第2部4話 予想通りの展開と上手くはいかない現実
「目黒、すげえ……。本当に上手い」
「パソコン部じゃなくて、軽音部のボーカルのほうがいいんじゃね?」
田町と田端は、目黒の歌唱力のことは知らなかったらしい。
「本当に知らない曲だ。知ってる?」
「知らない。でも、カッコいい曲だね」
と曲について話す湊と真冬。その隣で、吉乃が奏音の様子がおかしいのに気がついた。なんだか、そわそわしている。
「奏音、この曲知ってたりするの?」
「はい。最近メジャーデビューしたバンドの曲ですう……」
パソコン部の目黒、文芸部兼イラスト部の奏音。その二人だけが知っているマイナー曲。どんなジャンルの曲なのか、だいたい想像がつく。
目黒が歌い終わると、少し興奮した様子の奏音が話しかけた。奏音の好きな曲だったらしい。歌った目黒も当然好きな曲。マイナーな趣味の同志を見つけた二人は、あっという間に打ち解けて盛り上がった。
周りはすっかりおいてけぼりである。そして、目黒には詳しい大崎が曲についての予想を口にする。
「ケンのことだから、アニメの主題歌だと思う」
「大崎くん、惜しいです!」
「アニメ主題歌はデビュー曲。歌ったのはインディーズ時代の代表曲」
こっちの話は聞こえていないかと思いきや、二人そろって捕捉をいれてきた。そして、また周りにはついていけない趣味トークに戻っていく。
「ケンが女の子と喋ってる……」
「なに感動してんの。目黒くんのなんなのさ」
大崎と湊である。
「今の曲、気になるけど」
「聞いたら布教されるね、絶対。二人から凄い勢いで」
こちらは真冬と吉乃。
「目黒と坂東さん、お似合いな気したけど」
「予想通りすぎる」
最後は田町と田端の感想である。
真冬と会話しながら吉乃は思っていた。
(これで余ったの、わたしだけだなあ)
田町と田端は、眼鏡二人が仲良くなったことについて、こんなことを考えていた。
(ライバル一人減ったな。大崎か田端が脱落したほうがよかったけど)
(目黒、雪さん狙いっぽかったのにな。そのまま眼鏡ちゃんと仲良くなれ)
口には出さずに、内心にしまわれた思いもいくつかあった。
男女八人のカラオケは、楽しく終わった。この集まりで仲良くなったのは、奏音と目黒である。
彼氏彼女というより、趣味仲間といった雰囲気だが。
真冬と吉乃の彼氏作りが目的であったが、そちらは進んでいない。真冬は田町・田端と犬トークで盛り上がりはしたが、せいぜいお友達といったところだろう。
「今日はみんなありがとー! また遊ぼうぜ」
進行役の大崎が締める。会計を済ませて、全員でT駅まで移動した。
「奏音はここからバスです。皆さん、お気をつけて!」
「俺と田端、チャリだから」
「それじゃ」
奏音、田町、田端はT駅から電車を使わない場所に住んでいる。
「あたしと吉乃はホームこっち」
「今日は楽しかったよ。またね」
湊と吉乃は、同じ電車である。
「俺とケンはあっち。っておいてくなよ!」
「お前がだらだらしてるからだ。電車くるぞ」
幼馴染みの大崎と目黒はもちろん地元が同じだ。
「みんな、気をつけてね」
全員と別れた真冬は、一人でいつものローカル線のホームに向かい、乗客のほとんどいない電車に乗った。
電車に揺られながら、真冬は今日のことを思い返す。男女八人でカラオケ。目的は、自分と吉乃の彼氏作りだった。今日遊んだ男子たちは、どうだっただろうか。
一番話したのは田町か田端だろう。三人で犬のことで盛り上がった。楽しかったし、田町の飼い犬の写真や動画は可愛かった。
目黒とは話していない。そもそも彼と会話をしたのは、大崎と奏音だけだった。
大崎は、感じのいい男子だった。全員に気をまわしてくれて、上手く仕切ってくれていた。
彼らと今すぐ付き合いたいか、嫌かと考えてみても、正直よくわからない。
それより一つ、気になったことがある。
帰宅後、真冬はスマホで新しいメッセージグループを作った。メンバーは吉乃と奏音である。湊を仲間外れにするようで心苦しいが、湊以外の意見を聞きたい。
「大崎くんて、どう思う?」
「最初はお調子者かと思ったけど、実は気を遣えるタイプだったね」
「大崎くん、昔からああいうの得意らしいですよ」
奏音の情報は、目黒から聞いたのだろう。趣味の話でかなり盛り上がっていたので、連絡先を交換していても不思議はない。
「湊ちゃんの話だと、大崎くんに私のこと紹介してって頼まれたって」
「そうだったね。でも、真冬ちゃんとは話してなかったよね」
「ずーっと、湊ちゃんとおしゃべりしてましたねえ」
照れて話しかけられなかったのかもしれない。その可能性もなくはないだろうが。
「……大崎くん、湊ちゃん狙いだよね?」
「それっぽいよね」
「奏音もそう思いました」
真冬は、湊への気持ちを整理したり、自分は彼氏が欲しいのかを考えるのでいっぱいいっぱいだった。
しかし、湊は湊で人間関係がある。真冬と関係ないところで、それが変わることだってある。……もしかしたら、彼氏ができるかもしれない。
「湊ちゃんは気がついてなさそうだったけど」
「湊ちゃん、その手の話鈍いし。真冬ちゃんのことからして」
「奏音は真冬ちゃんを応援しますよ!」
湊には真冬には関わりのない繋がりもある。そんなのは、当たり前のこと。でも、実際に目の当たりにすると、思い知らされた気持ちになる。
「これは焼きもちなのかなあ」
自室でお気に入りのクッションに顔を埋めてつぶやく。
焼きもちだとして、それは友達としてなのか、恋心なのか。
一つ思いきって行動してみたら、前進しないで別の悩みができてしまった。
一方で湊はというと。
「今日はお疲れ様。大崎がいろいろやってくれて助かったよ」
「こっちがお願いしたんだから当然!」
大崎とメッセージのやりとりをしていた。男女それぞれの幹事だったので、連絡を取り合っているのも自然である。
「真冬とあんましゃべってなかったけど、よかったの?」
大崎は真冬のことが気になっていたはずだ。紹介したのに、ろくに話もできなかったとなると、少し気の毒な気がする。
「大丈夫! 今日楽しかったし! 俺せっかちじゃないから!」
そうか、ならよかった。今後仲良くなれるかは本人と真冬次第だ。田町と田端の「田田コンビ」に先を越されたとしても、そこまで湊が責任を感じることはない。
少し時間を遡り、帰宅途中の大崎と目黒はこんな会話をしていた。
「ケン彼女できそうじゃん。よかった……」
「違う。坂東さんは趣味が合うだけ!」
ムキになって反論する目黒、相手が女子であることを、多少は意識しているのかもしれない。
「じゃあ、やっぱり雪さん? 雪さん来るって言ったら来たがったもんな」
「半分正解、でもお前の考えてるのとは違う」
大崎は少しだけ考えて、目黒の言う正解にたどり着いた。
「わかった、あれだ。タンポポじゃなくて、薔薇じゃなくて、なんか花の名前の、女の子同士のやつ」
「百合。覚えないのはともかく、薔薇と間違えるのだけは止めろ」
意味を知っている人間にとっては、とんでもない覚え違いをしていたが。
「有名な美少女が現実で百合なんて、そんなの見たいに決まっている。お前と田田コンビのせいで、見られなかったじゃないか」
とても悔しそうな目黒だった。真冬と湊の噂は他のクラスまで伝わっていたらしい。内容の正確性には疑問があるが。
今回のカラオケでは、真冬は田町・田端と、湊は大崎と主に会話をしていた。そのため、真冬と湊が二人で話をすることは少なかった。
「それよりお前こそ。雪さんじゃなくて水津さん目当てだろう」
「……なんでバレてんの」
「初恋は女子で一番足の速い子、つぎはボーイッシュ女子、中学のときはバスケ部女子が好きだったんだ。どう考えても、雪さんより水津さんだろうが」
幼馴染みの男子二人は、道中ぎゃあぎゃあ言いながら帰っていった。
おまけの田町と田端。こちらも途中までは同じ道筋である。
「雪さん、近くで見てもめちゃくちゃ可愛かったなあ」
「色白いし、髪きれいだし。真冬ちゃん最高だな」
「お前なに名前で呼んでんだよ!」
「田田コンビ」も道中ぎゃあぎゃあ言いながら帰っていった。自転車で。
それぞれの思いを胸に秘め、合コン?は終わったのだった。




