第2部1話 初恋か新しい恋か
とある郊外の高校から、部活を終えた生徒たちが次々と下校していく。その中に、清楚な雰囲気の少女と、少し派手めな少女の二人組がいた。清楚な雰囲気の少女は真冬、少し派手めな少女は吉乃という。
「和菓子って美味しいんだね。茶道部に誘ってもらわなかったら知らなかったよ」
「だよね。抹茶とあわせて食べるとすっごくいい。抹茶味のお菓子はたくさん食べてるけど、抹茶は部活やるまで飲んだことなかったよ」
二人は茶道部の帰りだ。真冬はともかくとして、吉乃が茶道部というのは周囲からは意外と言われている。しかも吉乃の方が先に入部して真冬を誘ったのだ。
雰囲気に違いはあれど、二人は仲が良い。
「そういえばさ、『湊ちゃんとのデート』普通に遊んだだけなんだっけ」
そこで、吉乃が真冬に聞く。湊ちゃんとは二人の共通の友人で、真冬にとってはかなり特別な人だ。
「そうだよ。湊ちゃんがデートなんて言うからみんなはしゃいでるけど、普通に遊んだだけ」
「ええー。初恋の人との初デートなのに」
「男の子と勘違いしていたころの初恋ね」
高校で再会した初恋の人は、女の子だった。真冬がその事実を受け入れるまで、少し時間がかかったのだ。そのことは周囲の友人たちにもバレバレだったので、いろいろ言われた。最近は少しずつ落ち着いてきたけど、まだネタにされている。
「吉乃から真冬ちゃんに、一つ提案があります」
あきらかに、吉乃はわざと真面目な表情と口調を作っている。
真冬が続きを促すようなしぐさをすると、吉乃が意外な提案をしてきた。
「彼氏作ってみたら?」
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翌日、一年二組の教室で女子数名が盛り上がっていた。
「だめだめだめ、絶対だめだよ!」
「えー? それはそれでありじゃない?」
話題は、前日に吉乃が真冬に言ったことだ。
他の友人たちにもその話をしたら、賛成派と反対派に別れてしまった。
「つい最近二人は初デートをしたっていうのに!」
と反対派が主張する。
「デートって言ったのはあたしだけど、普通に遊んだだけだから」
と湊が言う。みんなには内緒にしてることはあるが、恋愛がらみではない。少なくとも湊はそう思っている。
「いやでも結局、二人は仲のいい友達だし。友情は別にして彼氏作ってもいいよね」
というのが賛成派の意見だ。
「彼氏作るって、そんなに簡単かなあ?」
と自分のことで盛り上がられている真冬が言う。
そこで、周囲がいったん静まりじっと真冬を見る。
「真冬ちゃんはその気になればいくらでもできるよ」
「うんうん」
艶やかな黒髪に白い肌。整った顔立ちに清楚な雰囲気。料理が得意で、初恋の相手に一途だった女の子だ。彼氏欲しいなんて言ったら、立候補者がたくさん出るに違いない。
実際に中学時代は、何人もの男子に告白されていたらしい。同じ中学出身者からの情報だ。
「かっこいい人に告られたら、付き合っちゃえば?」
「真冬ちゃんは中身重視でしょ」
「付き合わなかったら、中身もわかんないじゃん」
湊のことだって、最初は友達として仲良くなったのだ。一目惚れではない。優しくって、いっしょにいて楽しかった。でも、今の真冬に親しい男子はいない。友達からといったら道のりは遠くなる。
「そもそも、私は彼氏欲しいって言ってないけど」
そうなのである。吉乃の提案にみんなが盛り上がっているだけだ。
「やっぱり湊ちゃん?」
「そういうわけじゃなくて……」
正直、彼氏が欲しいとそこまで思っていない。湊ちゃんが男子なら付き合いたかったかもしれない。女の子でも関係ない、とはいかない。湊ちゃんは大好きな友達だ。今の真冬がわかっているのはそこまで。
この場でそれを目の前の友人たちに説明するのは、なんだか少し気後れする。別に恥ずかしいことではないけど、なんとなく。
考え始めた真冬の横で、輪の中の一人が聞いてきた。
「真冬ちゃんの好みってどんな人? 湊ちゃん以外で」
「え?」
「湊ちゃんのどこを好きになったのかは聞いたけど、好きなタイプは聞いてないよね。推してるアイドルとかいる?」
「特にいないけど」
そこから周りの女子たちが、それぞれ自分の推しについて語り始める。アイドル、インフルエンサー、VTuber、何かのキャラクター。推しはいないと言った真冬に、布教を始める子もいた。
真冬は、話が自分のことから外れて少しホッとしていた。自分でも整理がついていないことだ。彼氏がいても、欲しいと思っても、おかしくない年頃なのはわかっている。
さて、自分は誰かと付き合いたいのだろうか。周りの話を聞きながら、そんなことを考える真冬だった。
帰り道、吉乃と別れて電車に乗って、自宅の最寄り駅に着く。小さな無人駅を出ると、軽トラで祖母が迎えに来ていた。
真冬の自宅から駅までは距離がある。都会なら自転車でなんとかなる距離だが、このあたりでは野生動物が出るので住民は基本車移動である。
「今日はお迎え、ばあばなんだね」
「ママはオンライン会議? で抜けられないんですって」
真冬が歳を重ねたらこんなふうになるだろうというような祖母だ。上品な着物を着て、大きな邸宅にでも住んでいそうな雰囲気の持ち主である。実際には、畑仕事からそのまま来たらしく、作業着だ。祖父母は農業をやっている。
祖母が運転席、真冬が助手席に乗り込む。軽トラと不似合いな二人であるが、日常風景だ。軽トラが出発すると、真冬が聞いた。
「ばあばは、どうしてじいじと付き合って、結婚したの?」
「あら、聞きたい?」
ウフフ、と笑ってから祖母は盛大に惚気話をした。
「若いころのじいじは、とってもハンサムでね。今も素敵だけど。それにとっても気も合ったし、もうこの人だ! ってなったからがんばってアプローチしちゃったの」
幼いころから何度も聞いた話を、改めて聞かされただけだった。
真冬が今考えていることの、ヒントにはならなそうだ。
自宅に着いたあと、仕事の終わった母にも聞いてみたが、祖母と結果は変わらなかった。両親、祖父母がそろってラブラブなのは、良いことなのだけれど。
真冬の知っている限り、雪家の女性陣は外見と中身ともにストライクな相手を見つけていた。真冬にとっては、湊ちゃんがそうだと思っていた。……女の子だとわかる前までは。
その日の夜、真冬のスマホに湊からメッセージが入った。
「昼間の話だけど、真冬って普通の人と付き合って大丈夫なの?」
真冬が彼氏を作るかどうかについて、湊は何も言わなかった。こんなことを気にしていたらしい。真冬は実は「雪女」であり、湊にはそれを明かしている。
「大丈夫だよ。別に呪ったりとかないよ」
「同族じゃないとダメとかってない?」
雪女の同族とはなんだろう。雪男は別物な気がする。
「パパもじいじも普通の人だよ」
雪女である母と祖母ににべた惚れされて、両想いになったごく普通の人間だ。二人とも婿入りで、それは珍しいかもしれない。だが、それは雪女は関係ない部分だ。
「じゃあ、真冬がオッケーなら彼氏作るのはいいんだね」
(湊ちゃん、私のこと考えてくれてるのは嬉しいけど。なんだかずれてるなあ……)
と真冬が思ったところで、湊の次のメッセージが送られてきた。
「男子バレー部の何人かに、真冬のこと紹介してって言われてるんだけど、興味ある? ないなら断るけど」
女友達から男の子を紹介されるのは、おかしなことではないだろう。
初恋の人から男の子を紹介されるのは、モヤモヤする。
真冬は、すぐに返事を返すことができなかった。




