活あるからなあ」
平日は部活、土日バイトもできないことはない。体力には自信がある。
ただ、コンビニなどで募集しているバイトは、週三日からといったものが多い。それが最低条件なら、湊は雇ってもらえないだろう。
「うちの学校ってバイトしていいんだっけ」
「申請して許可とるんだって。バレー部の先輩から聞いたよ」
「お小遣いほしい、って理由でも大丈夫なのかな」
カフェからバイト、バイトから学校のことへと話は移って行く。
友人と少し背伸びして入ったカフェでおしゃべり、とても楽しい時間だ。
今回はただ遊ぶだけではなく、二人とも相手に聞きたいことがある。どちらも、カフェに入るまでは覚えていた。ここでお茶しながら聞こうか、別の場所の方がいいかな、などと考えていたのだがどちらもその話は出さない。
(いま楽しいし、後でいいかな……)
(いま楽しいから、後にしよ)
真冬と湊は同じことを考えていた。
次第に、喫茶店の座席が埋まってきた。二人のカフェラテもなくなっている。
「次どうしよう? 混んできたし、ずっとここにいる訳にもいかないよね」
「真冬、日焼け止め買うんでしょ。あたしも欲しいからドラスト行こう」
長居するのも気がひける。お互い聞きたかったことを聞かずに、次の場所へ行くことになった。
喫茶店から五分も歩かない場所に、大きめのドラッグストアがある。この辺りにしては栄えているT駅周辺ならではの便利さだ。
店内には、日焼け止め以外にも見てて楽しいものが色々ある。お小遣いで買える価格帯のコスメに、メイク道具。手が届かないものだって見ているだけで楽しくなる。
ちなみに、今日の真冬は軽くメイクをしている。学校では校則違反なのですっぴんだけど。
「真冬、キレイだからメイクいらないと思ってたけど、メイクしてるのもかわいいよ」
「湊ちゃん、またそういうこと言う」
これが学校なら、他の子が何かしらキャーキャー言うだろう。でも、今日は二人で遊んでいるのでそれがない。
「ここで終わるの、変な感じ」
クラスの友人たちのいつもの流れ。嫌ではなかったけど、いつまで続くのかと思っていた真冬。だが、なければないで違和感を覚えた。
「それじゃ、次はみんなも誘って遊ぼう」
『デート』の言い出しっぺである湊がそう言う。真冬と二人で遊ぶのも良いけど、他の子とも出かけたい。
二人で会うのを提案したのは、聞きたいことがあったから。そう聞きたいこと。
幼いころ、真冬にされた告白の内容のことだ。
……聞いていない。忘れていた。途中までは覚えていたのに。まだ時間はあるけれど、そんなことを言っていたらタイミングを逃しそうだ。でもドラッグストアの中で聞くのはどうなんだろう。それなら、最初に寄った喫茶店のほうがよかった。
「湊ちゃん、どうしたの?」
顔に出ていたらしい。真冬に気がつかれた。
誤魔化すか、正直に言うか。
「いやー、真冬に聞きたいことあったの思い出して」
正直に言うことにした。上手い誤魔化しが思いつかなかった。元々そういうことは苦手である。
そうしたら、真冬から意外な返事があった。
「私も湊ちゃんに聞きたいことあったんだ」
表情を見るに、真冬も忘れていたのを思い出したようだ。こんなところで気が合うなんて。
さて、真冬に質問されるようなことがあっただろうか。
ひとまず、二人とも日焼け止めを購入してドラッグストアを出た。大きな店舗だけあって、日焼け止めの種類も豊富だ。スプレータイプ、ジェルタイプ、スティックタイプ。お得な大容量もあれば、携帯に便利な小型のもの。可愛いパッケージにいい香り。
結局いつも使っている定番商品にした。真冬はかなり迷った。湊は即決だった。
話をするなら、どこが良いだろう。自分はいいけど、相手は周りの人に聞かれたくないかもしれない。おしゃべりなら、ファミレスでドリンクバーを注文して粘ればいい。でも、今回それはどうなんだろう。
というようなことを、お互い考えていた。
「そうだ、ちょっと歩くけど大きい公園あるよ。そこ行かない?」
湊の提案だ。中学時代に部活の大会で訪れた運動場がある。敷地内に広い公園があった。ベンチもそれなりにあったはずだ。
「いいね、そこ行こう」
真冬も同意したので、公園で話すことにした。途中のコンビニで飲み物を買う。最初に寄ったオシャレな喫茶店に比べると、安く感じる。
手頃なベンチは空いていなかった。週末なので小さい子を連れた家族連れが多い。カップルや学生グループもちらほらいる。
噴水の囲いが座るのにいい高さだったので、二人はそこに座った。
「真冬も話あるんだよね」
「湊ちゃんが先に言ったから、湊ちゃんからだよ」
というやり取りの結果、湊から話すことになった。さて、どうやって説明したものだろうか。




