第3部4話 球技大会の終わり
今、体育館では女子バスケの二回戦が行われている。湊が出ている試合だ。
真冬と吉乃は、もう試合がないので女子バスケの応援をしている。周りを見ると、それなりに観戦者がいた。
「湊ちゃん楽しそうだなあ」
試合中の湊を見て、真冬はそう思う。小さいころから活発な子であったが、スポーツをしているところは高校生になって初めて見た。小さいころの遊びは、山の中をかけまわるばかりだったのだ。
湊はバレー部に決める前、他の運動部も見学して迷っていた。きっと、体を動かすこと全般が好きなのだろう。
「ちょっと押されてるね」
隣の吉乃が言う。さっきから一年二組はゴールに近づけていない。逆に相手のチームが、何本かシュートを放っている。今のところ、入ってはいないのだが、時間の問題に見える。
「まさか、またバスケ部じゃないけど経験者ってオチ?」
吉乃が、自分たちがテニスで負けた要因と重ねていた。その可能性はなくもないだろう。
そんな会話をしているうちに、相手チームに一点入ってしまった。湊たちは、この一点以外にシュートを決めさせなかった。でも、一点も入れられなかった。負けである。
「真冬ー、吉乃ー! 負けたー!」
湊はそう言いながら、二人のところにやってきた。
思いきり悔しがっている。そしてすぐに立ち直った。
「メイちゃん先輩とスイ先輩、バスケでも強かった」
「知ってる人?」
「うん、部活の先輩。バレーだけじゃなくて、バスケも上手いんだなあ」
対戦相手の中に、湊の部活の先輩がいたそうだ。先輩だからやりにくい、とかは考えていなさそうである。湊のそういうところも、良いなあと真冬は思う。
「あ、メイちゃん先輩ね。カフェラテ教えてくれた人だよ」
真冬と湊の『デート』はオシャレな喫茶店だった。喫茶店を提案したのは湊だが、そういう店に縁がなくて、何を頼んだら良いかわからなかった。そのアドバイスをくれた先輩だという。
「二人のデートが上手く行った恩人だね」
「うん」
茶化しているであろう吉乃と、普通に肯定している湊。
真冬は「湊ちゃん、そういうところ!」と思った。
「そういえば、奏音は? 卓球も二回戦そろそろ終わるんじゃない?」
と湊が言うと、どこからともなくご機嫌な声が聞こえた。
「卓球は、二回戦敗退です!」
奏音は、負けたのに嬉しそうである。理由は、一回戦勝利で落ち込んでいたときに聞いているので、誰もつっこまない。
「これで、球技大会から解放です! そして、お腹が空きました」
言われてみれば、そろそろお昼の時間である。
「じゃあ、教室戻ろっか。その辺で食べてる人もいるけど、お弁当、教室だよね?」
吉乃は、真冬と奏音に聞く。自作は真冬だけだが、吉乃と奏音もお弁当が基本だ。
わざわざ取りに行って外で食べるよりは、教室でいいだろう。他のクラスメイトもいるだろうし。
「あたし、購買でパン買ってく」
「私も飲み物買いたいな」
球技大会が、実質午前中で終わってしまった四人は、ひとまずお昼ごはんを食べることにした。
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四人が教室に戻ると、他にも何人かのクラスメイトがいた。女子が多いようだ。
「女子は全種目負けたんだった」
真冬と吉乃の参加したテニスは一回戦敗退、湊のバスケと奏音の卓球はそれぞれ二回戦敗退している。やることがなくて、教室でおしゃべりしている子が多かった。
「男子は?」
「バスケと卓球が残ってるって」
教室にいた子たちと、情報交換をする。一年二組、男子は奮闘中らしい。
「応援行く?」
「行くならバスケだよね。卓球場せまいし」
男子バスケは、少し前に隣のクラスの出場者と話したばかりだ。真冬としては、あまり気が進まないのだが。
「真冬ちゃんたちも行こうよ。男子喜ぶよ」
誘われてしまった。男子が喜ぶかはおいといて、どうしようか。あの人と湊ちゃんをあまり会わせたくないなあ、と真冬は思う。
「あたし行く」
真冬が考えている間に、湊が返事をした。吉乃と奏音は様子見をしている。真冬の迷いを察しているのだろうか。
「……私も行こうかな。吉乃ちゃんと奏音ちゃんも行く?」
女子はたいてい、グループ行動をする。いっしょに行く人がいなければ行かない、なんてことも珍しくない。でも、湊はそういうタイプではない。
見ていないところで、会ってるかもなんてモヤモヤするくらいなら、いっしょにいた方がマシだ。
……なんだか、やきもちを焼いているみたいだ。
「行く行く。ごはん終わったら行こう」
「次は準決勝でしたっけ。男子すごいですねえ」
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昼食後、真冬たち一年二組の女子は、クラスメイトの男子の応援に体育館に来ていた。全員ではないが。
「午前中より、見に来てる人多いね」
「試合終わって暇なひと、多いんじゃない?」
トーナメント戦なので、後半になれば暇な生徒も増えてくる。一年二組の女子たちもそうだ。
「男子どことやるの?」
「三年生だって。カッコいい先輩いないかな」
応援以外のことを考えている子もいるようだが。
女子数人で、クラスの男子を応援……いや、おしゃべりしながら横目で観戦している、といったところだろうか。「バスケしてると⚫︎⚫︎くんかっこいい」だの「チョコ食べる?」だの「このショート動画おすすめ」だの。そんなことをしているうちに試合終了。一年二組の男子バスケは、ここまでだった。
「さっきのシュート惜しかった! もうちょっとだったのに」
真面目に観戦していた湊曰く、風向き次第では勝てる実力差だったらしい。
試合の終わった男子たちに、何人かの女子が声をかける。その中に湊もいる。真冬たち四人の中で、一番男子と会話するのは湊だ。今も負けた男子たちを励ましている。
そんな湊を見ながら、真冬は考える。こんな風に、バレー部の男子たちとも仲良くしているのだろうか。その中には、湊に好意を抱く人がいたっておかしくない。……大崎本人がいなくても、なんだか影がちらついている。
真冬は美人だ。男子から好意をもたれたり、告白されたことだってある。それは、外見や雰囲気に惹かれてのことだ。キレイ、かわいいと言われて悪い気はしないが、内面まで含めて好意を寄せてくれた人はいただろうか。
きっと、湊のことを好きな男子がいたとしたら──大崎がそうではないかと、真冬は疑っている──内面も含めて、好きになっているだろう。
真冬の初恋、湊を男の子だと思っていたあのころは、優しいところや気があうところが好きだったのだ。
真冬は、湊が好きだ。それは、はっきりしている。問題は、『好き』の種類だ。友達としてなのか、恋なのか。それがわからなくて困っている。
そして、もう一つ気がついたことがある。湊をうらやましいと思ったのだ。
「卓球も負けたって!」
「うちのクラス全滅じゃん」
「球技大会、完全に終わったー!」
クラスメイトが話している。これで、一年二組は男女とも、残りの試合はなくなった。残った時間ですることは、他のクラスの知り合いを応援するか、適当におしゃべりでもするかである。
湊はバレー部の先輩たちの応援に行き、真冬と吉乃と奏音はおしゃべりをする方を選んだ。文化部の三人は、部活つながりで応援できる──勝ち残っている知り合いはいないのだ。湊についていったところで、バレー部はほとんど知らない人だ。
(球技大会なのに、試合以外のことで悩んでるなあ……悩み、増えちゃってるし)
真冬は、吉乃や奏音となんということのないおしゃべりをしながら、今日をそう振り返ったのだ。




