第3部2話 誤解の解消とモヤモヤ
湊は部活の休憩中に、大崎と顔を合わせた。バレー部は、男女同じ体育館で練習しているので、よくあることだ。
ここでも球技大会の話になった。
「俺、バスケに出ることになったんだ。水津ちゃんは?」
妥当だろう。背も高いし。そういえば、女子には背が高い男子を好きな子も多い。真冬もそうなのだろうか。
「あたしもバスケだよ」
「同じじゃん! 応援行くよ」
「自分のクラス応援しなよ。あと真冬はテニス」
先日のカラオケは、大崎に真冬を紹介するという話から始まった。でも、大崎は真冬とは話せていなかった。無理に大崎を勧める気はなかったが、真冬が気にしているなら助け舟を出すべきか。くっつけるなんて器用なことはできないけど、参加種目を教えるくらいならできる。
「雪さんテニスかあ。似合いそう」
「学校の球技大会だから、ジャージだよ」
テニスウェア姿でも想像したのだろうか。湊も想像してみる。うん、確かに似合いそうだ。
「真冬、かわいいからねえ。男子が見にきそうだなあ」
「あー、雪さん人気だから」
大崎は、なんで他人事みたいなんだろう。カラオケで出遅れているのに。真冬が大崎を気にしていることを知らないから、余裕をもつ理由はないはずだ。
大崎の反応に、若干のひっかかりを覚えた湊だが、休憩時間も終わるので追求はしなかった。
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「昨日、大崎と話したんだけど、球技大会バスケ出るって」
「そうなんだ。背高いし、向いていそうだね」
湊は、今度は真冬に大崎の参加種目を教えてみた。気になっているなら、応援に行きたいのではないかと思ったからだ。でも、予想していたのと違う反応だ。
湊との思い出──男の子だと勘違いした上での初恋──を話したときは、顔を赤くしたりして、いっぱいいっぱいだった。あのときは、こんなに落ち着いていなかった。真冬が大崎に気がある、というのは勘違いだったか。
その二人の様子を見ながら、吉乃と奏音が小声で話している。
「湊ちゃん、何か思いっきり勘違いしてそう」
「真冬ちゃんと大崎くんを、後押ししてそうな感じですねえ」
「でも、なにかおかしいのには気がついたっぽいね」
「奏音としては『真冬は渡さない!』という方向にいって欲しかったですう」
昨日、真冬は湊に大崎をどう思っているか聞いた。その結果、湊の方はなんとも思ってなさそうだった。そのことを、吉乃と奏音に伝えていたのだ。
「真冬ちゃん、誤解を招く聞き方したのかも」
「湊ちゃんは、『大崎くんは真冬ちゃん狙い』を疑ってないですよねえ」
「そっち二人で何話してるの?」
湊が、吉乃と奏音に声をかける。真冬もこっちを見ている。
「えっと、奏音に最近、目黒くんとどうなの? って聞いてたの」
(吉乃ん、その逃げ方ずるいですう!)
(いいから、適当に話し合わせてよ)
「目黒くんから、カラオケ行った男子達が球技大会で何に出るか、教えてもらいました!」
「へえ、そうなんだ。誰が何出るの?」
スポーツ好きな上、知り合いの話題で湊の気はそれたらしい。その横にいる真冬は、先ほどの湊の発言と二人のやり取りから、事態を察していそうである。あとで、真冬・吉乃・奏音三人のメッセージグループで、いろいろ話すことになりそうだ。
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球技大会の日がやってきた。クラスごとのトーナメント戦だ。きちんと試合に参加すれば、あとはうるさく言われない。空き時間は、クラスメイトの応援に行ったり、適当にサボったりできる。
「ああ、憂鬱です。卓球どころか、ピンポンレベルも危ういのです……」
卓球に決まったときは『他よりまだマシ』と言っていた奏音だが、あくまで『マシ』のようだ。
「大丈夫だって。負けたって文句言う人なんていないから」
「吉乃ん、それは慰めてるんですか……?」
「卓球選んだの、みんな体育苦手な子だし。勝てるよ、って言うのも無責任でしょ」
メンバーを考えて、現実的な言い方をしたようだ。
「応援行きたいけど、私たちももうすぐ試合だから」
「真冬ちゃん、応援はなくても大丈夫です。行ってきますう」
奏音の『大丈夫』は、本当に大丈夫なわけではない。競技している姿を見られたくないとか、そんな意味だ。足取りも重く、会場へ向かっていった。
なお、卓球場は狭いので、奏音がいいと言っても応援できるか微妙なのだが。
「湊ちゃんは、元気にバスケ行っちゃったね」
「奏音に頭ポンポンしていってくれればよかったのに」
奏音を見送った真冬と吉乃は、テニスコートに向かう。湊は、すでに女子バスケの第一試合中だ。相手は二年生らしい。
テニスはダブルス三組で試合を行い、二勝したクラスが勝ちとなる。第一試合と第二試合で勝負がついても、最後の試合までやる。その場合、第三試合はまったく盛り上がらない。全員参加が建前の学校行事だからだろう。
ちなみに、奏音の参加している卓球も同じルールである。
「真冬ちゃん、吉乃ちゃん。こっちこっち」
テニスコートに着くと、先に来ていたクラスメイトが待機場所を教えてくれた。メンバーが全員そろい、試合開始まで雑談する。最初の相手は一年一組だ。
「同級生なら遠慮なくやれるね」
「やっぱり先輩相手だと気使っちゃうよね」
いよいよ始まった第一試合を見ながら、残り二組はそんな話をしている。真冬と吉乃は第三試合だ。
「女子バスケ、二年生とだよね。湊ちゃんたち大丈夫かな」
「湊ちゃんなら、先輩相手でも思いっきりやると思うな」
「さすが真冬ちゃん、湊ちゃんの解像度が違うね」
真冬と湊のことは、ここでもネタにされている。真冬はもう慣れっこだ。
真冬は湊の解像度が高い……果たしてそうなのだろうか。いっしょに過ごしたのは、幼いころの夏休み。そして高校に入ってからの二ヶ月ちょっと。通学路も部活も違う。知らないことの方が多いと思う。
第一試合は、二組の勝ちだった。第二試合は僅差で負け。つまり、二組の勝敗は真冬と吉乃の試合にかかっているのだ。
「緊張する。真冬ちゃん、がんばろ」
「うん、吉乃ちゃん行こう」
真冬は運動神経が良いほうだ。吉乃も悪くはない。でも、テニスは授業でやっただけ。それは相手も同じだろう、と思っていたのだが──。
「テニススクール通ってたって、なにそれ!」
相手は、テニス経験者だった。現役のテニス部ではないので、参加できてしまったのだ。対戦相手としては、納得がいかない部分がある。
経験者の前に、真冬と吉乃は敗北したのだった。
「真冬ちゃん、吉乃ちゃんお疲れ! これは仕方ないよ」
「でもこれで、あとは好きにできるね」
「男子の応援行く?」
負けたことは残念だ。でも、湊が言っていたように大会自体を楽しめばよいのだ。負けて次の試合はないので、クラスメイトの応援に行こうか。と、真冬が考えていたところ、吉乃につつかれた。
「あのへん、真冬ちゃん見に来たみたいだよ」
テニスコートの外には、試合を見に来た生徒がいる。卓球と違い、こちらは選手以外も観戦可能だ。中には真冬を見に来た男子生徒もいるようだった。
真冬は、そういうのは慣れている。昔から、かわいい子がいると見に来る人はいたし、外見だけで好かれたりなんてことは何度もあった。だから、今回も特別なんとも思わなかった。
その中に、あの人を見つけるまでは。




