第2部3話 テストが終わったあとのお楽しみ
真冬たちが高校生になって初めての定期試験が終わった。そして返却。さて、それぞれの結果はというと――。
「高校の数学、難しいよ……。こんな点数、初めてとっちゃった」
と落ち込む真冬。
「真冬はまだいいじゃん、それ平均超えてるよ」
渋い表情の湊。
「湊ちゃんは、まだマシなほうです。奏音は追試になってしまったのです……」
絶望の奏音。
さて、もう一人の吉乃はというと。
「平均三十二点のテストで八十点越えって、吉乃んは何者なんですかあ!」
「数学得意なんだって。奏音は現代文よかったんでしょ」
「うー。でも吉乃んは現代文も普通にいい点とってましたよお」
「追試の対策、付き合おうか?」
「お願いしまあす!」
たいていの学生にとって嫌な定期テストとその返却が終わった。一部、追試が残っている生徒もいるけれど。
「追試が終わったらいよいよ『あれ』ですね! そのためにがんばりますよ!」
「なんで奏音が張り切ってんの」
『あれ』とは、真冬にバレー部男子を紹介する件である。最初は、真冬と吉乃、紹介役の湊の予定だった。男子側で、行きたいというメンバーを集めたら四人になった。そのため、女子も四人で行くことになる。それで奏音もメンバーに加わったのだ。会場は無難にカラオケだ。
奏音の追試もなんとか終わり、いよいよその日がやってきた。参加者の半数がバレー部員だ。平日の放課後は部活で空いていないので、週末開催になった。真冬と湊が『デート』をしたT駅近くのカラオケ店である。このあたりで、高校生が遊べそうな街はT駅周辺くらいだ。
「真冬以外の私服、初めて見た。かわいいじゃん」
「いつも制服だから新鮮だよね」
「二人は『デート』したから、初めてじゃないんだった」
「湊ちゃんが真冬ちゃん以外も口説き始めましたあ」
女子だけでちょっと早めに待ち合わせをした。安いチェーン店のカフェで、作戦会議という名のおしゃべりをしていた。
「今日来るのって全員バレー部?」
と吉乃が湊に聞く。
「ひとり違うって。あとはみんなバレー部だね」
そう答えていると、湊のスマホにメッセージが入った。大崎からである。彼は、男子側の幹事をやっている。
「男子もう店着いたってさ。そろそろ行こうか」
飲み終わったドリンクのカップをゴミ箱に捨てると、女子四人で約束のカラオケ店に向かった。
カラオケ店の前に、私服姿の男子が集まっていた。もっとも、彼らの制服姿を知っているのは湊くらいである。校内ですれ違ったことはあるかもしれないが、ほぼ初対面である。
「水津ちゃんと雪さんとお友達、こっちこっち」
と大崎が手を振る。背が高いので、目立っている。他にも客はいるが、わかりやすい目印になった。
「さすがバレー部、みんな背が高いですねえ」
湊の背中に隠れたような格好で、奏音が言う。小柄なので、大きな人は怖いのかもれない。
「真冬ちゃん、パッと見で好みの人いる?」
「うーん。今のところは何とも言えないなあ」
湊と大崎が受付をしている間、男子たちとは微妙に距離をとりながら会話をする。おそらく、男子側も大差ないだろう。
真冬に視線が集中しているように見えるが。
受付が終わり、部屋へと移動する。フリードリンク制なので、途中のドリンクコーナーでそれぞれ好きな飲み物を注いでから向かった。お茶だったり、炭酸飲料だったり好みはそれぞれだ。
指定の部屋へ着くと、男女に分かれ、向かい合う形で座った。
「えー、それでは、開会の挨拶は、不肖・大崎が務めたいと思います!」
幹事の大崎が進行役を買って出た。こういう役が得意なのだろうか。
「開会って。大会や運動会じゃないんだから」
「水津ちゃん、ナイスツッコミ! じゃあ、自己紹介から始めようか」
バレー部で顔見知りなのもあってか、大崎と湊は自然に会話をしている。残る六人は、まだ様子を伺い合っていた。
「男子側幹事でバレー部の大崎です。バレーのポジションは……興味ないか。あ、猫。猫好き!」
「大崎と同じバレー部の田町です。犬派かな」
「同じくバレー部の田端です。動物なら、ペンギンとか?」
ここまでの三人がバレー部だ。最後の一人は、男子の中では小柄で、眼鏡をかけている。
「目黒です。部活はパソコン部です」
「ケン、好きな動物は? 今その流れ! あ、こいつ下の名前はケンね。某アイドルと一文字違い!」
「こいつとは小学校からの腐れ縁です」
目黒の言う「こいつ」とは、もちろん大崎のことである。ふたりでなんやかや言い合っていたが、目黒は好きな動物を言わなかった。
男子の自己紹介が終わり、女子の番になった。
「水津湊、バレー部。えーと、茶トラの猫飼ってるよ」
「雪真冬です。部活は茶道部です。家に黒柴の女の子がいます」
犬派の田町が、小さくガッツポーズをするのが見えた。
「渡辺吉乃です。真冬ちゃんといっしょに茶道部、動物は飼ってないなあ」
「坂東奏音です。文芸部とイラスト部掛け持ちです。うちは金魚がいます」
自己紹介が終わった。さて、次はどうするか。早速歌うか、もう少しおしゃべりを続けるか。
「水津ちゃんの猫と雪さんの黒柴気になる! 写真とかある?」
「雪さんと渡辺さん茶道部ってどんなことやるの?」
「坂東さん、部活かけもちすごいな! 大変じゃない?」
と、大崎がうまく話を広げてくれた。
「うちの猫これ。猫に敷かれてるのは兄ちゃん」
「お兄さんの気持ち、わかる。猫なら座られてもいい」
湊と大崎は、猫飼いと猫好きということで自然と話している。面識もある二人だ。
「雪さんちの黒柴かわいいね。これ、うちのゴールデン」
「大型犬もいいなあ。ゴールデンて人懐こいんだよね?」
「人好き過ぎて、泥棒にも懐くって聞いたぞ」
ペンギンが好きと言っていた田端だが、真冬と話せるなら犬でもいいらしい。
それなりに男女間でも会話がはずんできたが、やはり扱いに差はでる。
(大崎くんは全員に気を遣ってくれてるけど……。ギャルメイクは男子ウケしないか)
(やっぱり真冬ちゃん人気ですねえ……奏音は彼氏作りに来てないですけど、思い知らされますう)
余りそうなのは吉乃と奏音。そしてもう一人、男子側にも会話に入れていないメンバーがいる。
目黒は、ぼんやりと真冬たちの方を見ていた。彼も真冬目当てなのだろうか。今のところ、真冬たちは飼い犬の話で盛り上がっている。話題としては、万人向けである。
目黒は喋るのが得意には見えない。話に入れないのかもしれない。
犬猫トークが一段落したところで、大崎がみんなにカラオケを提案した。すっかり進行役である。
「歌いたくなかったら無理に歌わなくてもいいから!」
「大崎って、意外と気遣いできるじゃん」
「もっちろん! やればできる男、俺!!」
元々知り合いの湊にとっては、意外な一面だったようだ。
言い出しっぺということで、大崎が最初に歌った。ほとんどの高校生は知っているような曲だ。
次に吉乃。こちらも若い女性に人気のアーティストの曲。その流れで、男女交互にメジャーな曲を一曲ずつ歌っていった。
「えーと、奏音は歌うの苦手なのでパスします。聴くのは好きなんですけど」
残るは、自己紹介以外まともに喋っていない目黒である。
「ケン、すっごい歌うまいんだぜ。せっかくだから一曲!」
「わかったよ。でも好きなの歌うぞ。たぶん、みんな知らないやつ」
そう言って、彼が選曲したのは確かにみんなが知らない曲だった──一人を除いて。




