第2部2話 見た目か中身か
水津湊は友人の雪真冬とスマホでメッセージをやりとりしていた。話題は、昼間に学校で話していたこと。そして、以前から周囲に頼まれていた件だった。
「水津さん、雪さんと仲良いんだよね。紹介してくれない?」
というようなことを、男子数名から頼まれていた。湊はバレー部で、男子バレー部とも交流がある。頼んできたのは、男子バレー部員たちだ。真冬は美人で、かわいいところもたくさんある。男子が仲良くなりたがっても不思議はない。
これまでは、真冬に迷惑だろうと思って適当にあしらっていた。しかし、今日「真冬ちゃん彼氏作ったら?」という話になったのだ。真冬にその気があれば、紹介してもいい。
ただ、真冬にはひとつだけ秘密がある。そのことで、普通の高校生と付き合っても大丈夫なのか気になった。確認したところ、真冬にも相手にも特に問題はないらしい。
そこで「バレー部男子を紹介しようか」という内容を送ったところ、返信が来るまで時間がかかった。具体的に誰かという話はしていない。
バレー部男子はなしなのかな。昔のあたしを男子と間違えて好きだったんだしなあ。真冬の好み、バレー部男子はそんなにはずれてないと思うんだけどな、などと湊は考えていた。
やっと、真冬から返ってきた返事は
「ちょっと考えさせて」
だった。なしではないようだが、男子たちに知らせるにはまだ早い。
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翌日、いつものメンバーでおしゃべりをしていると、その中のひとりが湊に尋ねた。眼鏡をかけた小柄な子で、奏音という。
「ねえねえ、湊ちゃんお兄さんとかいます?」
「いるけど、なんで?」
湊は即答した。でも質問の意図は、全くわからなかった。
「真冬ちゃんが好きになりそうな男子って、湊ちゃんみたいな子だと思うのです。だったら、お兄さんが一番近いんじゃないかと」
どうやら、昨日の話の続きらしい。奏音は真冬が彼氏作るのに反対していたはずだ。
「兄弟なら見た目は似てるのでは? お兄さんの写真とかあったら見たいです!」
「だから、別に湊ちゃんの見た目に惹かれたわけじゃなくて……。ていうか、奏音ちゃん私が彼氏作るの反対してなかった?」
湊が思ったことを、真冬が先につっこんだ。
「ビジュが湊ちゃんならありかと」
「なにそれ」
今度はいっしょにいたメンバー全員がつっこんだ。
「で、湊ちゃんのお兄さんてどんな人?」
この話題の言い出しっぺである吉乃も興味があるらしく、食いついた。外見にしろ、内面にしろ湊と似ているなら、真冬も興味を持つかもしれない。
少し考えたあとに湊が言う。
「普通のきょうだいくらいには似てると思う。でも今、二十一だからなあ。真冬相手だと年離れ過ぎじゃない? 実の兄がロリコンは嫌だよ」
五年後、十年後なら問題ないだろう。でも、今は成人男性と女子高校生であり、微妙な年齢差である。
「なら同級生とか探したほうが無難だよね」
「それなら奏音は、やっぱり反対派に戻ります」
「奏音はなんで、お兄さん推し?」
「ビジュが湊ちゃんならありかと思ったのです! でもロリコンはなし!」
吉乃と奏音の会話がなんだかテンポよく進んでいく。
「だから、別に彼氏欲しいって言ってないよ」
真冬がそこにつっこみを入れる。昨日も話したが、真冬が欲しいと言ったわけではない。
「反対派優勢! やっぱり真冬ちゃんの気持ちが大事!」
「奏音は湊ちゃんのお兄さんがいい感じだったら、賛成派だったんでしょ」
「二人で漫才やってみたら? "奏音・吉乃ん"でゴロもいいし」
少しキャラを作っている奏音と、それにつっこみ入れる吉乃を見て、湊が思いついたことを口にした。
「今からだったら、文化祭デビュー間に合うね。吉乃ん」
「なんでノリノリなの、奏音。てか"吉乃ん"て何?」
「言い出したのは湊ちゃんです」
奏音が湊を見る。
「奏音と吉乃、続けて言ったらそうなったんだよ」
湊は真顔で答えている。
こんな会話をしているうちに、真冬の彼氏作りから話がそれていった。箸が転んでもおかしい年ごろの女子高校生だ。話題はつきない。
真冬の彼氏作りについての話が再び持ち上がったのは、真冬と吉乃の帰り道だ。
「真冬ちゃんは彼氏いらない? 誰とも付き合う気ない?」
「そういうわけじゃないけど……。なんで吉乃ちゃん、そんなに勧めるの?」
一昨日の帰り道、吉乃から提案された時は驚きと迷いでいっぱいだった。
昨日は、周りが盛り上がってそちらに気を取られていた。
そもそも、なんでこんなことを勧めるのか、それを聞いていない。
「わたし、今けっこう派手でしょ」
吉乃は、先生に注意されないラインで制服を着崩している。実はメイクもしている。厳密には校則違反だ。
「中学まではね、真冬ちゃんみたいな感じだったんだよね。こんな美人じゃないけどね」
笑いながら言う吉乃は、十分かわいい。この場合の「真冬ちゃんみたい」は、黒髪ロングヘアーといったところだろう。
「清楚系ってさー、『変なの』寄ってくるんだよね。わたしでそうだったんだから、真冬ちゃんなんか余計でしょ」
真冬も心あたりがないわけではない。勘違いした男子に告られるのはまだいい方で、吉乃が言う『変なの』につきまとわれたこともある。今の世の中、雪女の能力を使って氷漬けにするわけにもいかない。せいぜい、カメラを冷気で使えなくするくらいだ。
「決まった彼氏いたらそういうの、寄り付かなくなるよ」
一理ある。か弱い女の子には付きまとえても、近くに男がいればひくというのはあるだろう。パパと一緒にいるときに『変なの』に絡まれたことはない。
「吉乃ちゃんのメイクとかヘアスタイルって、その対策?」
「うん、それと高校デビューね」
「なら、私もファッション変えればいいんじゃない?」
「一応、校則違反だから人には勧めないかな」
髪を染めたらストーカーがいなくなった、なんて話もある。外見を派手にするのも悪くない。でも、校則違反は気がひける。吉乃がやるのを止める気はないが。……もしかして吉乃の高校デビューもそういうことなのだろうか。
「彼氏いるメリットはわかったけど」
「でしょ? そこで、紹介できる相手でもいればいいんだけど。実はいないんだよね」
見た目の派手さに反して、言動がそうでもなかった吉乃の謎は解けた。恋愛関係も実は地味なのかもしれない。
そして、男の子の紹介。どこかで聞いた話だ。
「吉乃ちゃんは彼氏いるの?」
「いないよ。変なのが逃げてったの、親戚のお兄ちゃんを彼氏と勘違いされただけ」
「……じゃあ、男子紹介してもらえるから、吉乃ちゃんもいっしょに彼氏作ろう」
もう、こうなったら話を進めてしまった方が早そうだ。提案してきた吉乃も巻き込んでしまおう。
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真冬と吉乃が下校していたころ、湊は部活中だった。アップ、基礎練習、ゲームと、今日のメニューをこなす。やっぱり体を動かすのは気持ちが良い。
男子バレー部の大崎と顔を合わせた。真冬を紹介して欲しいと言っていた一人だ。少しばかり進展はあったものの、伝えるには早いだろう。期待させておいて、やっぱりダメでしたじゃ可哀そうだ。
今のところは適当に話をそらそう、と思ったところでスマホにメッセージが入った。真冬からだ。
「昨日の話、お願いします。私だけじゃなくて、吉乃ちゃんもいい?」
正直驚いた。昨日は迷っている様子だったから、もしOKがでるとしてももっと先だと思っていたのだ。吉乃もいっしょに、というのは二人はよく一緒に帰っているからだろう。
「大崎、真冬からOK出たよ。他の友達もいっしょだけどいい?」
「え?マジ!? やった、水津ちゃん最高!! 友達もくるならこっちも何人か呼ぶし」
「紹介するだけだってば」
「友達くるなら合コンだな! カラオケ? 映画館? 水族館……は、このへんにないな」
「その前に中間テストあるけど」
そうなのである。高校生になって初めての中間テストがもうすぐやってくる。来週から部活も試験前のため休みになる。
テストという言葉を聞いて少し嫌そうな顔をした大崎だが、すぐに気を取り直した。
「じゃあ、よろしく!」
「はいはい、テスト明けにね」
真冬に男子を紹介するのが、決定事項になった。自分が動いたとはいえ、話の進み具合が意外で仕方ない湊だった。
どうやって顔合わせをさせようか。紹介者として、初回は自分も居合わせるべきだろうなあ、などと考えた。




