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影の追跡と、禁忌の扉

エリスの分析により、カフスボタンに付着していた塵は、街の地下深くに眠る「古代の魔導具」の破片であることが判明した。ラミエラたちは、その石がどこから運び込まれ、どこで実験が行われているのかを突き止める必要があった。


その夜。街が深い霧に包まれる中、ルナの使い魔である黒猫が、バラン家の屋敷の裏手にある「搬入口」へと影のように滑り込んでいた。


ラミエラはエリスの研究所に集まり、ルナと遠隔で意識を繋いでいた。

「……ルナ、聞こえる? 今、何が見える?」


ラミエラの脳裏に、黒猫の視界が投影される。

そこには、バラン家の執事と思われる男が、重い鉄の扉の前に立っている姿があった。男は周囲を警戒しながら、懐から禍々しい紋章の刻まれた指輪を取り出す。扉の魔導ロックにかざすと、鈍い音を立てて地下への隠し階段が現れた。


「……あそこよ。地下の実験場だわ」


ルナの微かな声が響く。彼女自身は自宅のベッドの中にいながら、使い魔を通じて、街の権力者さえ知らない禁忌の場所を覗き見ていた。


しかし、その直後だった。

画面の向こうで、黒猫の視界が激しく揺れた。


「ニャッ!」

小さな悲鳴とともに、黒猫の視界がぐるりと回転する。

地下の暗闇から、無数の「針」のような魔力弾が放たれたのだ。


「ルナ!?」

エリスがモニターを食い入るように見つめる。

「ダメ、見つかったのよ! 使い魔の存在が感知されたわ!」


「そんな……!」

ラミエラは息を呑んだ。

黒猫の視界は激しく乱れ、闇の中で何か巨大なものが動く気配がした。それは機械仕掛けの護衛兵か、あるいは魔導具によって変異させられた異形の何かか。


ルナが懸命に黒猫を操り、影に溶け込ませようとするが、相手の魔力探知は執拗だった。

「……ごめんなさい、ラミエラ。あの子、戻せなくなるかも……!」


ルナの切迫した声に、ラミエラは瞬時に判断を下した。

「いいえ、帰して! 情報を持ち帰るのが最優先よ!」


ラミエラは肩のチョウチョさんに念を送った。

「お願い、あの子を誘導して!」


ラミエラの指示を受けたチョウチョさんが、光の粉をまき散らしながら窓から夜の街へ飛び出した。それは単なる蝶ではない。蟲のネットワークを介し、街中の影と光を操るラミエラ独自の「通信回路」だ。


チョウチョさんは、バラン家の敷地を越えて一気に急降下し、黒猫の周囲に「光の壁」を展開した。追っ手の魔力を攪乱し、影の通り道を作る。

黒猫はその導きに従い、猛スピードで通気口を駆け抜け、屋敷の外へと飛び出した。


数分後。

ボロボロになりながらも、黒猫がエリスの研究所の窓から滑り込んできた。

ルナの意識が、ようやく現実に引き戻される。


「……持ち帰れたわ」


ルナの震える声。エリスが即座に黒猫の記憶から残された映像を抽出する。

そこには、先程までの映像とは比べ物にならないほど鮮明な、地下実験場の奥底の光景が映し出されていた。


並べられた培養槽。その中に浮かぶ、かつて街から姿を消した人々の面影。

そして、その中央で実験を指揮していたのは――。


「……これって、騎士団の紋章じゃない」


エリスの言葉に、部屋が凍りついた。

実験場の壁に掲げられていたのは、バラン家の紋章だけではなかった。それは、騎士団の幹部が密かに使用を許可したという証である、極印だったのだ。


ラミエラは言葉を失った。

自分たちが信じ、守りたかった人たちが、この街の最大の闇を隠蔽していたのだ。


「どうするの、ラミエラ?」


エリスの問いに、ラミエラは黒猫の頭をそっと撫で、窓の外に広がる、何も知らない市民たちが暮らすギネタールの街を見下ろした。

その瞳には、もう迷いはなかった。


「……バラすわ。騎士団がどれだけ隠そうとしても、この真実を街中の人々に知ってもらうの。それが、私の戦い方だから」


小さな冒険者たちの、権力への静かな挑戦が、今まさに本格化しようとしていた。

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