第3部5話 球技大会後のよもやま話
◆吉乃と奏音◆
「球技大会終わりましたー!」
運動音痴の奏音にとっては、長い一日だった。一回だけ試合して、負けたらあとはおしゃべりしているつもりだったのに。予想外の一回戦突破のため、自由時間は思ったより少なかった。
「球技大会終わったら、次は期末テストだよ」
と吉乃が横槍を入れる。派手な外見であるが、成績はけっこういいのだ。
「吉乃ん、それは言わないお約束ですう!」
「数学なら教えるよ?」
中間テストのとき、数学が追試になった奏音に教えたのは吉乃だった。その結果、なんとか追試をクリアして、奏音はカラオケに参加している。
「数学は、あてがあるので大丈夫ですう」
奏音の返答は、吉乃にとって予想外だった。
いっしょにいる中で、一番数学ができるのは吉乃だ。仲良しグループ内に限らず、学年でもかなり上位だった。その吉乃以外のあてとは誰だろうか。
「目黒くんに教えてもらう約束です。中間テストのとき九十七点だったそうですう」
球技大会の最中にはまったく会わなかったので、存在をすっかり忘れていた。そういえば中間テストの数学は、学年最高点が九十七点だと聞いたような。まさか、そんなところにいたとは。
「……もう、付き合っちゃえば?」
「別にそう言うんじゃないですよう」
カラオケのとき、真冬といっしょに彼氏作りにいったはずなのに、成果ゼロだった吉乃。
数合わせできたのに、趣味友男子をゲットして、順調に仲良くなっているらしい奏音。
少し納得のいかない吉乃だった。
同い年なのに、ちまちましていて可愛い奏音も取られそうだし。
◆大崎と目黒◆
「水津ちゃんに、試合応援してもらえなかったー。ケン、慰めてー」
「嫌だ」
球技大会終了後、いっしょに下校している大崎と目黒だ。部活が違うので、普段はあまり一緒に帰らない。今日は球技大会の影響で、基本的に部活なしとなっているので例外である。
「水津ちゃんと雪さんがイチャイチャしてたの教えるから」
「なんだそれ、聞かせろ」
めちゃくちゃ食いついた。大崎にはよくわからないが、目黒はそういうのが好きらしい。タンポポでも薔薇でもない、薔薇って言うと怒られる何かである。花の名前のやつ。
大崎は目黒に、今日見た光景を話して聞かせる。
「……壮太の語り口だと、風情も情緒もない。自分の目で見たかった」
目黒はとても残念そうだ。そして話ぶりをディスられた大崎だった。
「それで、俺は水津ちゃんには、応援してもらえなかったんだよ」
「俺は壮太より雪さんを応援する」
「ええ、俺のこと応援してよ。って俺のライバル雪さん? 学校で有名な美少女がライバル?」
幼馴染みのでこぼこコンビ(大崎は180cmオーバー、目黒は160cm程度)は、そんなことを話しながら帰って行った。
◆田町と田端◆
「今日、雪さんと話せた! まるのこと聞いてもらえた」
「なんだよそれ、俺にも犬がいれば……」
こちらも下校中の田町と田端だ。
田町がゴールデンレトリバーを飼っている方。田端はそうじゃない方だ。まるは、田町家で飼っているゴールデンレトリバーの名前である。
「ジャージでもかわいかったなあ。帰ったらまるにご褒美だ」
「目黒に頼んで、眼鏡ちゃんから聞いて、真冬ちゃんがテニス出るって知ってたのに! 俺の試合と時間被るなんて!」
田端は目黒と同じ三組だ。カラオケのあと、田端と目黒は、付き合いができたらしい。田端がお近づきになりたいのは、真冬なのだが。眼鏡ちゃんとは奏音のことである。目黒と奏音を通して、真冬の情報をゲットしていたようだ。
ただ、その情報を活かすことはできず。話すどころか、姿を見ることすらできない田端であった。
「だからお前なに名前呼びしてんだよ!」
「楽しく話してたヤツに言われたくない!」
そんなことをぎゃーぎゃー話しながら、二人は帰って行った。
この中で、一番よい思いをしたのは、田町家のまるである。理由はわからないが、大好きなささみジャーキーをもらえて大喜びだった。
◆真冬と湊◆
「真冬、今日ちょっと元気ない? 大丈夫?」
「え? そんなことないよ。元気だよ」
そう返事をしたものの、確かに今日の真冬は少し元気がなかった。相変わらず、自分の気持ちがつかみきれなくてモヤモヤしていたのだ。その様子を、湊に気がつかれていたらしい。
「テニス負けたの気にしてる……んじゃないよね」
湊は途中まで言いかけて、違うと思ったようだ。うーん、と考えている。
「大崎と何かあった?」
「何もないよ。なんで大崎くん?」
「前、大崎のこと気にしてたし。今日、いっしょに体育館きたけど、そのとき何かあった?」
少し当たっている。大崎も、モヤモヤした原因のひとつだった。
「偶然会ったあと、みんなで湊ちゃんの応援にいっただけだよ」
「それなら良いんだけど。あいつとなんかあったら相談して。紹介したの、あたしなんだから」
湊は真冬のことを考えてくれている。大崎を紹介したのだから、トラブルがあったのなら間に入ってくれるつもりらしい。でも、そうではないのだ。真冬が、一方的に悩んでいるだけである。
当たってはいないけど、真冬のことを大事にしてくれる湊にごまかすのは、なんだか嫌な気がした。
「大崎くんとはなにもないよ、ただ……」
「ただ?」
「湊ちゃんを大崎くんにとられたら、嫌だなって思っただけ」
「あたしが、大崎にとられる?」
湊は頭の上にハテナマークを浮かべたような顔をしている。
それはそうだ。大崎が、湊のことを好きかもしれないというのは、真冬が勝手に疑っているだけ。
湊は、大崎は真冬に気があると思っている。
「その……カラオケのとき、仲良さそうだったし。部活もいっしょだから」
「そりゃ仲悪くはないけど。同じ部活であれくらい話すの他にもいるよ?」
そうだろう。普段の湊を見ていれば、想像はつく。
「私は湊ちゃんが好きだから、やきもち、やいちゃったみたい」
真冬は、なんだか自分でもすごいことを言ってしまったと思う。
「あたしも真冬好きだよ」
予想していたけれど、たぶん、正確に伝わってはいない。そもそも、真冬本人が自分の気持ちを整理しきれていないのだ。
「それなら、いいかな。元気出たよ」
「そう? よかった。」
真冬と湊の、友人なのか恋の相手なのか、よくわからない関係はまだ続くようだ。




